マガジンひとり

自分なりの記録

中国は法治国家なのか

2015-12-13 21:54:02 | Bibliomania
第7回ORISセミナー「中国の現在(いま)を語る」@12月11日・早稲田大
【講演者】毛里和子(早稲田大学名誉教授)、小口彦太(早稲田大学法学学術院教授)

「グローバル中国との付き合い方」との演題で毛里氏、「中国の現在(いま)を語る」との演題で小口氏が語る2時間ほどのセミナー。書店では「中国脅威論」、また逆に「大崩壊」など山積みになっているものの、眉唾本だらけなこともあり、中国の実像を知りたいという関心の高さで、平日16~18時という時間帯ながら場内は満席。




タルコット・パーソンズの「構造・機能」の学説で社会全体のあり方を図式化。【1】欧米諸国のような近代社会【2】共産中国成立からしばらく、文化大革命など政治(階級闘争)一色に塗りつぶされた【3】トウ小平の改革開放により、政治主導ながらも、次第に近代化されつつある今の中国


小口氏によれば、中国で法律や裁判制度の整備は遅れに遅れた。国民党が打倒されてからも、国民党による不満足な裁判制度をしばらく踏襲せざるをえないほどで、混乱が続いた。刑法と刑事訴訟法が施行されたのは、建国から30年後の1979年であった。

現在、グローバルな輸出大国となり、民法についてはわが国の民法より先進的な部分もできるなどしているが、依然として人権や民主主義といった近代的な見地からは不満足な状態が続いている。例えば、わが国の都教組ストライキ事件の最高裁判決では、「職務の公共性にかんがみ、争議行為を禁止する」地方公務員法と、「国民の労働基本権を尊重する」憲法のそれぞれ相矛盾する要請を、「憲法の精神からいって、争議行為禁止違反に対する制裁、特に刑事罰による制裁は、極力限定されるべき」という判例を定着させて融和を図った。しかし中国の「民主と法制」記者による誹謗罪事件では、「報道記者はすべての公民と同様に、憲法と法律が規定する権利を行使する時は、同じく規定する義務も履行しなければならない。すなわち国家・社会・集団の利益を侵害してはならない」との有罪判決により、個人の権利より社会秩序を優先する姿勢を明確にした。

すなわち、安倍首相の暴走により多くの人の知るところになった「立憲主義=憲法が国家権力を縛る」とは、そもそもヨーロッパの封建社会が近代社会に変わるにあたって根本理念となっていったもので、古代王朝から独特の中央集権的官僚制を発達させてきた中国では、いまだ官僚(行政権)が個人に優越し、法治国家の意味は「法による支配」ではなく「法による統治」に他ならない、と。




中国の軍事費の伸び(2013年の防衛白書ダイジェストより)


この、行政・政治の優越に変化が起こったのが、トウ小平の唱えた「先富論」。「豊かになる条件を持った一部の地区・企業の人びとが先に豊かになってよい」という命題は、それまで禁じられた経済的自由を承認し、欲望を解放するものであった。これを突破口として、経済だけでなく、社会や文化の領域も部分的自由がもたらされたのである。

以下、毛里氏。
改革開放路線が成功し、中国が豊かになるにつれ、1990年代後半から利益集団の形成が顕著になった。【1】中央政府の官僚【2】地方政府の官僚【3】国有独占企業・地方重要企業の高官【4】多国籍資本の国内代理人(洋買弁)【5】土地不動産開発業者【6】大型民営企業(実業と金融)【7】それぞれの集団にくっついている専門家・学者。

そして、人民解放軍。利益集団や軍が外交に口を出すようになり、南シナ海など海洋強国路線・新シルクロード(一帯一路)構想・アジアインフラ開発銀行といった、周辺諸国との摩擦・懐柔両面を折り込んでの、米国と並ぶ超大国を目指す姿勢を露骨にしている。

この超大国路線に対し、わが国は先の安保法やTPPなど、米国追従を強めることで対抗しようとしているが、今後の日中関係はどうなってゆくのか。
そもそも1972年、日中国交正常化がなされたのも、頭越しの米中和解の動きに対応したもので、戦争問題処理(カイロ宣言やサンフランシスコ講和条約には共産中国は不参加)について思い切った決断がみられなかった。すなわち、中国側の賠償請求権放棄(日清戦争で巨額の賠償金を払ったにもかかわらず)と、台湾に代え中国を承認という、取り引き。

これは中国が「圧倒的政治優位」にあった時代ゆえに許されたことで、いずれ豊かになった国民が「民間の請求権は消滅していない」と騒ぎ出すのは目に見えている。2012年、何方・元日本研究所長は「日本の対外侵略を民族の犯罪と見なさず、階級闘争の観点から、ごく少数の軍国主義分子にだけ罪を着せ、とくに日本人民をわれわれと同じ被害者と見なしたこと。これは是非を混淆したもの。中国に攻め寄せて強奪し、欺瞞し、蹂躙した日本兵と中国の人民を一緒に論ずることなどできるわけがない」と自己批判。(これは軍事政権だった韓国にも共通する問題)

日中の間には、【1】利益(領土・領海問題、経済問題)【2】パワーバランス(日米同盟、地域リーダーシップ、国連常任理事国)【3】歴史問題(歴史認識、戦後補償、双方のナショナリズム)と、懸案が三層構造で横たわっている―



グローバル中国への道程―外交150年 (叢書 中国的問題群 12)
川島 真,毛里 和子
岩波書店

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