駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

昔は歩くしかなかった

2012年08月29日 | 医療

           

 先日の新聞の見出しに生活習慣病で医療費増加とあった。

 日本は山国である。ごく一部の地域を除いて海から小一時間内陸に車を走らせれば山に分け入る。今年87才のSさんは市内から一時間ほどの山奥の生まれという。時々、記憶力を確かめる意味もあってお年寄りの患者さんにどこで生まれたかと聞いてみる。ちょっと認知がかった人でも昔のことはよく覚えており、喜々として話をしてくれる。なかなか止まらなくなって困ることもある。*郡*村**と言われても、他の土地からやってきた私にはピント来ないのだが、

 「周りはみんな山よ、昔はうんと雪が降ったから。こんな細い山道しかないの」。

 「へー」。

 「私は4月5日の生まれになっているけど、本当は2月5日の生まれなのよ」。

 「あ、そうなの」。

 「七十過ぎまでずーっと4月生まれと思ってたら、上の姉があんたは2月5日に生まれたのよって教えてくれたわ、ほっほっほ」。と笑う。

 「雪で、爺さん役場まで行くのが大変だったらしいわ。昔はそんなこと珍しくもなかったのよ」。

 「なるほど」。と面白い話なのでいつまでも聞いていたいが、次の患者さんが待っているので、そっと看護師に目配せをして腰を浮かせて貰う。

 信じ難い本当の話だが、歩くしかなかった昔は糖尿病や痛風は贅沢病と言われ、今よりうんと少なかった。Sさんが子供だったのは昔のようで、ついこの間のことだ。国民病は生活習慣病と物忘れのようである。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする