三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

大谷洋子「死刑廃止へ。カリフォルニアの経験」

2020年02月16日 | 死刑

大谷洋子「死刑廃止へ。カリフォルニアの経験」(「FORUM90 vol.169」)という講演録に、いかにお金や署名を集めるかの説明があり、興味深かったです。

大谷洋子さんはカリフォルニアのDeath Penalty Focus(DPF)という非営利団体に勤めている。
DPFの活動の一つが死刑に関する情報や問題を支援者や一般市民と共有すること。

 ・収入源について。
① 個人的な寄付
手紙やEメールなどでお願いする。
アメリカの生活の中には宗教があるのと、チャリティが当たり前という文化がある。
春先と冬、特にサンクスギビングやクリスマスのシーズンである冬場が一番大きい。
その時期は何十億という寄付金が国内で動く。
アメリカでは、寄付金は税金が免除になるので、年末に寄付をして、その年の課税額を少なくする。

② イベント
多くのNPOは年に1回から2回、ファンドレイザーという資金集めのパーティーをする。
死刑反対のために活動した人を表彰するパーティーで、チケットが1席3万~5万円、1テーブルで30万~100万円ぐらい。
前のほうの高い席だと250万円する。
プログラムに載せる広告は2万円から100万円。
チケットや広告で収入が2000万円、そこから食事代やホテル代を引いて1000万円ぐらいが入ってくる。

③ 財団からの寄付金
金持ちは税金対策のために、財団を作ってチャリティをする。
大企業や大きい法律事務所は年間何百万、何千万円という枠を設けている。
財団から寄付をしてもらうために、NPOは、こういう活動をしていて、これだけのお金が必要だという企画書を出さないといけない。
審査にパスすると、5万円から1億円、3億円という付与金が与えられる。

④ オンライン・オークション
ハリウッドの俳優に頼んで品物を寄付してもらい、オンラインのオークションにかける。
クリントン大統領と対談するというのは1000万円で落札。
グーグルのCEOとの対談は300万円で落とされた。

⑤ その他
プリズン・ロー・オフィスという団体は、受刑者から人権侵害だったり法律違反という苦情を訴える手紙が毎日300通ほどの来る。
勝算のあるケースや深刻なケースは弁護士が告訴し、最終的には和解金をもらう。
和解金だけで毎年約10億円から12億円の収入がある。
弁護士の時給がだいたい5万円から15万円なので、それで収入を得ている。

 ・州民投票のための死刑廃止キャンペーン
州民投票は4年に一度の大統領選挙の年にするのが一般的。
2016年はキャンペーンが17~18あり、死刑廃止はその一つ。

① リサーチ
州民投票を起こすためには準備段階が重要。
いろんなことを調べるためにプロのリサーチ会社に頼む。
たとえば、州民投票をするときに、どのような文言にすれば死刑反対にイエスとチェックしてくれるかに焦点が合わされる。
条件を変えたり、語順を変えたりして、いろんな質問をする。
最終的に投票用紙にどのような質問をするかを、コンサルタントと相談しながら決める。
最終的に有効な質問は、「死刑を廃止すると年間150億円が節約できる」といった、死刑にかかる費用を前面に押し出すことだった。

キャンペーンには莫大な費用がかかるので、まず支援者を見つけないといけない。
2016年には、スタンフォード大学の教授が1億円、ネットフリックスのCEOが1億円を約束してくれた。
文言が決まると、州の司法長官とそのチームが文言に間違いがないかなどの精査をする。

② 署名集め
次に署名集めをする。
前回の州知事が得た得票数の5%の署名を集めないといけない。
2016年は30万数千票だったが、2020年は62万票ぐらいの署名が必要。
署名集めはボランティアだけでなく、プロの署名活動家にもお願いする。

一署名あたり100円ぐらいしか出していなかったので、署名用紙が17から18あるキャンペーンのリストの最後のほうになってしまう。
一般の人たちは署名用紙の全部に署名はしない。
なるべく上のほうにしてもらうため、プロへの支払いがだんだん高くなり、最終的には1000円ぐらいになった。
結局、署名だけに3億何千万円も使った。
テレビ広告をもっと入れたかったが、30秒スポットでも1000万円から5000万円かかる。

 ・お金の必要性
どういうふうにしてお金を集めるか。

アメリカでは、政治関係のお金を誰かに寄付すると、それを全部報告しないといけない。
その報告はインターネットで見ることができるので、毎日チェックし、たとえば同性婚に賛成している人を全部書き出して、インターネットでさらに調べ、この人を知っている人を探し、プレゼンテーションをして寄付のお願いをする。
だいたい100万円ぐらいはくれる。
それで、2016年には11億円ぐらいを集めた。

しかし、死刑廃止の住民投票では勝てなかった。
敗因としては費用が足りなかったこと。
キャンペーンに勝つためには13億円から15億円は必要だと言われている。
州民の民意よりも、お金があれば政治を変えられる。
正義であっても、お金がないと変えられない。

以上ですが、寄付金の額の多さに驚きました。
毎日新聞の書評で、石澤靖治さんがハーラン・ウルマン『アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか』をこのように紹介しています。

ウルマン氏は安全保障の専門家として、同書でアメリカの安全保障政策の迷走を厳しく批判している。そして、それはアメリカの政治が選挙で勝つことを最優先し、経験ある指導者を選んでいないからだと断ずる。つまり経験豊富な候補者は有権者にとって魅力的でなく、メディアに祭り上げられた素人だけを当選させてきたということである。その中で近年唯一合格点をあげられる大統領はブッシュ(父)とのことだが、彼はメディアをうまく使ったクリントンに敗れて再選に失敗している。それこそがメディア選挙の最大の悲劇なのかもしれない。

https://mainichi.jp/articles/20200202/ddm/015/070/001000c

大統領選も死刑廃止も結局は金次第ということです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする