マガジンひとり

自分なりの記録

Tribute #3 - 洋楽の中のにっぽん

2014-02-16 23:22:16 | 音楽
この『スターシップと俳句』というハヤカワ文庫の一冊を、ずっと読まないまま保管し、このほど手放すことになったのでパラパラ拾い読みしてみると、日本人は外国人から誤解されているのでは?との被害妄想が極度にデフォルメされたような怪作であった。

2022年、人類がクジラとのファースト・コンタクトに成功した結果、なんと日本人はクジラの子孫であることが明らかに。
日本人は父祖を殺して食べている汚名をすすぐため集団自決を始める。
名誉ある死を迎えるための施設=シコク(死国)が建設される一方、クジラの子を身ごもった主人公イシダ・リョウコはくじら座タウへ向け旅立つ–

これを書いたソムトウ・スチャリトクルとは、タイ王室ともゆかりがあって日本を含むさまざまな国を訪れた経験を持ち、アメリカで活動する作家なので、無知や誤解からではなく、むしろそれを逆手に取って、ありがちな誤解・偏見を徹底的にパロディ・戯画化してしまおうとの意図の下、奇妙奇天烈な日本を作り上げたのでしょう。

作中に散りばめられた俳句や日本語名詞など、おもちゃ箱をひっくり返したようなガチャガチャした騒々しさ・違和感があり、そういえば洋楽の中で日本語が使われたりするのも、そうした音響効果を狙ったりパロディ精神の表れなのかなと考えて、Tributeの一環として選曲してみようと。

結果、一方的な輸入超過と思われた音楽市場でも、さまざまな形で日本人が洋楽にもたらしたインスピレーションは決して小さくないことが分かる。
長きにわたって積み重ねられてきた異文化コミュニケーション。

いま、世界各国で認知を広げつつある韓国のK-Popは、内向きな人気取りに終始するJ-Popと対照的ではあるが、PSYにせよ少女時代にせよ、コンビニで売られるキャラクター商品のようなもので、サムソンや韓国野球の強さがごく一部のエリートによって支えられているのと同様、草の根の文化交流とは似て非なるものだ。

領土問題や従軍慰安婦問題にも同じ側面があり、今がチャンスとガッついて、輸出に政治宣伝に功を焦る彼らは、急いで拡大し過ぎて墓穴を掘った、かつてのわが国の写し絵に過ぎず、向きになって言い返すよりも、長期的視点でコツコツ誠意を積み重ねるべきではないだろうか–





iTunes Playlist "洋楽の中のにっぽん" 128 minutes
1) Mr. Roboto / Styx (1983 - Kilroy Was Here - ヴォコーダーを通した「どうもありがとう、ミスター・ロボット」との日本語が印象的なスティクスの人気曲。当時はお子さま向けにブレードランナー的にっぽんイメージを安易に使った曲と思ったが、けっこうよくできている)



2) Greasy Heart / Jefferson Airplane (1968 - Crown of Creation - 「お互いのため作られた、日本製の、脂ぎった心、自動人間」との歌詞)



3) Sheep / Pink Floyd (1977 - Animals - 「カラテを習得して立ち上がれ」と労働者に呼びかける歌詞。後のNot Now Johnは日本の経済進出に対し悪意むき出しの歌詞・ビデオ)



4) Kodachrome / Paul Simon (1973 - There Goes Rhymin' Simon - 「ニコンのカメラを持ってる」との歌詞)



5) Angela Surf City / The Walkmen (2010 - Lisbon - ご存知ウォークマンをバンド名に。ダットサンズというのもいる)



6) Yamaha / The-Dream (2010 - Love King - ヤマハの音楽機器への讃歌)



7) Gettin Up / Q-Tip (2008 - The Renaissance - ジャケでアカイのシーケンサーを掲げるQ-Tip)



8) 20th Century Boy / T. Rex (1973 - 20th Century Boy: The Ultimate Collection - 来日時に東京で録音された。浦沢直樹のマンガでも有名。日本のミュージシャンは「海外録音」を売りにしたがるが、場所やスタジオはロックとそれほど関係ないことが分かる)



9) Kamikaze / PJ Harvey (2000 - Stories from the City, Stories from the Sea - 特攻隊だけでなく、カミカゼという言葉のもたらすイメージ性に着目して作ったのだろう)



10) (I'll Never Be) Your Maggie May / Suzanne Vega (2001 - Songs in Red and Gray - 「自分を押し殺す日本女性」との歌詞。スザンヌ・ヴェガは創価学会員でもある)



