私の場合の海外旅行は、日本の食文化の素晴らしさを再認識するための旅であることが多い。中国を旅すれば中華料理は当たり前だが同じメニューが毎回続くことには閉口する。初日の上海の夕食時に紹興酒を特別に注文した。何年ものかと聞かれて即座に八年と答えたが、その値段を聞いて慌てて三年ものに変更した。750mlで100元(1600円)であった。脂っこい中華料理に紹興酒は合う。ところが団体旅行では酒を味わいながら食事するという十分な時間が保証されない。夫婦で参加の隣席の先輩男性に手伝ってもらった。それでも飲みきれずに瓶をホテルに持ち帰った。
帰国の翌朝に、旅行前に注文していた八年陳紹興酒6本セットが届いた。750mlの1本が1980円だ。上海で飲まなかった八年ものである。比較のためそれとは別に関帝十年640mlの3150円を1本だけ注文していた。旅行中またはその後を通して私の舌では三年も八年も十年もそれほどの違いを感じない。それにこの酒は毎晩飲むには飽き飽きしてしまう。日本酒の清冽な味わいに勝る酒を、上質な白ワインの他に私は知らない。旅の初日に残った紹興酒は小さなペットボトルに移した。それを2日目の夕食後に蘇州から北京に向かうノンストップの特急寝台列車の廊下で車窓の闇を眺めながら一人で飲んだ。酒に関する限りでは慌しくて侘しい旅になるのは止むを得ない。その後旅行中の食事時はもっぱらビールであった。3日目の昼食にサービスで50度の焼酎が緑の小瓶で出たが私を除くと皆さん軽く舌に転がすだけであった。
日本酒党でよく国内旅行に出かける知人がいる。旅行記録であるITINERARYと題したプリントをいただいたことがある。それには、目次、月日、曜(日)、発着地、発着時間、交通機関名、摘録、宿泊先の欄がある。摘録の欄には求めた地酒の品評やら二合で値段はいくらだの克明に記録されている。知人の旅はコースや宿の予約など自前で計画する。これなら陶然とする時間が必ず保障されて、理想の旅だ。
最近日本酒の古酒を楽しむ人が増えているそうだ。 「日本酒は光の当たらない場所で保管すれば、自宅でも醸成できる。酢になるどころか一定の時期をすぎるとよりおいしくなる時がある。その瞬間を私達は解脱と呼んでいる」 と長期醸成酒研究会顧問は話す。東京品川駅前にあるバー 「酒茶論」 のカウンターや棚には古酒がずらりと並ぶ。2種類の飲み比べセットは1500円から楽しめる。伊勢丹新宿本店では今年の3月末から日本酒売り場に古酒専用のセラー(酒蔵)を設けた。4合瓶で1500円前後のものが売れ筋だという。この新聞情報は記憶しておこうと考えた。
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