久しぶりに、良いニュースがありました。
ヨルダンと日本の原子力協定の国会での承認が、4月に引き続き今月24日の国会でも見送られました。
これは、NPO法人「環境・持続社会」研究センターの田辺有輝さんの国会での発言が大きな歯止めの役割を果たした結果です。
以下、今月8月の初めの彼と福島瑞穂さんの対談のリンクと全文を貼り付けます(瑞穂さんのブログより)。
なお、途中瑞穂さんが途中「原発事故が起きたときのリスクを輸出側が負う」ことを心配されていますが、これは契約によるのではないかと思います。しかし、相手国が返済できない状態になったときは貿易保険が使われるので、間違いなく間接的に日本国民に負担がはねかえることになるでしょう。
http://mizuhofukushima.blog83.fc2.com/blog-entry-1895.html
福島
どうも皆さんこんにちは。今日は「環境・持続社会」研究センターの田辺有輝さんに来ていただきました。原発の海外輸出の問題について、政府は原発の海外輸出をあきらめたとは言っていません。議論にはなっていますが、どういう問題があるのか、しっかり話をしてもらいたいと思っています。
私も10年前、日本のプラント会社が台湾に原発を輸出するというので、当時、衆議院議員の山内恵子さん、北川れん子さんと一緒に3人で台湾の現場に出かけたことがあります。今、とりわけ原発輸出が言われているので、そのことの問題点を、今日は田辺さんにしっかり語っていただきます。よろしくお願いします。
田辺さん、今、日本の原発輸出の計画はどういうものがあるか、話してください。
田辺
福島事故の前までは、まず一番有力だったのはアメリカでした。ところがアメリカは福島の事故でこれは採算が合わないと現地の企業が言い出しまして、今それで中断しています。次に有力だったのがベトナムでした。ベトナムは引き続き、事故以降、特にやめるということは言っていません。
今、経済産業省の予算を使って調査しているところなんですが、この後続けば実際に輸出ということになると思います。それから福島事故以降大きなテーマとして上がってきたのがリトワニアの原発で、日立が優先交渉権を獲得したんでこれから交渉してもし続けば、JBIC(国際協力銀行)の融資がつくかもしれないというところですね。 後はトルコで、トルコは福島の事故以前に交渉をしていたんですが、事故の後に日本が検討すると言ったので、だらだらしていると韓国とまた交渉しちゃうよということで脅しをかけてきているというような状況です。
福島
7月にギリシャに行ったときに、トルコに占領されているキプロス、あるいはギリシャも、トルコは地震が大変多いですから、トルコが原発を建てるということに周辺の国やキプロスは大変危機感を持っていて、何とかやめてほしい、反対という声もものすごく聞きました。地中海全体がどうなるかという話ですね。
田辺
ベトナムでも、タイの方々はベトナムに近い地域なので、ベトナムに建設するのは反対だということでデモや集会をやっているような状況です。
福島
日本を脱原発にするということと、世界の中でも原発を減らしていく、なくしていくということがだいじだと思うんですが、一方で日本が原発を輸出するという問題があるわけですね。
原発を輸出する問題点について話してください。
田辺
いろんな問題点があるんですが、まず大きいのは安全性だと思います。例えばベトナムは2007年にODAで日本が融資した橋が大崩落して死亡事故が起こった例もありますし、それから汚職の腐敗が非常に激しい国ですので手抜き工事などもあると言われています。技術・施工・運営がきちっとされないと原発はきちんと動かないものですから、その点で第一に、技術の裾野、安全性の裾野がしっかりしていない国に、輸出する、原発を持っていくというのは非常に大きな問題です。
それから二つ目としては経済性の問題があげられると思います。例えばアメリカなどでは、すでに再生可能エネルギーの方がコスト的に優位で、そういうことがあってアメリカの事業者はやめているわけで、これを仮に新興国に持って行った場合にも同様なことが言えるんじゃないかと思っています。経済性の点では、通常のコストもそうですが、事故が起こった際に、日本でもこれだけ国家財政にのしかかってくるわけですから、途上国で10兆円とか20兆円という財政負担がかかるとすればものすごい負担になるだろうと思います。
福島
