三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ベタシュ・サナイハ、マリヤム・モガッダム『白い牛のバラッド』

2022年05月07日 | 映画

イランは死刑執行数が中国に次いで世界第2位の死刑大国です。
イランの死刑執行数は正確にはわかりませんが、ウィキペディアによると200~1000人。
中国も正確な死刑執行数は不明ですが、ここ十年間は2~3千人。

イランの人口は中国の約15分の1ですから、人口比からするとイランのほうが多いことになります。
イランでは、同性間の性行為を行った罪での公開処刑、18歳未満の死刑執行、姦通罪での投石による死刑があります。
https://www.moj.go.jp/isa/content/930005670.pdf

サイード・ルスタイ『ジャスト6.5 闘いの証』の最後、何十人かの絞首刑が一斉にされる場面があります。


いくら何でも作り話かと思ったのですが、2008年にある都市で、麻薬密売の罪で3人に絞首刑による公開処刑が行われています。
https://www.afpbb.com/articles/-/2332059

『白い牛のバラッド』の監督・主演のマリヤム・モガッダムは、7歳の時に父親が政治犯として処刑されているので、死刑問題は取り上げたいテーマなのでしょう。
しかし、『白い牛のバラッド』はイランでは公開禁止だし、監督の2人は制作禁止を破ったことで裁判にかけられているそうです。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92546?page=3



ネタバレですが、主人公ミラの夫が死刑執行されて1年後、真犯人が告白し、夫は冤罪だったとわかります。
夫は被害者を殴ったものの、被害者は気絶しただけだったが、夫は殺してしまったと思った。

夫が加害者だと証言した証人が真犯人だった。
被害者の妻が主人公の家に謝りに来る場面があります。

なぜ被害者遺族が謝るのか。
イランでは、被害者家族が加害者に対して死刑か、賠償金の支払いかを選ぶことができる制度になっているからだと思います。
マリヤム・モガッダム「多くの場合、加害者家族が長い間交渉して、被害者の家族にお金を払って納得してもらおうとし、加害者が許されたら、死刑は執行されません」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92546
しかも、遺族は首を縛られた死刑囚が立った死刑台の台座の羽目板を引くのです。
http://ur0.work/TtqH

被害者の妻は賠償金の支払いでは納得せず、自分の手で執行したのでしょう。
ところが、冤罪だった。
死刑制度があるために、被害者遺族が殺人を犯すこともあるのです。

ミラは2億7千万トマンの賠償金をもらうことになります。
1リアル=0.00305761円
10リアル=1トマン
2億7千万トマンは約825万円です(たぶん)。
ミラが新聞を3部買ったら6000トマンだったので、新聞1部は2000トマン。
約60円です。
日本の朝刊が150円として、2.5倍したらほぼ同額です。
となると、賠償金は2000万円ぐらいの感覚でしょうか。

日本では、冤罪で死刑が執行された場合の補償額は裁判所が決めることになっていて、上限は3千万円です。
本人の死亡による財産上の損失額が証明された場合には、その損失額に加えて3000万円が支払われます。
https://wellness-keijibengo.com/compensation/

もっとも、今まで賠償金が支払われた例はありません。
冤罪なのに執行された人はいないことになっているからです。

しかし、1947年に福岡で闇商人2人が射殺され、西武雄さんと石井健治郎さんが主犯として死刑となった福岡事件があります。
実行犯の石井健治郎さんは、西武雄さんは事件とは無関係だと述べているにも関わらず、西武雄さんは処刑されました。

免田栄さんは冤罪の死刑囚が何人かいたと話しています。
この点については、間違っていたと認め、賠償金を支払うイランのほうが日本よりもましだと思います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする