駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

誠実な詐欺師

2011年09月14日 | 

 

 

 トーベヤンソンはムーミンの作者として有名であるが小説も書いている。FMヨコハマの北村浩子さんの書評で「誠実な詐欺師」という作品を知り、ネットで手に入れ読んでみた。と言うのはトーベヤンソンにはバルト海の孤島に暮らした強靭な謎の人物と興味をもっていたし、訳者の冨原真弓さんにも跳躍力のある魅力的な女性という印象があり、きっと読み応えのある作品だろうと思ったからだ。

 北欧の雪に閉ざされた漁村の暮らしを背景に、姉が弟に贈り物をしようと誠実な詐欺を企てるところから話が展開する。

 幻想を持たない実務家の姉カトリ、世間知らずの資産家で芸術家のアンナ、ボート作りに夢中のカトリの弟マッツの三人とカトリの飼い犬シェパードが誠実な詐欺行為によってお互いの心に踏み入り、心の纏う殻が剥がれて変化してゆく様子が克明に描かれてゆく。人間の個性と精神がくっきりと浮かび上がり、強烈ではあるが不思議に物静かな読後感が残る。

 勿論、トーベヤンソンという個性なくしては生まれない話だと思うのだが、強く北欧の風土を感じた。何時か読み返す予感がある。

コメント
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