玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*評論家・川本三郎

2023年01月12日 | 捨て猫の独り言

 川本三郎氏は、2008年に妻を癌でなくしている。私は2010年に刊行された「いまも君を想う」を読んだことで著者に親近感を抱くようになった。その本で武蔵野美術大学の学生だった大塚恵子さん21歳と結婚し、三鷹市あたりに住んでいたこと、そして亡き妻の墓は小平霊園にあることなどを知った。

 川本氏の寄稿文が昨年の暮れに新聞に掲載された。彼が私と同じ1944年生まれであることを知り、さらに興味深く読んだ。昭和19年生まれは近代日本の歴史の中でも幸せな世代と言うことでは同じ思いだが、私はその理由を高度経済成長に求め、彼は徴兵と結核の二つの大きな死と無縁だったことをあげていた。

 寄稿文の見出しは「妻に先立たれ14年悲しみや寂しさは消えずに共にある」だった。その冒頭には民芸運動家の柳宗悦のつぎの言葉が引用されていた。「悲しみのみが悲しみを慰めてくれる。淋しさのみが淋しさを癒してくれる」柳宗悦の墓も小平霊園にある。彼もその墓に参ったことだろう。

 今好きなことは三つあるという。「ローカル線の旅、台湾、そして敬愛する作家、永井荷風。ローカル線に乗って地方の小さな町へ行くと自分の子供時代の風景が残っていてほっとする。台湾は家内と旅した思い出の地。そして荷風。芥川や太宰のように夭折せず79歳まで生きた。独居老人であることにも共感する」私も好きなことをもっともっと増やしたい。

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