ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん62…横浜・新杉田 『はなまるうどん』の、ぶっかけ温玉のせ中ひやひや

2006年09月21日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 明日(23日)から来週の火曜まで、山陰の漁港の市場めぐりに出掛けてきますので、週末の更新はお休みさせて頂きます。鳥取ではベニズワイガニ漁が始まったばかりの賀露漁港と、山陰屈指の底引き網漁の水揚げを誇る境港へ。松江では宍道湖名物の「宍道湖七珍」をいただき、運が良ければ湖のシジミ漁が見れれば… といった感じ。まだ夏休み中の四国行のアップもできていないので少々先になるかも知れませんが、情報が整理できたら順次紹介していきます。

 という訳で、今週は自宅そばの「はなまるうどん」のお話で締めくくり。チェーンながらも本場の「セルフ」形式を首都圏などに広めた功労者で、本場讃岐うどんとの違いなども交えて綴っていきます。 


 先日の1週間にわたる貧乏昼食生活の際、立ち食いスタンドのうどんは偉大な存在だと痛感した。1杯わずか200~300円ほどで1食分まかなえるのだから、いわばジャパニーズトラディショナルファーストフード。その日本うどん文化の大本山ともいえる香川の讃岐うどんが、このところ首都圏に猛烈な勢いで進出中、街中に「本場讃岐うどん」との看板を掲げたうどん店をよく見かけるようになった。さすが日本一のうどん処だけに、高松市民は1日1食はかならずうどんを食べているとか、喫茶店のメニューにうどんがあるとか、女の子をナンパするときに「お茶飲まない?」ではなく「うどん食べにいかへん?」 …それは大阪だったか? この手のローカル食にまつわる逸話はオーバーに語られていることが多いが(佐世保バーガーについての記事で、「佐世保駅に降り立った瞬間、町にはバーガーの匂いが漂っている」には笑った)、香川の讃岐うどんにまつわるそれは、どれも事実としてのネタばかり。讃岐うどんの起源をたどると、何と弘法大師にたどり着くというから、それだけ地元の生活に古くから、深く根付いた食文化ということなのだろう。

 とある日曜の夕方、自宅で原稿執筆を行っていたところ、煮詰って筆が完全に停止してしまった。こんな時は環境を変えるに限る、と、パソコンをカバンに放り込んで自転車で家を後に。行きつけのスタバにあるテラスで、風に当たりながらのんびり執筆するつもりで、いつもの最寄り駅・新杉田駅前の駅ビル「ラビスタ」へとやってきた。19時前ということもあり、軽く空腹を埋めてからにしようと思ったが、いつかブログで紹介したスタミナカレーの「バーグ」では食い過ぎになるし、横浜家系ラーメン総本家の「杉田家」のラーメンなんか食べた日には、この猛暑の中では汗が引かなくなってしまう。スタバでベーグルでもかじりながらやるか、と駅ビルをうろついていると、2階に『はなまるうどん』の店舗があったのを思い出した。うどんを軽く程度なら満腹で眠くならないし、2時間も執筆すれば消化されて、家に帰ってビールも飲めるか?

 普通の立ち食いスタンドでうどんを食べる際は、自販機で食券を買って窓口で出せばすぐに丼がサッ、という流れだろう。讃岐うどんは俗に言う「セルフ」というスタイルで、ベースとなるうどんとトッピングをそれぞれ、自分でセレクトして組み合わせるのである。といっても事はそう単純ではなく、うどんひとつとってオーダーのシステムがちょっと複雑だ。まずはうどんの形態からで、立ち食いスタンドだと「ざる」と「かけ」ぐらいなのに対し、讃岐うどんはぶっかけ、ざる、しょうゆ、かけ、釜揚げとバリエーションが豊かだ。特にぶっかけは「讃岐の定番」とあるように本場直伝のもので、麺を食べるたびにつゆにつけるのではなく、上からまさにぶっかけて頂くのが面白い。さらに麺の量、温麺か冷やしかを決めるのだが、量は麺ひと玉の小から3玉の大まで3段階、熱さ冷たさも温めた麺と熱いつゆの「あつあつ」、冷たい麺に熱いつゆの「ひやあつ」、ともに冷たい「ひやひや」と、実にきめ細かいこと。こうしたセミオーダーメイド感覚が、普通の立ち食いスタンドにない遊び心として受けているのかもしれない。

