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戦後日本と初期いがらしみきお

2015-05-24 19:33:29 | マンガ
♥♥さんを羞恥責め、トイレしてるところを覗いたり、あるいは汚物そのものを―

といった妄想に浸るとき、あれ?こういうの、いがらしみきおのマンガで見たことあるな…と思い至ることが少なくない。彼の4コマ・マンガは、まさに変態性欲の見本市・百科全書だったのだ。

このほど、『ネ暗トピア』など、遠い過去に手放してしまった彼の初期作品集をまとめて入手し、つらつら見返してみると、単に変態性欲というより、それはいがらしみきお流の人生観の表れであり、例えば同性愛一つとってみても、決して耽美的・貴族的な方へは向かない、下からの、屈折と怨念に満ちた、破壊と創造の迫力に圧倒される。




1994年頃に『いがらしみきお自選集』という全5巻の上製本が出た際に、ネ暗トピア、あんたが悪いっ等々の個別の単行本を売り払ってしまったのだが、この自選集が、ご本人のロング・インタビューを収めている以外はどうにもならない代物で。

編集が悪い。年代順でもなくテーマ別でも掲載誌別でもなく、「てーじろーさん」のような続きものの重要作も漏れている。
1984年にいったん休筆するまで、およそ5年、一水社のエロマンガ誌に掲載した作品群を発表年代の逆順で収めた『家宝』によれば、彼の作風や技法、あるいはよだれ、空中コケ、む~ん、馬糞タンコブなど細かな描写は驚くほど変わっているので、彼の世界を満喫するためには最低限の背景・系統を知っておくことは欠かせず、結局は最初の単行本化に頼らざるをえない結果となった。

作風の変遷について『しこたまだった!・1』のあとがきで彼自身「既成の"文法"に頼った、近頃の少年マンガはつまらない。女の子(ラブコメ)であれメカ(バイクやロボット)であれ。マンガ家続けたいからやってるとしか思えない」と述べているのが興味深い。

また、ジャズとプロレス、特に後者を押さえておけば恐れるものはない、といったことも語っている。反則技で負けになったレスラーがいるとしても、見る者に、それは反則ではなく、彼の勝ちだと解釈する自由があり、それぞれ違った見方ができるのが素晴らしいと。
この自由さが、既存の文法に頼ることを潔しとさせず、逆に文法を壊して前進しようと考えさせたのは必然といえよう。

しかし、次々と新たなギャグや技法を生み出し、多数の連載を抱え、やがてはシュールな、意味そのものを問うようなマンガを描き、休筆へと至ったいがらしみきおが、あの時代に寵児であった、存在理由は、さらなる深層に―






上の画像2点は、つながっているようで、別々のマンガである。
松本伊代吉、坂山玄馬さん、川馬鹿先生、レスラーのターゴ・ヨサク、巨根で精力絶倫の野ブタ、同じく絶倫のじじいと娘の道代など、繰り返し登場する、お馴染みの人物の中でも、頻繁に現れ、最も初期いがらしみきおの世界を象徴していると感じさせるのが「山田マサオ」だ。

彼の「やりたいやりたい。けど全くもてない。できない」境遇は、女の子と仲良くなるため小学校低学年時代がいちばんデッサン練習したという、いがらしさん自身マンガを描く原動力の表れとして、強迫観念にも似た執拗さで、われわれ男性の心に訴えかける。

と同時に、彼の泣き声に呼応し、スックと立ち上がり、そして力なくへたりこんだ全国の同志は、次の時代にはさらにこじらせて、秋葉原事件や黒子のバスケ事件を起こしたり、もっと卑近にはネットの仮想に力を得て「つまようじ犯」「ドローン少年」に転じたかも分からない。




結婚式ならぬ、オメコ売買式。
先日、アメトークの「イイ女の雰囲気出してる芸人」を見て、あけすけに女の性欲を語る様子が好ましく、お見合いでようやく結婚できて、性の部分では非常に抑圧されていた私の母を思い出すと隔世の感があり、泣き笑いした。

戦後民主主義により、男女同権が保証されたとはいえ、それは名目上のことで、実際には男性中心の買い手市場=女は性や出産・子育てや家事労働を売る=によって高度成長が成し遂げられた。が次第に、名は体を表し、生殖のリスクが大き過ぎる女の方が恋愛市場の主導権を握り始めたことに対し、いがらしみきおは「女子大生は亡国の民だなや。人権はない」と叫ぶ。ここにはトーホグ・宮城県から生まれた、祝祭の陰画めいた、男根原理の称揚がある。
現実にもてたい彼は、ラブコメやメカに逃避することはないが、といって女の立場に歩み寄ることなく生み出された強烈な創作の数々は、おたくをこじらせた結果としての犯罪心理さえ予見しており、さまざまな意味で末期症状を呈するわが国の村社会・男社会を体現して余すところない―






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家宝 いずみムック
いがらしみきお
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