吉川惣司、矢島道子『メアリー・アニングの冒険』によると、化石の発掘は簡単ではありません。
ライム・リージスにある数マイルにわたる崖は海岸線と接しており、大岩がゴロゴロしていて、しかも濡れているので歩きにくい。
頭上から岩が落ちてくることもある。
メアリー・アニングはそういうところを時には1日十数kmも歩いた。
大きな化石は急斜面の崖の中腹から出る。
大きな岩は1m以上はあり、数人がかりでも動かすことはできない。
地層はもろく、化石を壊しかねないので、はしごや足場を組むなどして発掘しなければいけない。
数人を雇って足場を組み、岩を運ぶには十数人を雇う必要があるため、数日分の日当がいる。
フランシス・リー『アンモナイトの目覚め』には、メアリーとシャーロットが化石を掘り出して持って帰る場面がありましたが、あんな簡単なものではないようです。
さらに、化石を観察可能な状態にするために骨の周囲の岩をはがすには解剖学の知識が必要となる。
メアリーは現生生物を解剖して化石と比較し、大学教授と研究者と渡り合っていた。
木箱に梱包し輸送する費用は化石の売却料金に含まれる。
化石が売れても元が取れない場合もあると想像できる。
アニング家の生活が楽ではなかったのは映画でもうかがわれます。
1825年、ロデリック・マーチソン(1792~1871)と妻のシャーロット・マーチソン(1788~1869)がライム・リージスを訪れる。
2人は1815年に結婚、子供はいない。
映画では、メアリーよりかなり年下のシャーロットは独断的な夫の言いなりになっています。
しかし実際は、シャーロットはメアリーの11歳年上。
地質学を学んでいたシャーロットは夫に地質学に関心を向けさせ、夫の経歴や地位が向上することに尽くした。
ロデリックは1831年に地質学会会長になり、1846年にはナイトの称号を得、1866年には准男爵になっている。
1829年、メアリーは地質学会から招請されてロンドンに行き、マーチソン家に泊まる。
映画とは宿泊の目的が全然違います。
マーチソン家には数千通の手紙が残されており、その中にメアリーからシャーロット宛に書いた手紙が3通ある。
よくもまあそんなにたくさんの手紙を長年保存していたものだと思うし、マーチソン家の広さが想像できます。
『メアリー・アニングの冒険』を読んで、シャーロットは夫の名声のために、メアリーは化石を売るために、お互いが利用し合っているように感じました。
映画でのメアリーとシャーロットとの関係は、残念ながらまったくのフィクションらしいです。
1831年と1832年、家族とライム・リージスを訪れたアンナ・マリア・ピニー(18歳か19歳)はメアリーと親しくなった。
若くして死んだアンナ・マリア・ビューはシアーシャ・ローナン演じるシャーロットのモデルかもしれません。
メアリーが30歳のころから化石の産出量が減ってきて、いいものがなかなか見つからなくなった。
しかも、経済恐慌のために化石の価格が下落し、メアリーは経済的に追い詰められた。
1838年に政府から報奨金300ポンドと年金25ポンドをもらうが、生活は相変わらず貧しかった。
メアリーが40代になると、新発見は途絶えた。
1842年に母親が78歳で亡くなる。
ですから、映画は1840年ごろです。
1843年、4フィート3インチのプラチオドンの頭の化石が4ポンド、4フィート3インチのイクチオサウルスが20ポンドの価格をつけている。
この年でメアリーの発掘活動は終わる。
1844年、訪れたザクセン王の一行は、6フィートの完全なイクチオサウルスの化石に15ポンドを要求される。
映画のメアリーは疲れた顔をしており、客にも愛想がなく、不機嫌そうな態度で応対します。
同時代の記録は、メアリーは取りすました衒学的で気むずかしそうな痩せた女と書いたものがありますが、親切で生き生きとした性格と書かれているものもあります。
化石を売ることで生計を立てているのですから、無愛想では食べていけません。
実際のメアリーは、化石を売るためにお世辞をふりまき、観光客に海岸を案内しています。
もっとも、映画で描かれたころは収入が減り、先の見通しも立たなくなっているということもあり、生活に疲れていたのかもしれません。
1945年、胸のしこりに気づく。
痛み止めのため阿片チンキを使う。
1846年、地質学会が年金25ポンドの支給を可決。
ということは、年収100万円程度で生活していたことになります。
1847年、乳ガンで死亡、47歳。
ダーウィンの『種の起源』が出版されのは1859年です。
化石はノアの大洪水で絶滅した生物だと考えられていましたが、自然は長い時間でゆっくりと形を変えるという考えも唱えられていました。
メアリーは化石や古代生物についてどのように考えていたのかと思います。
最新の画像[もっと見る]
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- 植松聖「人を幸せに生きるための7項目」 4年前
- ボー・バーナム『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』 5年前
- 森達也『i -新聞記者ドキュメント-』 5年前
- 日本の自殺 5年前
- 日本の自殺 5年前
- アメリカの多様性 5年前
- 入管法改正案とカファラ制度 6年前
- マイケル・モス『フードトラップ』 6年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます