駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

希には素人が当たっている事があるとしても

2017年05月13日 | 医療

     

 連休明けに細面の一寸神経質そうな若い男が長引く咳で受診した。微熱咽頭痛鼻水が軽快して一週間以上経つのに咳が続くと訴える。診察しても僅かに喉が赤い程度で特別な異常所見はない。風邪の後に咳が長引いているんですよと、鎮咳去痰剤を処方しようとすると納得いかなさそうに胸の写真を撮ってくれと言う。その必要はありませんと答えると不満そうに食い下がる。同僚に咳き込んでいるのを見られて、肺炎じゃないのかと言われたのだ。医者の私が必要ないと言っているのにと嫌な気がしたが、初診だし絶対違うかと言われればマイコプラズマ肺炎などの可能性も0.5%位はあるだろう。いたずらに争う時間は無駄と妥協して撮ることにした。何せ日本の医療は出来高払いなので病名を咽頭炎から気管支炎に昇格させれば保険で胸の写真を撮ることは可能だ。よっぽどそれでは自費でと言ってやろうかと思ったがこういう人は何と言いふらすか分からないので、肺炎の影はありませんと説明してお引き取りを願った。

 一体素人と医者とどこが違うかと言われれば、大まかに言って知っている病気の数と診断的中率が違うだけだ。それと素人は無責任で外れればわしゃ知らんそんなこと言ったかで済むし、当たればそれ見ろ俺の言ったとおりだと吹聴できるところが違う。

 病気によって違うし病人によって違うから、大体だが問診をして診察をすれば90%は診断が付く、検査をすればそれが95-99%に上がる。唯、検査には費用が掛かる。簡単な血液検査や胸部写真であればそれほどでもないがCT、MRIとなるとかなりの額になる。実はこうした検査をしなくても、少し経過を見れば診断率は95-99%と上がる。だから、かかりつけ医であれば患者の信頼を得て廉価で効率の良い診療が可能なのだ。

 高い精度を望めば望むほど幾何級数的に費用が嵩む、医者は神様ではないが専門家なので、その判断を尊重して欲しい。妥当な線を辿らなければ日本の医療は破綻してしまう。

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