無意識日記
宇多田光 word:i_
 



さて、DVDシングルの話。だけど宇多田ヒカルはDVDシングルという媒体をtravelingの時しこたま売っているので今更っちゃ今更なんだ。11年前の話だからね。もっと根本的な所から抉ってみよう。歌とビデオグリップの関係だ。

真面目に話し出すと80年代のMTVから始めないといけなくなるがなるべく簡潔に。MTVの成功は、それが全国ネットだった事(あのだだっ広い新大陸で、だ)と、テレビという確立した媒体に音楽をねじ込んだ事だ。

日本では紅白歌合戦という嘗ての化け物番組があって、80年代にはザ・ベストテンや歌のトップテンといったランキング番組も好視聴率を獲得していた。テレビから歌が流れていたのだ。

90年代には歌番組が下火になる。Hey!x3やうたばんといったトーク主体の番組が主流になったのは、彼ら話術の達人達の話術の方が大半の歌より視聴率が高かったからだ。なんとかゴールデンタイムで音楽番組を続けたいという制作側の苦肉の策だった。

しかし90年代は音楽市場がこれでもかと肥大化する。CDシングルの出現とカラオケボックスの隆盛である。このサイクルの爆発力は凄まじく、小室哲哉を長者番付第4位に押し上げるまでになった。その最後に登場したのが真打ち宇多田ヒカルである。765万枚って凄まじい。少年ジャンプですら、スーパーマリオブラザーズですらかなわない数字なのだから恐れ入る。そしてヒカルの登場とともに8cmシングルは下火になりCD全体が売れなくなってゆく。

そこに登場したのがiPodと携帯の着うただ。iTunes Storeにいち早く楽曲を送り込んだヒカルは程なく年間1位を獲得、着うたダウンロードでも世界年間2位となった。またもスーマリ越え。驚異的。

そして今はAmazon MP3にも誰よりも積極的に打って出てたった2週間で年間1位を獲得。新しい媒体に早め早めにアプローチする事でどんどん「年間1位」の看板を獲得していく。これが実に小気味良い。まぁヒカルからしたら「そっちの方が便利じゃん」という程度の事なのかもしれないが。


そういった流れを踏まえた上での桜流しのビデオグリップ重視戦略なのだ。つまり、新しい媒体に打って出る為の布石。それは多分、第二世代タブレット、iPad miniやKindleといったガジェットでの普及を睨み始めたのではないか。

80年代にアメリカで音楽が爆発的に普及したのは前述の通りMTVの影響だった。日本でもテレビから歌が流れてくるからみんな"見た"のだ。当欄でもしつこく指摘してきたように音楽を聴いている時に"視覚"をどうするか。そこの埋め方次第で新しい時代が開けてくるのではないか。

iPadは寝っ転がってみるには重すぎた。マンガ本や文庫本みたいに、ゴロゴロしながらビデオグリップを見れたら…つまり、そういう新しい音楽消費のカタチの提案の下準備が桜流しの映像重視路線なのではないか。DVDシングルと配信の併用は、ビデオグリップという体裁に対して皆がどれだけフィジカルにこだわるかを計る試金石的役割がある気がする。コレクションとして欲しがる人間は別に発売が遅くなっても買う。リアルタイム性を重視する層には配信で対応。そういう設計図なのではないか。

当方は桜流しのビデオクリップをiPod Touchで観るのだが、やっぱり少し小さい。そして、スピーカーで鳴らした時の音がしょぼすぎる。もし仮に、iPad miniやKindleと同じ位のサイズで"いい音の鳴るガジェット"が出現すれば、覇権をとる可能性がある。昔でいう、もう今は、若い子は特に持っていないだろう"ラジカセ"にあたるヒット商品になるのではないか。漫画を読むような手軽さでビデオクリップを楽しむ時代…それを睨んで"映像ディレクター・宇多田光"がGBHPVに続いて桜流しのビデオクリップに注力していたとしたら…。もしかしたらこれからのヒカルの新曲は映像なしには語れ得なくなっていくかもしれない。どうなるか、まだまだ先の事ながら楽しみだ。

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朝からヒカルが英語ツイートしているな…そう、宇多田ヒカルが。それによると世界中のiTunes Storeで桜流しが購入できつつあるそうな。日本は勿論の事、英国、フランス、オーストリア、ドイツ、スイス、オランダ、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、イタリア、ポーランド、カナダ、米国では既に、更にオーストラリア、ブラジル、メキシコでも予定されているとか。香港等アジア圏ではもうチャートインしているし、まぁ見事な世界展開だ。

桜流しから宇多田ヒカルの活動は新しい局面に入る。勿論本格始動はまだまだ先だろうが、その活動形態の雛型、或いは原型が少しずつ見えてくるという段階だろうか。日本でもたった二週間の集計でAmazon MP3では年間1位を獲得した。遠慮なく配信主体の売り方だ。

しかし、日本では配信購入は伸び悩んでいるとの報。これは、元々PC配信の市場が相対的に小さい上にスマートフォンへのハードの移行でフィーチャーフォンでの着うた配信が下火になった割に皆スマートフォンでは配信を利用していないからだ。PCを開く位ならYoutubeを検索した方が早いのだからPC配信が伸びないのはわかるが、スマホでの楽曲購入も盛んになっていない。ここらへんを打ち破らないとまだまだ配信のシェアは下がっていくだろう。

実際、街中で見ていても直接スマホにイヤフォンを刺している人って少ない。音楽プレイヤーは別に持っていて、そこから聴いている人が多い。手元で購入してそのまま聴くより、リッピングしてプレイヤーに落とす人の方が多い事になる。恐らく、配信購入よりレンタルの方が圧倒的に利用回数が多いのではないか。

ここをどう解釈するか。桜流しがCDシングルを出さないと宣言したのはもしかしたら、レンタル対策かもしれない。配信のみに特化する事によって確実にファンを先取りして掴む。250円というのは流石に高額だが(何しろ12曲購入したら3000円で、CDアルバムと変わらない)、こうであれば配信を買う事になる。30万ダウンロードという数字は、そういった購入者心理をついた結果かもしれない。

この後DVDシングルがリリースされるが、ここから音声を抽出するのは一手間で、レンタルしてリッピングする層に比べれば数%に留まるだろう。現行では見事戦略が当たっている事になるが、はてさてこのビデオグリップ配信からDVDシングルの発売への流れ、他にどんな意図があるだろう。次回はそこらへんの話を。

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