三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

浜井浩一『2円で刑務所、5億で執行猶予』4

2011年03月30日 | 厳罰化

犯罪者は我々一般人とは違う種類の人間だと思いがちである。
あいつら、どうしようもない、と。
専門家でも同じらしくて、浜井浩一氏は「犯罪者を見る目が、警察官、検察官、裁判官、刑務官と法務教官、保護観察官で全然違うことに気づきます」と言う。
「立ち直る姿を見る機会があるかどうかというのが一番大きいのかもしれない」
日々再犯者と接する検察官、裁判官、刑務官は更生できなかった人にしか再び会うことがないので、犯罪者というのは懲りない、再犯を繰り返す、更生しないと思うようになるそうだ。
「しかし、それは錯覚である」
「実際には立ち直る人が本当は多い」と浜井浩一氏は言う。

では、再犯率はどれくらいなのか。
全犯罪の60%を再犯者が起こしていて、犯罪に占める再犯者の割合は非常に高い。
そう言われると、6割が再犯すると思いがちだが、そうではない。
罰金刑以上の刑を受けた人が再び罰金刑以上の刑を受ける人は29%、約3割。
平成19年版犯罪白書によれば、殺人で有罪になった者の再犯率は約17%であるが、再犯したといっても、殺人で有罪になった者のうち、再び殺人事件を起こした者は0.9%で、多くは万引きや無免許などだそうだ。
殺人などで長期間受刑すると浦島太郎になってしまい、社会復帰が難しくなる。
「強盗、強姦、放火といった警察が凶悪犯罪と分類しているものについては、殺人と同じように同種再犯は少ない。凶悪犯罪は、窃盗や覚せい剤といった数の多い犯罪と比較すると、比較的繰り返されることの少ない犯罪なのである」

では、再犯を防ぐにはどうしたらいいか。
平成11年「犯罪者予防更正法」が「更生保護法」に改正された。
「犯罪者予防更正法」は犯罪したものの改善、更生を助けることが再犯防止につながるという考えであるが、「更生保護法」は再犯防止が目的である。
改善更生と再犯防止とは違うそうだ。
改善更生とは本人が主体で、立ち直ろうとする本人を支援するのが改善更生である。
犯罪を犯した人が立ち直ろうという意欲を持たせることが大切なのだが、再犯防止が改善更生につながるかは疑問だと、保護観察官の話にあった。
再犯防止とは、守られるべきは本人ではなくて社会であるから、非行少年や犯罪者はどうでもよく、社会を守るためには彼らを排除してもいい。
「究極の再犯防止は理論的には、本人たちの抹殺、つまり死刑に行き着きます」と浜井浩一氏は言う。

よく「犯罪のない社会を」と言うが、再犯防止が強調されすぎると、改善更生が吹き飛んでしまうことになりかねないそうだ。
たとえば、再犯を防ぐためには犯罪者には厳しくしなければいけない、監視を強化すべきだという意見がある。
しかし、監視による行動規制、厳罰という再犯防止では改善更生に結びつかず、監視を強化することでかえって再犯率が上がってしまう。
性犯罪者にGPS付きの腕輪をさせることがいい例である。

大阪府も性犯罪前歴者GPS検討…橋下知事指示
 2010年の強制わいせつ事件の認知件数が8年ぶりに全国最悪となった大阪府が、性犯罪の前歴者らに全地球測位システム(GPS)端末の携帯を義務づける条例制定を検討していることがわかった。
 宮城県がすでに同様の条例化を検討している。ただ、人権的な配慮などから慎重な対応を求める意見も多く、論議を呼びそうだ。
 府によると、橋下徹知事が検討を指示。知事は宮城県の構想について、「加害者の存在におびえる被害者への対策が特に重要。被害者の視点に立った方策を独自に検討する姿勢は評価できる」と賛同の意向を示しているという。府は今後、府警と条例化に向けた協議を始める方針。
 宮城県の構想では、女性や13歳未満の子どもへの強姦などの前歴者らに、出所後、GPSの携帯を義務づけ、従わない場合は罰金を科す。3月末までに条例化できるかを判断する。
読売新聞3月2日

浜井浩一氏によると「保護観察対象者などに対するGPSによる監視の強化については、否定的な研究が多く、再犯防止に有効だとする研究が少ない。GPSについては、監視の強化によって些細な問題行動の摘発を増やすだけで、更生を阻害するため、再犯率はかえって悪化してしまう危険性が高いとする研究がほとんどである」
というのも、生活に支障が生じて定職に就けなかったりして、安定した生活が送れなくなるからである。
また、プログラム処遇や社会奉仕作業などが義務づけられても、そのために仕事を休むことは難しいから、保護観察が終わるまで定職に就けないことになる。
監視や威嚇による処遇は効果がないのである。
こうした方法は欧米はすでに失敗しているのに、なぜか日本の刑事司法機関の専門家には人気があるという。

厳罰は意味がないどころか、かえって犯罪を増やすことになりかねないことは死刑にも当てはまる。
「英米の犯罪学会においては、死刑の犯罪抑止効果は、科学的に確認できていない(将来にも確認できる見込みも乏しい)というのが合意事項となっている」
死刑に抑止効果があるという研究もあるが、
「殺人に大きな影響を与える可能性の高い経済要因などが意図的に解析から外されている」など、問題がある場合がほとんどだそうだ。
抑止効果がないどころか、死刑の抑止効果を肯定している経済学者も「死刑には暴力を促進する効果がある」と認めているという。

それとか、監視カメラに犯人が映っていたので、すぐに捕まったという話を聞いて、監視カメラや防犯カメラには効果があると私は思っていたが、浜井浩一氏は否定する。
「監視カメラには通常二つの目的がある。防犯と犯人検挙である。当然のことであるが、防犯と犯人検挙では目的が異なるため効果的なカメラの設置方法も異なる。防犯のためであれば、カメラは一目でわかる場所に目立つように設置する必要がある。他方、検挙のためであれば、目立たない方がいい」
なるほど。
「暴力犯罪の多くは、飲食店、自宅、職場、学校などで何らかの人間関係のトラブルや飲酒をきっかけに発生する。しかも、衝動的な犯行がほとんどだ。監視カメラの効果はあまり期待できない」
監視カメラの効果を検証した研究によると、
「監視カメラは、駐車場での車上狙いなどの防止にはある程度の効果が認められるが、それ以外の路上や公共交通機関などの場所や暴力犯罪に対しては、ほとんど効果が認められない」そうだ。
監視カメラよりも、街灯を明るくすることには窃盗系の犯罪を中心に防犯効果がある。
もっとも、街灯の効果も暴力犯罪には否定的だということである。
ということで、監視の強化は犯罪防止には意味がないというわけでした。

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