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チャッピー

2015-10-01 19:29:19 | 映画(映画館)
CHAPPiE@早稲田松竹/監督・脚本:ニール・ブロムカンプ/出演:シャールト・コプリー、デーヴ・パテル、ニンジャ and ヨーランディ・ヴィッサー、シガニー・ウィーヴァー、ヒュー・ジャックマン/2015年アメリカ

チャッピー…それは、余命5日間の人間になりたかったAI

犯罪が多発する2016年の南アフリカ・ヨハネスブルグ。警察は兵器メーカーのテトラヴァール社から高性能のロボットを購入し、取り締まりにあたらせ、効果を挙げていた。が、エンジニアのディオンが極秘で製作したAI(人工知能)搭載の戦闘用ロボットが、ギャングに奪われてしまう。ロボットは“チャッピー”と名付けられ、幼児のような意識が芽生えたのち、ギャングのニンジャとヨーランディを父母、ディオンを創造者と認識して、人間のように成長してゆく。ところがディオンを妬み、自らが手がけた脳波でコントロールする大型ロボットを治安に採用させようと企むテトラヴァール社の同僚ムーアもこの事実を嗅ぎつけ…。

『第9地区』のニール・ブロムカンプ監督最新作! AIは人類にとって是か?非か? 人間以上に人間らしさを備えたチャッピーが衝撃のラストでその答えを突きつける、恐ろしくも切ないSFアクション!




いま『伊賀野カバ丸』を読み返し中。私の人生でも一二を争う面白さのマンガ。
しかし、荒唐無稽な設定など、年をとって、気になることも。

高いところから飛び降りて、フワリと衝撃なく着地できる。
マラソン大会に飛び入り参加し、有名選手を大きく引き離し30キロまでトップ独走。
体格の優る数人を一瞬で叩きのめす。高校生としては読み書きが十分にできないにもかかわらず、漢文がスラスラ読める。複雑骨折の接骨ができる。
枚挙にいとまがない、これらはすべて「代々伊賀忍者だった家に生まれ、厳しく育てられたから」で一挙解決。

忍者を現代社会によみがえらせると、誰しも分かりやすいスーパーヒーローを作ることができる。他のマンガでもお目にかかる、一種の「お約束」といえよう。
そして、この種のお約束によって、最も時間節約して多数の共通顧客を獲得しているのが、「人間の形をしたロボット」ではないだろうか。

青木雄二さんは手塚治虫文化賞を受けるにあたり、「ロボットがしゃべるんでっせ(笑)」と、自ら手塚さんの影響を受けておらず、むしろ軽侮しているかのような発言をした。
手塚さんを尊敬する私も、『鉄腕アトム』が代表作であるというのは、もう一つ納得しかねるところがある。

機械が「意識を持つ。意思を持って人間のように行動する」ことがありうるだろうか。
『2001年宇宙の旅』では宇宙船のコンピューターが人間に反逆し、『わたしは真悟』では町工場の工業用ロボットに意識が芽生えて、ある少年と少女を親だと認識する。
これらは優れたSF作品である一方、現在、NASAやグーグルのスパコンが、あるいはフォルクスワーゲンの車の不正なソフトウェアが、まかり間違っても意識を持つなどということはありえないと悟らせる反面教師でもある。

AIを組み込んだロボットならどうか。
ホーキング博士などは、人類の未来がロボットに奪われると警鐘を鳴らしている。が、『チャッピー』を見れば、その心配は無用だ。
AIが意識を持ち、人間、いや生きもののように学習して成長する、この重要なくだりを人型ロボットというお約束に乗じ、人の姿をしているから人の子どものように振る舞っても不思議ではないと観客に錯覚させ、メンドウな説明を省いて序盤のアッという間に片付けてしまうのだ。
これは逆に、途方もない時間と資源を注がなければ、いや注いでも不可能なことだと証明しているに等しい。




ヒュー・ジャックマン、見事な悪役ぶり。
これは娯楽作品なのである。娯楽としては完璧。でもそれは、人型ロボの他にも、さまざまな既存のお約束に則って作られ、過去の莫大な叡智がもたらしたもので、そうした意味で人の血が通った、生き生きとした娯楽作品になっている。
また特に私にそれを感じさせたのは、「チャッピーの両親」として芸名と同じ役名で出演する男女のヒップホップ・ユニット、ダイ・アントワードだ。

乳幼児の、記憶は空白でも、彼らの脳に、全身の隅々まで、それまでの何億年もの生命の歴史が息づいている。その情報量はとてつもない。
すべての人間がそれを持っているが、人の意思としての表れ方は、天才科学者もいれば犯罪者もいれば千差万別。人工知能がそれに追い付けるとは思わない。せいぜい囲碁将棋とか、ある目的に特化した場合のみだろう。いま各社がしのぎを削って開発している「自動運転車」のシステムも、この映画の後半を見ていると、本当に大丈夫なのか、原発(やおそらくマイナンバー制度)のような無残な結果を招くのではないかと疑心暗鬼に駆られるくらいで、社会派の要素を併せ持つSFアクション映画として推奨いたします―
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