「先週末も博物館・美術館をハシゴ(その2)」のつづきもまた回想から始まります。
その昔、神田神保町のすずらん通り、三省堂書店のちょい先に見事な建物が立っていました。
冨山房です。
1932年に竣工したもので、設計は、早稲田大学大隈記念講堂(1927年)、日比谷公会堂・市政会館(1929年)、津田塾大学(1931年)などを設計した佐藤功一。
私が初めてこの建物を観たとき、なんとキレイな、そして見事な建物なのだろうと感激したものでした。
ところが、それからまもなく(1985年)この建物は建て替えのため解体されてしまい、もう、写真
でしか見ることができません
。
ちなみに左の写真はこちらの本
から拝借しました。
昭和二十年東京地図 価格:¥ 3,570(税込) 発売日:1986-08-15 |
さて、なぜここで冨山房の話を、それも出版関係ではなく、建物関係
で持ち出したかといいますと、ニューオータニ美術館で観た「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の出品作の中にこちら
を見つけたからなんです
冨山房が編集して関係者に配布したもの(非売品)と思われる「新築落成記念 冨山房」(1932年)ですと
これは意外な作品に出会いました
さて、「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」は、金子國義さん所蔵の肉筆画「星祭り」(←大好き
)「茄子」とか、埼玉県立美術館(MOMAS)所蔵の紅梅図の着物と帯、舞台装置原画なんかもありましたが、基本的に本の装幀
の展示がほとんどでした。
そして、2年半ほど前にMOMASでの「小村雪岱とその時代」展(記事はこちら)で観たものと重なる作品も多かったのですけれど、やはり雪岱、いいなぁ~
そして、この2年半の時代の変化が、雪岱の装幀になる本に対する感慨を深めてくれます。
先日、Amazonからkindleの広告メールが届きました。
しばらく足踏み状態だった気がする「電子書籍」が、タブレット端末の種類が増えたことやWiFi環境が整ってきたことを背景にしてか、一気に花開いてきた気がします。
音楽の分野でCDからネット配信
にシフトしていったように、本も電子書籍にシフトしていくのでしょうか?
「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」で展示されていた芸術作品としかいいようのない美しい本
の数々を眺めていると、こうした「紙の本」
は、好事家のための奢侈品
になってしまのかなぁ…
と思ってしまいます。
寝台列車での旅行が、時間とお金
に余裕がある人たちのものになってしまったように…。
こんなことを考えながら「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の図録
を眺めていると、平田雅樹さんが、
雪岱の装幀本は、まさに手のひらの上の美術である。多色木版画技術の粋を凝らした数十度摺りの精巧なものから、黒表紙に黒一色摺りや光の反射で輝く膠摺など手にした者にしか分からないシンプルで繊細な意匠まで、多種多様な装幀で観る者を楽しませてくれる。他の国に類を見ないこの日本独特の書物の美も、電子書籍が主流となりつつある現代においては、アナクロニズムと言われれば首肯せざるを得ない。それでもなお、美しく装幀された書物という「オブジェ」は、手にする者を魅了し続けると筆者は信じる。
と書かれていました。
「紙の本」がアナクロニズムになるとは思えませんが、生きる道が狭まる可能性は充分にあります。そして、街の本屋さんはますます経営が厳しくなる
のは確実
だと思っています。
出版社は「電子出版」に移行すれば済むものの、街の本屋さんはどうしたらよいのでしょうかねぇ…
「紙の本」をネット
で買うことが多くなってしまった私ですが、たまに街の本屋さんに行って書棚や平台を眺める
と、ネットショッピング
では気がつくはずもない意外な本
と出会えます。
やはりが街の本屋さんなくなってしまったら困るだろうね、きっと…
ところで、「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の会期は今週末(11月25日)までです。
興味のある方はお急ぎください
つづき:2012/11/24 先週末も博物館・美術館をハシゴ(その4)
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