マガジンひとり

自分なりの記録

グッド・ヴァイブレーションズ

2019-08-07 19:19:25 | 映画(映画館)
Good Vibrations@シネマカリテ/監督:リサ・バロス・ディーサ&グレン・レイバーン/出演:リチャード・ドーマー、ジョディ・ウィッテカー、マイケル・コーガン、カール・ジョンソン他/2012年イギリス・アイルランド

金では買えない自由を掴め。
閉塞した時代にこそ響く青春音楽映画の傑作が、7年の時を経て遂に待望の日本公開!

本作は真実に基づいて製作されたテリー・フーリーの物語である。舞台は1970年代後半、北アイルランド。政治と宗教の絡み合った対立の真っ只中。多くの犠牲者を生み出し、ミュージシャンが標的として殺害される事件も起り、当地の音楽産業は壊滅状態となっていた。そんな中、客のいないナイトクラブでDJを続けていたテリー・フーリーは、運命の女性ルースと恋に落ち、結婚を決意。とともに生計を立てるべくベルファストにレコード店<GOOD VIBRATIONS>を開店させる。

シャングリラスなど60年代の音楽を愛するテリーであったが、現状の対立と怒りを反映したパンクロックが若者の心を捉えている様子に気づき、自らもライブハウスに出かけ新しい音楽を漁り、店で紹介し始める。内戦に近い混乱であるにもかかわらず高圧的に若者の風紀を取り締まる警察。音楽で抵抗する若者。彼らに惚れ込んだテリーはインディー・レーベルを設立。シングル盤を作って、ライブやメジャー会社へのはたらきかけに奔走。

政治情勢はよくならず、店の経営も傾くが、ジ・アンダートーンズという新人バンドが売り込んできた楽曲Teenage Kicksはテリーの心をゆさぶり、彼はシングルを作ってロンドンで売り込み。苦労のすえ、新しい音楽を紹介する第一人者、BBCラジオのDJジョン・ピールの手元に届けることに成功。

それはピールの生涯を象徴するほどの一曲となった。店の経営はその後も赤字続きであったが、信念を貫き、音楽を通じて人生の喜びを伝えたテリー・フーリーの生き方が胸を打つ佳作である。



有吉弘行さんのラジオSunday Night Dreamerを毎週楽しみに聞いている。といってもOAの日曜は飲酒しないので、だいたい翌月曜あるいはもっと後に肴としてYouTubeで。太田プロの後輩芸人が月交代でアシスタントを務め、例年8月は有吉さんが漫画やゲームを好みコミケに関心があるため松崎さん和賀さんという本格オタクの2人が務める。

2015年には実際に夏のコミケを訪れ、混雑と酷暑の様子を語って抱腹絶倒の神回となったことも。後輩のオタクトークを聞き、理解と共感を示すいっぽう、ツイッターやリスナー投稿などでオタク側から排他的な動きがあると、猛烈に反発。ギャグにくるみながら「おまえらオタクはいつも~」と批判する。先日4日の回で感心させられたのは、きょねんだかおととしだか、やや甘い考えでコミケ参加を表明し、ネット上で激しいバッシングを浴びて撤回した真木よう子さんの件を蒸し返し、ときにオタクが凝り固まって排他的になることを「俺は忘れないからな。毎年いうぞ」と。

しばらく前のロンハーで、カズレーザー・みやぞん・三四郎小宮さんという伸び盛りの若手がそれぞれ先輩芸人10人をランク付けする企画で、有吉さんが3連続で1位に選ばれたことがあった。毒舌を武器に逆境から再起を果たしたヒーローとしての面に加え、一人の先輩として同僚としてライバルとして尊敬できる存在なのでしょう。


芸能がらみの話題が続いて恐縮ですが、闘病中の女性タレントのブログに脅迫を書き込み、逮捕だか送検だかされてしまったおばさん「みんなやってるじゃない」。投資用の不動産を会社員などに売り込み、銀行から億単位の資金を借りさせるため、自己資金を多くみせたりなど書類の偽造を行う不動産業者が「借りるときはみんなそうしますから大丈夫ですよ」。

前者の女性も、後者の会社員なども、もちろん責任は個人で負わねばならない。わが国は、みんなと一緒が安全、目先の利益を優先し、長いものに巻かれて連帯責任のように分散して生きればいいというような社会通念・処世観がある。お金と対人関係が先立つ世の中は、自由にものがいえない。これが、わが国の音楽がだんだんと世界の水準からかけ離れた奇妙なものになってしまった最大の理由だと思う。

この映画の主人公の父は筋金入りの社会主義者で、過去12回選挙に出馬して連続落選。でも、だんだんと得票数が増えたことを誇り、後悔していない。「何が正しいかは他人が決めることじゃない」。自分の考えを持ち、人生の責任は自分で負う。北アイルランドではカトリックとプロテスタントが激しく対立。武装した集団がウロつき、爆弾テロなど血みどろの暴力沙汰が多発。こうした環境では、自分自身というものが、家族や友人や地域のなかで鋭く問われる。それらを含め英国全体が血みどろの歴史を背負っているから、英国ブランドの音楽が世界を席巻するに至ったともいえよう。

もう資本主義は成長できない。利子率はゼロに近づく。株主や銀行は何も生まない。労働者でかつ消費者である人間だけが利回りだ。人間の、生きる時間を支配すること。資本主義の断末魔。隣国とのあいだがきな臭いといっても、民間の交流は太く、わが国は一見平和そのもの。今週末はコミケ。しかしその底流では、人間を収集し、日本スゴイなどと甘やかして依存させ、生かさず殺さず使いつぶしていこうという最後の競争が進行中。私は音楽を聞きながら見届けられるところまで見届ける—
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