日本の事故もチェルノブイリの事故もそうですが、国境を越えて放射性物質が流出するということもあるので、被害という面もありますし、全ての人の命がそれで危機に陥るわけですものね。それで、アメリカに輸出する際もアメリカのシティ銀行などは、あまりにもコストがかさむのでリスクが高いという判断をしたとも聞いているんですね。
もう一つ、日本が原発を輸出するという時に、JBIC(国際協力銀行)がかんでいると。つまり、原発を輸出すると、日本が儲かると思うかもしれないけれど、どうってことない、日本の財政投融資などが債務保証、あるいは融資というかたちで使われる可能性があり、ベトナムの場合には実際そういわれていますので、結局日本の国民のお金が使われる、しかも工事が長期化して膨大になると輸出するプラント会社などは儲かるかもしれないけれど、国民にとってはどうなのか、JBICのことなどについて話していただけますか。
田辺
例えばJBICが福島事故以前に検討していたアメリカの例で言うと、アメリカのテキサス原発では4千億円の融資がJBICから期待されていました。4千億円という数字は、JBICの資本金が1兆円ですのでその4割に当たると。これがもし焦げ付いたらまるまる国民の税金で負担しなくちゃいけないということで非常にリスクが高い案件だと思います。
例えば、韓国がUAEに原発の輸出を決めましたけれど、あれも約1兆円を出すといわれています。ただ韓国は自分でお金を持っていませんので、国際市場から調達して、韓国とUAEの間ではUAEの方が格が上ですので、韓国が高く国際市場から借りてきて安くUAEに出すということで、韓国の例はまさに、失敗してもいないのに国民負担がのしかかっているという状況です。
福島
JBICのお金の出し方、融資をするというときに、日本の国民の何が使われるんでしょうか。
田辺
JBICの資本自体は主に一般会計から出されているんですけれど、財政投融資、今は財投債ですが、いわゆる国債が使われています。なので、国債でJBICだと10兆円くらいの規模で運営していますので、国債を買っているのは銀行とか郵便貯金、年金ですので、われわれのそういったお金がJBICの融資に当てられているということです。
福島
国債を買っていらっしゃる国民のみなさんもいらっしゃるでしょうが、年金機構のお金は国債を買って運用したりもしていますし、そうすると大事に使ってもらわなければいけないお金で、運用することがどうかという議論も国内にはあるのですが、それが原発の輸出のために使われるとするとほんとにリスクが高いという、そんなことのために日本の国債、財政投融資を使うな、という面もすごくあると思うんですよね。
だから、ある企業が勝手に海外に原発を輸出するという話ではないというところが、この原発輸出、国策として輸出するところのミソだと思うんですがいかがでしょうか。
田辺
銀行、郵便貯金のお金が使われるということで、失敗したらそれをわれわれ国民がかぶるということですね。
福島
しかもダムや道路の建設もそうですが、原発の建設もどんどん初期よりも膨れ上がるということがありますね。しかもベトナムも今原発はゼロなわけですから、これから立地を決め、法律を作り、体制を作りなので、ほんとにうまく行くかどうか、うまく稼働するかどうか、安全なのかどうか、期間に終わるかどうか、そして原子力賠償損害機構法案、今まさに参議院で議論中ですが、その問題も起きますものね。
つまり、原子力発電所が事故を起こしたときに、それを誰が負担するのか。焦げ付いたり、パーになると回収できないということになると、国際をつぎ込んだら日本はそのまま負担をするんでしょうか。
田辺
JBICは引当金というのを積んでいますけれど、仮に4千億が吹っ飛ぶとそれでは全然足りませんので、JBICの今の規模を維持しようとするとやはり一般会計から出さざるを得ないでしょうね。
福島
原発はとてもリスクの高い電力だということが明らかになったわけで被害が起きたら大変ですものね。人命とお金と両方ぶっ殺してしまうという。
田辺
日本では経済産業省の中で、原発を推進している部署とチェックしている部署が一緒だと、これはガバナンス上問題じゃないかと言われていますけれど、まさに輸出においても、輸出の許可を出すのは経済産業省なんですが、このままいくと、JBICが最終的にお金を出す前にチェックするんですが、現状のフレームワークで行くと、原発を推進している経済産業省が原発危機のチェックをする、安全性とか、核拡散のチェックをするという体制になっていますので、これはまさに原発輸出においてもガバナンスの欠如ということがあると思います。
福島
