その朝の学校の前庭は冷え込んだ。学年末の高校終業式も終わりの頃に退職の挨拶した。一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ方式の挨拶を用意していてよかった。この寒さでは聞かされる方はつらい。
私の前にセントポールズ高校(アメリカ)からの男子留学生のお別れの挨拶があった。一年間日本で暮らした。日本人の本音と建前の文化についてのコメントがあり建前がコミニュケーションを駄目にする場合があるという鋭い指摘があった。
それを受ける形で私の番になり少しだけ余計な言葉が入った。生徒の皆さん、同僚の先生方、職員の皆さんの後に、「私は本音で申し上げたい」が急遽入ってこの学校の教師であって幸せでしたと続けた。33年にはヘー、非常勤で来ますにはナーンダと反応する。短さにおいては好評だろうと考えていた。
この日数学科の部屋には高校2年生の大部分が春休みの宿題プリントを受け取りに来ることになっていた。そこでは今朝の私の短い挨拶について何人かが向こうから話してきた。「この学校の教師であって幸せでした」 と言う文句にぐっと来たとか、感動したとかおっしゃる。今日の先生はカッコよかったよ。これほど効果的とは予想していなかった。なるほどこういうのを殺し文句というのであるかとその時に気付いた。この古くて新しい秀逸なワンフレーズをご教授くださった方にこの場を借りてお礼申し上げる次第である。