11) The Ballad of John and Yoko / The Beatles (1969 - 1967-1970 - ロック界で最も有名な日本人=ヨーコ・オノ。ビートルズを解散させた厄介女と見られる一方、実践的芸術家としての才能には定評も)



12) It's No Game (Part 1) / David Bowie (1980 - Scary Monsters - ヒロタ・ミチなる女性により「シルエットや影が~」と歌詞直訳の日本語が挿入される。ボウイは他にも日本ネタ多し)



13) Equus / Blonde Redhead (2004 - Misery Is a Butterfly - ボーカルがカズ・マキノという日本人女性、ほかディアフーフのサトミ・マツザキなど、スザンヌ・ヴェガの歌詞とは裏腹に日本の女は活動的でたくましいというイメージを広げていよう)



14) El Scorcho / Weezer (1996 - Pinkerton - 日本人から熱烈なファンレターを受け、後に日本人と結婚するリバース・クオモが、その異文化への関心を原動力として作った名盤。ジャケは広重の浮世絵)



15) I Want You to Want Me / Cheap Trick (1979 - At Budokan - 武道館を有名にしたライブ盤からシングル・カットされヒット。聞かれる声援の主は今では韓流に夢中なおばさんになってるかも)



16) Big in Japan / Alphaville (1984 - First Harvest: The Best of Alphaville 1984-1992 - 「母国ではさっぱりだが日本では人気がある」との決まり文句をモチーフにしてヒット。同名のバンドもいた)



17) Turning Japanese / The Vapors (1980 - New Clear Days - 中国風の曲調で「日本人になりたい」と歌われる、英3位、米36位のヒット。一発屋に終わったが、この時期をしのぶコンピ盤では定番)



18) Tokyo Joe / Bryan Ferry (1977 - In Your Mind - 東京を題材に、わりと安直なエキゾティシズム)



19) Taking Islands in Africa / Japan (1980 - Gentlemen Take Polaroids - そのものズバリな名前の英バンド。日本でのアイドル的な人気が先行したが、内省的な歌詞や民俗音楽を取り入れるなど意欲的な活動で本国でも成功。土屋昌己が在籍したり坂本龍一との交流も)



20) Lead a Normal Life / Peter Gabriel (1980 - Peter Gabriel: 3rd - ほとんどがインストで、歌はちょっとだけなので、日本の俳句に想を得たとの説がある)



21) One More Time / Daft Punk (2000 - Discovery - ビデオクリップが松本零士によるアニメで、後にアルバム全編が『インターステラ5555』としてアニメ化)



22) Circus / Eric Clapton (1998 - Pilgrim - エヴァンゲリオンのキャラ原画を手がけた貞本義行によるジャケ。クラプトン本人も親日家)



23) Serpentine Fire / Earth, Wind & Fire (1977 - All 'n All - ジャケが長岡秀星によるイラスト。横尾忠則が手がけたサンタナやマイルス・デイビスのジャケも印象的)



24) Godzilla / Blue Öyster Cult (1977 - Spectres - 「東京の街を踏みつぶせ」と歌われる軽メタル。ゴジラが「ガッズィラ」と聞こえる)



25) Sadako Folding Cranes / Laura Veirs (2013 - Warp & Weft - 千羽鶴を折る被爆者の少女を描いた小説に想を得て作られた)



26) Hiroshima mon amour / Ultravox (1977 - Ha! Ha! Ha! - 『二十四時間の情事』というフランス映画の原題に基づく、ジョン・フォックス期のウルトラヴォックスの佳曲)



27) Kenji / Fort Minor (2005 - The Rising Tied - リンキン・パークのマイク・シノダは日系3世で、先祖が戦争中収容所に入れられた体験を基にこの曲を作った)



28) Too Much Monkey Business / Chuck Berry (1957 - After School Session - 「従軍してヨコハマにも滞在した」との歌詞。ベリー自身は軍隊の経験はないという)



29) Discovering Japan / Graham Parker & the Rumour (1979 - Squeezing Out Sparks - 訪日後に日本の印象を歌に。ディスカバー・ジャパンなる国鉄のキャンペーンもあったっけ)



30) Teo Torriatte (Let Us Cling Together) / Queen (1976 - A Day at the Races - 初期から応援してくれた日本のファンのため、サビを日本語で歌う。この頃、クイーン、イーグルス、キッス、レッド・ツェッペリンは洋楽でも別格的に人気があった)
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