たしかにそうですね。日本の中に原発を建てるんだったら、保安院の審査がある、それがでたらめだったというのは福島原発事故で明らかになったわけですが、それを輸出したさきのベトナムで安全審査基準がどうなるかはわからないですものね。
田辺
今検討されているとは思うんですが、日本でも安全性は、技術的には後から考えれば、堤防を高くする、電源を確保するとか、別に技術的にそんなに大きなハードルがあったわけではないのですが、チェックしている体制というところでチェックしきれていなかったのが大きいと思いますので、まさにベトナムなどのようなガバナンスの国ですと、日本ももちろん問題ですが、日本以上に厳しいんじゃないかなと思います。
福島
原発輸出の時に経済産業省がチェックをし、全部経済産業省がやるからチェックができないというのはおっしゃるとおりですね。それから今、お話を聞きながら思ったのですが、原発を建てるときに安全かどうかという議論をし、環境アセスメントをやり、それから立てましょうというのが筋ですが、でも、原発輸出って、まず原発輸出するぞというのが先にあって(田辺:そうですね)、それから現地の安全性というのがあるとすると、最近やらせと結託、政官業学癒着がありますが、むしろ日本政府とベトナム政府とJBICがきちっと合意して輸出すると決めたら、そこでの安全性というのはものすごく場合によっては甘くなっちゃうんじゃないですか。
つまり、もういらない、建てないぞということがとても言えなくなってしまう。どうでしょうかね。
田辺
面白いのは、ODAで再生可能エネルギーというのは今わずか6%なんですね。これを外務省にもっと引き上げてください、もっと再生可能エネルギーをODAでやって下さいと言うと、いやこれはその国の意思決定があるからなかなかうちが再生可能エネルギーを押し付けるわけに行かないんですと言うんですよ。だけど原発は全然逆で、原発をやろうと日本が決めて、ODAで直接原発はやりませんが、ODAで周辺インフラをやるというようなことで大方針を掲げていますから、原発と再生可能エネルギーの温度差はものすごいですよ。
福島
そうすると、ODAで原発のまわりのインフラ整備をするんですか。パッケージインフラというのは、政府で2010年6月の新成長戦略でパッケージ型インフラ海外展開を提唱で、パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合で原子力発電重点分野と。このパッケージについてもう少し話していただけますか。
田辺
原発輸出をするには単に原発の機器だけでなく、いろんな研修をしたりするのがまず最初に必要ですし、原発の立地調査のお金も必要です。それから実際にウラン燃料を運ぶには港が必要ですし、原発作って送電線につなげるために送電線が必要。原発そのものへのODAはいちおうOECDで禁止されていてそれはできないんですが、例えばウランを運ぶための港を作る、周辺の道路を作る、送電線を作るというのは周辺インフラなので、それはOKだというふうに言われているんです。産業界はそこをODAでやってくれとものすごく要請しています。
福島
そうすると、日本の国内でいわゆる過疎地に対してやっていたことを、場所を変えて発展途上国に行くということですね。それが日本の中だと電源三法による交付金だったのが、ODAだったり、JBICが融資しますよ、負担かけませんと言いながら、でも危険を持っていくという形ですね。でも、日本国民にとっては、これは全然もうからない話ですよね。
田辺
もうからないというか、非常に経済的にリスクが高いですね。
福島
だから財政投融資を使うというところがやはり大きなことで、これが新成長戦略と言われているけれど、日本の成長や人々の幸せにはならないし、事故が起きればそこが問題だとなるわけですね。原発輸出はODAでは禁止されているのは、それは核不拡散の観点からですか(田辺:それは・・・)。
日本では脱原発依存社会というのを総理も発言し、脱原発の動きはほんとに強まっています。ただ、原発輸出は止まっていない。ベトナムについてもリトアニアについても止まっていないわけで、その点では日本の原発輸出を止めさせるように、もっと言えば、他の国の輸出についても、わたしたちはおかしいぞということを国際社会の中でしっかり言っていきたいと思っています。原発輸出、日本の損になるよ、日本の国民の損になるし、地元に危害を与える可能性があると、これを是非止めるように一緒にがんばっていきたいと思っています。今日はどうもありがとうございました。