玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*長編小説「魔の山」

2022年09月15日 | 捨て猫の独り言

 トーマス・マンの「魔の山」は、とにかく長編だということしか分かっていなかった。読書のきっかけは村上春樹の「ノルウェーの森」に出ていたからという単純なものだった。文庫本(2社)があることは後で知った。最初に手にした集英社の全集は上・下2冊になっていた。かなり古い本でページをめくるたびに嫌なにおいが鼻を突いた。

 これはたまらんと別の図書館に行き、第5章からは筑摩書房の全集に変更した。これは比較的新しく、各ページ3段組みで分厚い1冊になっていた。翻訳者が変ったことに気付いたが、すぐに気にならなくなった。日数をかけて少しずつ読み進む。ひたすらページ数を消化することが目的になり睡魔に耐えながら読んでいる時もあった。2週間ほどかけて読み終えた。(国分寺の古美術店)

 大雑把にまとめると、スイスの高山にあるサナトリウムで療養生活を送る無垢なドイツの青年がロシアの夫人を愛し、理性と道徳に信頼を置くイタリア人の民主主義者と、ユダヤ人の虚無主義者の2人の「教育者」などと知り合い、主人公が樹木の年輪のような人間形成をしてゆくという、ドイツ教養小説の大作である。

 つまり西洋哲学入門書のような小説だ。とくに時間についての考察が鋭い。①ぼくたちは空間を視覚や触覚で知覚する。時間を知覚する器官はどれだろうか?②草が伸びるのが誰の目にも見えないのに草はひそかに伸びていてある日になるとそれが誰に目にも明らかになる。長さをもたない点ばかりが集まってできる線のような時間。つまり時間はゆるゆると眼に見えない、ひそかな、それでいて勤勉なやり方で、いろいろな変化を生じさせつづけてきたのである。

 

コメント
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