三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

河合弘之『原発訴訟が社会を変える』

2017年04月16日 | 
原発事故、国・東電に過失 前橋地裁 避難者への賠償命令
東京電力福島第一原発事故で福島県から群馬県などに避難した住民ら百三十七人が国と東電に計約十五億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、前橋地裁は十七日、「東電は巨大津波を予見しており、事故は防げた」と判断、東電と安全規制を怠った国の賠償責任を認め、うち六十二人について計三千八百五十五万円の支払いを命じた。(略)
 原道子裁判長は、政府が二〇〇二年、「福島沖を含む日本海溝沿いでマグニチュード8級の津波地震が三十年以内に20%程度の確率で発生する」とした長期評価を発表した数カ月後には、国と東電は巨大津波の予見は可能で、東電は長期評価に基づき津波の高さを試算した〇八年には実際に予見していたと指摘。
 さらに、配電盤を高台に設置するなどの措置は容易で、こうした措置を取っていれば事故は発生しなかったとし、安全より経済的合理性を優先させたことなど「特に非難に値する事実がある」と述べた。
 国については〇七年八月に東電の自発的な津波対策が難しい状況を認識しており、規制権限に基づき対策を取らせるべきだったのに怠ったとして「著しく合理性を欠き、違法だ」とした。(東京新聞2017年3月18日)

しかし、3月28日、大阪高裁は関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を認める決定を出し、運転差し止めを認めた大津地裁の仮処分決定をくつがえしました。

河合弘之弁護士は『日本と原発』という映画を作っていまが、映画で視覚的に訴えるだけでなく、じっくりと考えてもらうために『原発訴訟が社会を変える』を刊行したそうです。
本の中からいくつかご紹介。

・利益共同体
政府はなぜ原発を止めないのかというと、利益共同体が関係している。
電力会社は原発の建設や機材をメーカーや商社に発注する。
企業には下請け業者があり、多くの労働者が働いている。
電力会社は安全キャンペーンの広報活動を重視しており、テレビや新聞等のメディアは広告収入を得ている。
原発を受け入れた地方自治体は、電力会社からの補助金や寄付が贈られ、国からも助成金が支払われる。
メガバンクは電力会社やメディアに融資することで、原子力ムラの金融部門として機能している。
大学の学者は、電力会社から研究費や学生の就職斡旋を受ける。
官僚は、電力会社に有利な規制や指導を行う見返りとして、関連企業への天下りが用意されている。
政治家や政党には、政治資金が提供され、選挙の協力を受ける。
原子力ムラは日本の経済と政治のおよそ6割を支配するほどの利権構造である。

・自己完結型永久エネルギー構想
ウランを軽水炉で燃やし、使用済み燃料を再処理してプルトニウム燃料ができ、高速増殖炉で燃やすと、また使用済み燃料が出て、また再処理してというふに、永久に核燃料ができる。
この自己完結型永久エネルギー構想は完全につぶれているが、これをあきらめると、原発をする正当理由がない。
原発は石炭や石油と同じ、いずれなくなってしまうものということになってしまう。

・技術の進歩
「科学・技術というのは、まず発明発見がある、そしてそれが実用化される。しかし、どこかで事故や失敗が起きる。その原因を究明し検証する。それに基づいて改善をして進歩していく。その繰り返しで科学や技術が進歩してきたんだと。だから、たった一回の原発事故で諦めちゃいけないんだ」という主張がある。
これは航空機や自動車といった一般論の場合と、原発を混同する間違えた理論だ。
原発の場合、被害が無限定、場所的にも、時間的にも無限定で、不可逆な損害である。
そして、種の死をもたらす。
別の言葉で言えば、人類全体を滅ぼすかもしれない危険がある。
他方、航空機や自動車の場合は、どんなに被害が大きくても個の死にしかならない。

・地震と原発
マグニチュード4以上の地震が起きた地点と原発の所在地を示す世界地図が『原発訴訟が社会を変える』に載っています。
ネットでも同じ地図があります。
https://sites.google.com/site/hamaokareport/earth
マグニチュード4以上の地震が起きた地点にある原発は、台湾、フィリピン、パキスタンなどに若干ありますが、大量に所有しているのは日本だけです。

・想定外
2008年9月10日頃に作成された「福島第一原子力発電所津波評価の概要」という文書に「今後の予定」として次の記載がある。

ただし、地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避。

ちゃんと想定されていたわけです。

2015年4月22日、九州電力川内原発の運転差し止めの仮処分申請を鹿児島地裁は却下し、2017年4月6日、福岡高裁宮崎支部も仮処分申し立てを却下しました。
鹿児島地裁では、広範囲に壊滅的被害をもたらす火山の「破局的噴火」をどう評価するかについても争われた。
半径160km圏内にある大型カルデラ火山が5つあり、そのうち3つの火山について、噴火に伴う火砕流が原発の立地する場所にまで達していた可能性を、九州電力も認めている。
九州電力は、巨大噴火を予知した場合は原子炉を止め、5年かけてすべての核燃料を原発の敷地から運び出すとしている。
この対策は、5年後の巨大噴火を予知した場合を前提としている。
噴火の予知に成功した例は少ないし、予知できたのは噴火の数日前のことである。
噴火を予知することに成功したとしても、核燃料を運び出すのに5年もかかっていては間に合わない。
おまけに、核燃料の避難が間に合わなかった時のことは、何も想定されていない。
ところが、原子力規制委員会は、九州電力の「火山噴火対策」を十分であると認め、川内原発の再稼働を許可した。

ちなみに原発の憲法とされる「原子炉立地審査指針」にはこう書かれている。

大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろんであるが、将来においてもあるとは考えられないこと、また、災害を拡大するような事象も少ないこと。


原発は事故の危険性だけではありません。
東芝は原発子会社の損失によって倒産の危機に瀕しています。
費用の面でも割に合わないのに、原発を推進しようとする人たちの考えが理解できません。

コメント
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