新・徒然煙草の咄嗟日記

つれづれなるまゝに日くらしPCにむかひて心に移りゆくよしなし事をそこはかとなく紫煙に託せばあやしうこそものぐるほしけれ

先週末も博物館・美術館をハシゴ(その3)

2012-11-23 14:03:08 | 本と雑誌

「先週末も博物館・美術館をハシゴ(その2)」のつづきもまた回想から始まります。

その昔、神田神保町のすずらん通り三省堂書店のちょい先に見事な建物が立っていました。

121123_2_03 冨山房です。

1932年に竣工したもので、設計は、早稲田大学大隈記念講堂(1927年)、日比谷公会堂・市政会館(1929年)、津田塾大学(1931年)などを設計した佐藤功一
私が初めてこの建物を観たとき、なんとキレイな、そして見事な建物なのだろうと感激したものでした。
ところが、それからまもなく(1985年)この建物は建て替えのため解体されてしまい、もう、写真でしか見ることができません

ちなみに左の写真はこちらの本から拝借しました。

昭和二十年東京地図
価格:¥ 3,570(税込)
発売日:1986-08-15

さて、なぜここで冨山房の話を、それも出版関係ではなく、建物関係で持ち出したかといいますと、ニューオータニ美術館で観た「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の出品作の中にこちらを見つけたからなんです

121123_2_02

冨山房が編集して関係者に配布したもの(非売品)と思われる「新築落成記念 冨山房」(1932年)ですと

これは意外な作品に出会いました

121123_2_01 さて、「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」は、金子國義さん所蔵の肉筆画「星祭り」(←大好き)「茄子」とか、埼玉県立美術館(MOMAS)所蔵の紅梅図の着物と帯舞台装置原画なんかもありましたが、基本的に本の装幀の展示がほとんどでした。
そして、2年半ほど前にMOMASでの「小村雪岱とその時代」展(記事はこちら)で観たものと重なる作品も多かったのですけれど、やはり雪岱いいなぁ~

そして、この2年半の時代の変化が、雪岱の装幀になるに対する感慨を深めてくれます。

先日、Amazonからkindleの広告メールが届きました。

121123_2_04

しばらく足踏み状態だった気がする「電子書籍」が、タブレット端末の種類が増えたことやWiFi環境が整ってきたことを背景にしてか、一気に花開いてきた気がします。

音楽の分野でCDからネット配信にシフトしていったように、電子書籍にシフトしていくのでしょうか?

「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」で展示されていた芸術作品としかいいようのない美しい本の数々を眺めていると、こうした「紙の本」は、好事家のための奢侈品になってしまのかなぁ…と思ってしまいます。
寝台列車での旅行が、時間お金に余裕がある人たちのものになってしまったように…。

121123_2_05 こんなことを考えながら「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の図録を眺めていると、平田雅樹さんが、

雪岱の装幀本は、まさに手のひらの上の美術である。多色木版画技術の粋を凝らした数十度摺りの精巧なものから、黒表紙に黒一色摺りや光の反射で輝く膠摺など手にした者にしか分からないシンプルで繊細な意匠まで、多種多様な装幀で観る者を楽しませてくれる。他の国に類を見ないこの日本独特の書物の美も、電子書籍が主流となりつつある現代においては、アナクロニズムと言われれば首肯せざるを得ない。それでもなお、美しく装幀された書物という「オブジェ」は、手にする者を魅了し続けると筆者は信じる。

と書かれていました。

「紙の本」アナクロニズムになるとは思えませんが、生きる道が狭まる可能性は充分にあります。そして、街の本屋さんはますます経営が厳しくなるのは確実だと思っています。
出版社は「電子出版」に移行すれば済むものの、街の本屋さんはどうしたらよいのでしょうかねぇ…

「紙の本」ネットで買うことが多くなってしまった私ですが、たまに街の本屋さんに行って書棚や平台を眺めると、ネットショッピングでは気がつくはずもない意外な本と出会えます。
やはりが街の本屋さんなくなってしまったら困るだろうね、きっと…

ところで、「大正・昭和のグラフィックデザイン 小村雪岱展」の会期は今週末(11月25日)までです。
興味のある方はお急ぎください

つづき:2012/11/24 先週末も博物館・美術館をハシゴ(その4)

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先週末も博物館・美術館をハシゴ(その2)

2012-11-23 10:38:47 | 美術館・博物館・アート

「先週末も博物館・美術館をハシゴ(その1)」のつづきなんですが、16年ほど前(そんな前だったか…)、埼玉県立近代美術館(MOMAS)で、「読解された風景 現代アメリカ美術の一断面」という企画展を観ました。

この企画展は、フライヤーの記述を借りれば、121123_1_01

「風景」は、アメリカ美術の歴史を貫くもっとも重要なテーマです。19世紀の風景画家から戦前のチャールズ・シーラーなどの画家に至るまで、「風景」は直接的に、あるいは変形されて描かれ続けてきました。そして、現代のアーティストにとっても、「風景」や「場所」の意識が重要であることは変わりません。しかし、今日ではその意味も大きく変化しました。もはや「風景」とは単なる地理的な景観ではなく、政治風土や社会構造であったり、心理状態を反映するものでもあります。そして、それらのアーティストたちは、絵画や彫刻ばかりではなく、写真やインスタレーションなど様々な技法を通して、それぞれ異なる批評的、美的な解釈による「風景」や「場所」の表現を試みています。この展覧会はこうした傾向に焦点をしぼり、オハイオ州に在住する11人のアーティストを紹介しようとするものです。

というもの。

そして、出品作品の中に、16年経っても忘れられないほど私の頭の中に深く刻み込まれた作品がありまして、それが、こちら。

121123_1_02

マスミ・ハヤシ「マンザナール強制収容所(Manzanar Relocation Camp, Guard Gate)」です。

「マンザナール強制収容所」というのは、Wikipediaの記述によれば、

第二次世界大戦中に日系アメリカ人が収容された収容所の一つ。

で、

収容所は最も多くて10,046名を収容した。合計では11,070名が収容された。アメリカ全土で日系人110,000名以上が大統領令9066号によって強制的に抑留され、多くはその財産全てを失った(詳細は日系人の強制収容を参照のこと)。

とのこと。

マスミ・ハヤシさんの作品として切り出された荒涼とした沙漠の中に残る「生活の跡」から、収容されていた日系人の人たちへ思いを馳せ、さらにその数年前に読んだドウス昌代さんの「ブリエアの解放者たち」を思い出しました。

ブリエアの解放者たち (文春文庫) ブリエアの解放者たち (文春文庫)
価格:¥ 530(税込)
発売日:1986-12

   

121123_1_03 東京藝術大学大学美術館で開催中の「尊厳の芸術展 -The Art of Gaman-」で展示されているのは、強制収容された日系アメリカ人の人たちが「限られた材料と道具をもとに作られた美術工芸品や日用品の数々」

「アメリカ人」として普通の生活を送っていた人たちが、日系人だから敵国・日本にルーツを持っているから、という理由で、「準備期間すら満足に与えられなかった上、わずかな手荷物だけしか手にすることを許されず、着の身着のままで強制収容所に収容された(Wikipedia)」人たちが創りだした品々は、椅子や杖、カゴ、そろばんといった日用品から、ブローチ、置物、花札といった「趣味の品」、仏壇や日本人形、硯といった「日本」的なものと様々です。

共通するのは、材料がDIYショップで買ってきたような「新(さら)の素材」ではなく、廃材や農作物用の袋(を解いた糸)、鉄パイプ、小石や貝殻、コンクリートといった拾ってきたものであること。

手荷物程度しかモノがない状態で、というか、いつまで収容所生活が続くのかまったく判らない状態での生活は、どれほどシビアなことだったかと思うのですが、そんな状況で、展示されている品々が創り出されたことは衝撃でした。

展示品を観て、私の頭の中に浮かんだ言葉は、展覧会のタイトルにもなっている「尊厳」です。英文タイトルの「Gaman」よりも「尊厳」の方がずっとふさわしい
喰って寝るだけなら「ヒト」という動物です。強制収容所の日系アメリカ人たちは「ヒト」でいることに飽き足らず、モノを創ったり遊んだりすることで「人間」でいつづけることができたのではなかろうか。

その象徴的な作品が、先週のNHK日曜美術館「GAMANの芸術 戦時下に刻まれた不屈の魂」 でも取り上げていた「表札」でしょう。

121123_1_04 管理するアメリカ人から番号で呼ばれることに嫌気がさした山市兼一さんは、廃材を使って表札を創り、それをバラックのドアに釘で打ちつけたのだとか。

番号で呼ぶな 俺は山市兼一だ

という人間宣言です

また、ヤシの葉で飾りがつけらた廃材製の テーブル(作者不詳)や、色とりどりの小石をコンクリートで固めた鉛筆立て(ヘイキチ エザキ)などは、困難な生活の中でも「おしゃれ」を楽しもうとする心の豊かさ強さを感じました。

一方、芸術作品的な輝きを放っていたのが「線刻花器」(ノリチカ アカマツ)でした。(お持ち帰りしたかった…)
黒光りする円筒の側面に線刻が施された花器なんですが、その素材が驚き
「鉄製の下水道管だというのです

なんとまぁ…デス

モノがあふれているのに「買いたいモノがない」なんていう贅沢な現代に生きる日本人は刮目するべき展覧会だと思います。

東京藝術大学大学美術館での会期は12月9日まで入場無料)、その後、福島(2013年2月9日~3月11日)、仙台(2013年5月5日~5月18日)、沖縄(2013年6月1日~6月30日)、広島(2013年7月20日~9月1日)を巡回するようです。
お近くで開催される際には、是非足を運んでみてください。
お薦めです

つづき:2012/11/23 先週末も博物館・美術館をハシゴ(その3)

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