ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん59…神楽坂 『天下一品』の、こってりスープのラーメン+味重ね

2006年09月11日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 久しぶりに深酒をしてしまい、ふらふらと彷徨う神楽坂。よもやま話で盛り上がり、焼酎のストレートの杯を重ね、店を後に同行の方と別れたあともすっかり上機嫌である。家路につくわけでもなく坂を上ったり下りたりを繰り返し、見つけたゲームセンターにぶらりと迷い込みと、何だか行動が意味不明になってきた。飲んでばかりで小腹も空いており、締めにラーメンでも食べたら少しはお腹も落ち着き、正気に戻る? かも知れない。すると目の前に、懐かしのラーメン屋台を発見。さすが江戸情緒を残す町神楽坂、未だもって夜泣きそば(古い!)も健在ということか。

 …とよく見れば、店頭にオブジェとして屋台がはまった店舗のよう。中はもちろんラーメン屋で、日の丸に大きく『天下一品』とのロゴが目立つ。屋台のオープンエアでラーメンをすすって酔い覚まし、もよかったが、店内のカウンターに落ち着くことにした。もう23時前というのに店内は結構な人で、サラリーマングループやカップル、学生風、ひとり客など客層は様々。自分同様、飲んだしめくくりにラーメンといった客も結構いるようだ。メニューをパラパラと眺め、ラーメンと勢いでチャーハンのセットを頼むことに。すると店の人が「スープはいかがしましょうか?」。スープが選べるらしく、味噌か塩か醤油を選ぶのか、とと再びメニューを開いたところ、「こってり」「あっさり」と分かりやすい2種に加え「味重ね」というのが気になる。

 しばらくして運ばれてきたラーメンは、見るからに濃い。茶色がかった色もそうだが、レンゲですくうとドロリと粘りがあるほどに感じるほど、濃厚である。しかしすすってみるとこれがなかなか、程良い酸味に加えて、芯の通った骨太のコクに思わず絶句。こってりしているといっても脂のきつさはなく、後から後から覆い被さってくる多重な旨みにレンゲがとまらない。最近のスタイリッシュなラーメンのような、スッキリした切れ味と品ははっきりいってないが、飲み過ぎた後には体の芯まで深くしみいる、涙が出てくるような味だ。具も独特で、ネギに加えてシャキシャキ瑞々しい白菜が爽快さを、そしてこれまたコクを加える薄切りの豚バラ肉が、より食欲をあおってくる。

 チェーンのラーメン屋で知っている人も多いかも知れないこの店、以前、ラーメン職人の立志伝を描いたマンガ「ラーメン人物伝 一杯の魂」(ジャンプコミックスだったか?)で紹介されているのを読んだことがある。店頭に屋台がはめこまれているように、創業者の木村勉氏が昭和46年に京都でひきはじめた屋台のラーメンがルーツ。このスープが生まれたのは、当時同業者との味の差別化を図るためで、鶏骨と鶏皮をベースに各種野菜をドロドロに粘りが出るまで煮込み、まさに激濃。マンガでは、麺をすするときの音が「ドゥルドゥルドゥル」となっていたのを思い出す。ラーメンの流儀からすれば異端の声も多いけれど、創業者の「お客にとにかくうまいものを食べてもらうために」という志が生きている。常識や形よりもなによりも、美味しければいいじゃないか、というラーメンもまた、気持ちいいものである。

 ちなみにこの店のスープは、日向地鶏と7種の野菜を煮込んだ味噌ベースの「こってり」、シンプルな醤油味スープの「あっさり」、それに加えて注文した味重ねの3種から選べる仕組み。味重ねはこってりスープに加えて、さらに専用の付け合わせの薬味が添えられている。スープを数口、ストレートで味わったので、これらでまさに「味を重ねていく」ことに。白ごまを小鉢ですり下ろし、肉味噌の赤玉をスープに軽く溶かし、さらにおろしニンニクを5、6さじ、さらに揚げねぎをこれでもか、というほどバサッ。さらにテーブルに置かれている唐辛子味噌やニンニクと唐辛子を混ぜ込んで寝かせたもの、味が足りない時用の「ラーメンのタレ」なるものまで加えてしまった。勢いでちょっとやりすぎ、味がこわれたかな、と心配しながらすすったら、味の要素がさらに多重に、喧嘩せず積み重なっていてまたうまい。普通、客がこんなに勝手に薬味を加えて味を変えたら、スープに命をかけるラーメン職人は怒ってしまうかも知れない。でもこれもまた、美味しければいいじゃないか、のスタイルが踏襲されているのかも知れない。

 チェーンといってもこの店、面白いのはマニュアルでがちがちに縛るのではなく、店ごとに比較的自由度が高いこと。前述の「一杯の魂」によると、例えば子ども連れの客が多い店には子ども向けのメニューを設けたり、お客から「唐揚げは置いてないの?」との要望があればメニューに加えたりと、お客様本意で臨機応変。この店は自分のチャーハンセットほかセットメニューが豊富で、中にはチャーシュー丼とラーメンを組み合わせた「神楽坂セット」なるオリジナルも。店内の壁に掲げられている「金のかからないサービスは何でもやります」との張り紙も目を引く。ごちそうさまで店を後に、パンチのあるラーメンにチャーハンも加え、満腹な上にすっかり酔いも醒めたな、とふと片手をみると、提げているゲームセンターの袋に熊のぬいぐるみが入っている。ゲームセンターにぶらっと入ったのはうろ覚えだが、いつの間にこんなおみやげまで? (2006年9月4日食記)