駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

狐と狸では困る医師と患者

2009年04月08日 | 医療
 国民病とも言える高血圧診療での話。現在、血圧の評価には家庭での血圧測定が大きな意味を持ってきている。患者さんの中にはどうも医師の前に来ると緊張して血圧が高くなる、所謂白衣性高血圧の方が一定数居られる。
 そうではあるが、どうも家庭血圧が良好な白衣性高血圧が多すぎるのではないかと疑いを持った高血圧の専門家が四国におられた。そこで彼はある実験を思いついた。患者さんには申し訳ないが、測定した時刻と血圧が自動的に内部に記録される血圧計をそのことは内緒にして患者さん貸し出してみた。その結果、正直に測定値を書かず、140を130とかに割り引いて記載してくるとんでも患者さんがたくさん見つかったのだ。どうも石川五右衛門を持ち出すのは大げさで気が引けるが、軽い気持ち?でちょっと嘘を書かれる方が結構おられるのだ。これは誠に遺憾で困ったことだ。
 最近は診察では思いやりや気遣いが大切と強調され、会話が尊重されるようになった。そのため医師と患者は対等に会話をする雰囲気ができてきた。そのことは良いことなのだが、気を付けないと医学が科学から商取引に変容してしまう。以前にもこのブログで指摘したことだが、患者さんが第一義に向き合わねばならないのはご自身の病気であって、診てくれる医師ではないのだ。値引きの交渉をするなら医師とではなく病気としなければならない。病気は残念ながら口先の交渉では絶対に譲ってくれない。継続した生活習慣の改善や正確な服薬によって始めて改善軽快の道が開けてくる。
 一昔前は医療に於ける信頼といえば医師の信頼性が問題とされてきた。ところが、調べると予期されたことではあるが患者さんの信頼性にも陰りがあるのが明らかになった。こんなことで相討ちは頂けない。相互の信頼関係があって始めて、納得の結果がもたらされるのを肝に銘じたい。
コメント (2)
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