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こころの除染という虚構 46

こころの除染という虚構

46

4・届かぬ思い

 椎名敦子の自宅前に、取材の順番待ちがほどなくできた。マイクを向けられた小国小の母親たちが皆、取材者にこう話すからだ。

『椎名さんならいつも自宅に在る事務所にいるから、椎名さんならしゃべるよ』敦子は自分の意思などお構いなしにあれよあれよと取材攻勢の渦に巻き込まれていく。

  「テレビや新聞の取材の列が家の前に出来て、ほんとに馬鹿正直に全部受けて居たし、いっペんにいろんなテレビ局が入ってきて、私なにもわかんないから。話して下さいと言われたら話していた。取材を受けるマニュアルも知らないし、断っていいというのも知らなかったし、もう、若いお母さんイコール椎名さん、ということになってしまって・・・」

自分で写っているテレビを一度だけ見た。

「病気だなって思った。『鬱になっていたでしょう』と、周りからも言われたし。せ

 あのころ私、感極まると泣いてしまう。そんなシーンばかりを流されて。今日は話だけ、撮らない、って言っていたのに。すっぴんの化粧もしていないやつ。ひどい」記者からの話で勧奨地点の情報が、切れ切れに入ってくる。とはいえ、当事者でありながら、知らされる内容は、余りにもお粗末だ。

小国全体が避難になるのではなく、避難になる人と、そうでない人とそうでない人に分けられるらしい。

 避難になると、赤十字の避難6点セットと住む場所を与えられるらしい・・・・、結局、伊達市から小国の住民全体に対して、きちんとした内容の説明が行われないまま、事態だけが進んでいく。

 

 敦子たち小国小学校のPTAは、「とにかくお母さんたちの声をまとめて、市に訴えよう」と動き出した。そして6月17日のPTAの役員会で次のことを決めた。

 『保護者の意見をまとめないといけないから、保護者会を20日の月曜日に開こう。その結果を持って市長への要望書を作成して、市長に直接訴える』

 6月19日、この日は日曜。椎名夫妻は子どもと愛犬を連れ、宮城県に保養に出かけていた。週末は出来る限り、汚染のない場所で子供たちを犬と一緒に、思いっきり遊ばせようと、一家そろって車で出かけるのがいつの間にか家族の習慣になっていた。

 帰り道、敦子の携帯に役員の母親から連絡が入る。相当焦っている様子だった。

「私を取材しているNHKの記者が言うの。明日にも決まるらしいって。だから、すぐに集会を開かないとダメだから。あっちゃん、すぐに帰って来て」

 『だって、予定は決めてるよ。明日の夜、保護者会をやるって、会場は週末には取れないから月曜にやるって決めたじゃん」

『駄目だよそんなの。明日にでも決まるかも知れないんだよ。だから、今日やんないと。場所は私が取るから、とにかく早く帰って来て』小国へと急ぐ帰り道、また電話が入った。 続く

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