三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

冤罪はなぜ起こるのか 1

2011年11月04日 | 厳罰化

秋山賢三『裁判官はなぜ誤るのか』と浜田寿美男『自白の心理学』を読む。
冤罪はどのようにして起こるか。

 1 被疑者の問題
実際はやっていなくても、認めたほうが楽ということがある。
秋山賢三『裁判官はなぜ誤るのか』にこう書かれてある。
「表面的には自白のある有罪事件で済んでいる事件でも、真相は別にあって、ただ、被告人が我慢して認めているだけだという場合だってある。すなわち、真実は公訴事実とは違っているのだが、今の刑事裁判のシステムの下では、否認して無罪をかちとることが容易ではなく、弁護士費用のための経済的な理由もあって仕方なく認めているのに過ぎない場合があるのである」

たとえば痴漢事件。
痴漢で逮捕され、前科や前歴なくても、
「起訴事実を否認して争ったために、「懲役一年六ヵ月」「懲役一年二ヵ月」などの実刑判決を受けるのが珍しいことではなくなっている」そうだ。
無実だから否認したのに、そのために刑が重くなるのである。
前科・前歴のない普通の会社員なら、もし虚偽の自白をして認めていれば、ひょっとしたら怒られておしまい、もしくは示談ですむかもしれない。
少なくとも、起訴されて実刑判決ということはない。
それに、裁判となると、弁護士の費用はいるし、時間もかかるし、下手すると刑務所行きである。

 2 取り調べの問題
逮捕され、否認を通すことは難しいらしい。
無実の人が自分のやっていない罪を自白するとしたら、拷問に耐えきれない、被疑者が知的障害、長期の勾留で精神に変調をきたした、と考えがちである。
ところが浜田寿美男『自白の心理学』によると、
「個々の冤罪事件を洗ってみると、こうした理由で説明できる例はむしろ少ない」そうだ。
任意同行で4時間の取り調べで、通帳を盗んで50万円を引き出した、という嘘の自白をした例を浜田寿美男氏は紹介している。。
「問い責める周囲の確信が大きな力となって、その場を強く支配する。その力はうそをあばきもすれば、反対にうそをそそのかしもするのである」
警察官向けのテキスト増井清彦『犯罪捜査101問』には「頑強に否認する被疑者に対し、「もしかすると白ではないか」との疑念をもって取調べてはならない」と書かれているそうだ。

警察の取り調べについて、スティーグ・ラーソン『ミレニアム』にこんなことが書いてある。
「容疑者の取り調べを進めるにあたって、典型的な方法がふたつあることは、どんな刑事でもよく知っている事実だろう。怖い刑事を演じる方法と、やさしい刑事を演じる方法だ。怖い刑事は、脅しをかけ、ののしり、拳骨で机をたたき、ぶっきらぼうな振る舞いをすることによって、容疑者をおびえさせ、降伏させ、自白に導いていく。やさしい刑事は、タバコやコーヒーを勧め、共感のこもった相槌を打ち、穏やかな口調で話す。白髪まじりの温厚そうな刑事がこの役を演じればなおよい。
全員とは言えないまでも多くの刑事は、やさしい刑事を演じる取り調べ術のほうが、成果を引き出すうえではるかに有効であることを知っている。何度も犯罪を重ねているしたたかな容疑者は、怖い刑事を前にしたところでびくともしないし、怖い刑事におびえて自白するような腰の据わらない容疑者なら、どんな取り調べのしかたをしてもおそらく自白するだろうからだ」
なるほどね。

 3 検察の問題
カレル・ヴァン・ウォルフレン『誰が小沢一郎を殺すのか?』にはこうある。
「完璧にして、純粋、無謬であること、検察はそのすべてを兼ねそなえていなければならない。人間は過ちをおかすものだ、などという考え方は、検察の伝統とは相容れないのである」

完璧、無謬であるはずの検察がやっていることは問題がある。
たとえば、検察は証拠のすべてを裁判で提出するわけではない。
秋山賢三氏は「供述調書には被告人に有利な事情は原則として書かれないし、被告人に有利な証拠があっても法廷には提出されないことがほとんどである」と書いている。
実際、再審事件では、あとから被告に有利な証拠がどんどん出てきますからね。

また、検察側の証人は検察に脅されると、嘘の証言をしてしまう。
薬剤エイズ事件で検察側証人が証言の予行演習をしたことが『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』に書かれてあるが、秋山賢三氏も同じことを書いている。
「事前に丹念にリハーサルを遂げた証人に法廷で完璧に演技されたような場合、虚偽の証言でも本当らしく聞こえてしまう」
「証人として公判廷で証言する者も、その前日か数日前には、供述調書に書いてあるとおりに証言するように、検察官によって厳重なテストを受けた上で証言させられている現実を忘れてはならない。参考人が、身柄を拘束された上で検察官によって事情聴取され、不本意ながら被告人に不利な虚偽の内容の供述調書を作成された上、「調書のとおりに言わないと偽証罪で懲役十年になるぞ」と脅かされ、そのために、第一、二審公判で証人尋問を受けた際にも、なおかつ、これを撤回できないような場合が実際にある」
福井女子中学生殺人事件でも関係者は証言をひるがえしているし、こういうことは珍しくないようである。

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