 うどんのスタイルを決めたところでようやく店内へと入り、トレイを片手に順序に従って進んでいく。最初はトッピングのコーナーで、好きなのをとって皿にのせていく仕組み。揚げ物類が種類豊富に並んでいて、なかなかうまそうだ。どれも店で揚げている手作りで、ちくわやげそ、エビ天、コロッケにかき揚げ、ささみや鳥唐揚げ、さらに野菜もかぼちゃ天、さつまいも天、ナス天と、つい手が出そうになってしまう。ほかおでん、寿司やおにぎりのコーナーもあり、しっかり食べたい時にはうれしい。今日のところは小腹の穴埋めなので、これらはパス。空のトレイのままで、最後のうどんのオーダーコーナーへと進んでいく。頼んだのはオーダー名でいうと「ぶっかけ温玉のせ中ひやひや」。これがどんなものになったかは、上段の説明を読み返してご理解を。

 はなまるうどんの発祥はもちろん、本場の高松だが、いわゆる現地の老舗や名店の東京進出ではない。創業者はうどんづくりの経験もうどん店経営の実績もない分、「素人の発想」を大事にしつつ、香川のうどん文化を広めることを目指したという。高松の店の成功を足がかりに、今では四国に20店あまり、北は旭川から南は沖縄まで、全国に広く展開している。いわば現在首都圏に進出している、讃岐うどんチェーンのパイオニア的存在といえるだろう。もっとも四国の知人に言わせれば、全国展開の讃岐うどんチェーンのはあくまで「本場風」。例えば現地のセルフはもっと客自身の作業領域が広く、中には丼を自分で手に取り、生麺を自分でゆでて入れ、ダシをやかんから注ぎ、薬味は自分で切ったりおろしたりしてのせるところもあるとか。薬味が切れたら裏の畑でネギを抜いてきたり、食べ終わった丼は流しで洗って、までやるというから、それに比べれば、はなまるのはセルフ「風」ぐらいか。もっとも本場の流儀に慣れない東京の客にそこまでやらせたら、店は渋滞必至だろう。
 
 トレイに出された丼には、やや多めの麺の上に温泉卵がポンとのっている。中で普通のかけうどんの1.2倍ぐらいの量はありそうだ。レジでお金を払うと400円弱ぐらいと、本場よりちょっと高いかも。ちなみに底値はかけの小で、わずか105円とこちらは本場と互角かも知れない。薬味のコーナーでたっぷりの削り節にワサビ、ゴマ、揚げ玉をたっぷりのせたらできあがり。まるでイキのいいイカ刺しのように、半分透き通った麺をまずひとすすり頂く。ここでは工場直送の生麺を、時間をよく考慮して茹で上げているから腰がしっかり、イコール少々固いようにも感じてしまう。歯ごたえがグッと抵抗があり芯が強く、のどごしもツルリというよりはグリン、といった感じか。前述の知人は加えて、「本場讃岐うどんでいうところの腰がある麺とは、かむと心地よい抵抗のあとに素直に切れるもの」というから、ここの麺もまた「本場風」ということなのだろうか。

 そんな風に麺の腰が強いから、味も強くしようと薬味もつい多めに追加してしまう。たっぷりのカツオブシの旨味、ゴマの香り、そしてワサビの切れ味のおかげで、強力な麺がするすると進む。コーナーには薬味の適量の説明に加え、「入れすぎるとダシの味を損ないます」との注意書きも目に入るけれど、煮干とサバ節と昆布をベースにとったつゆも味はしっかりしていて、薬味の個性に負けていない。そしてバッチリ合うのは、麺の中央にのった温泉卵。以前この店で、丼に落とした生卵の上に、釜でゆであがりたての熱々の麺を盛って手早くかき混ぜた「釜玉」、つまり釜揚げうどんプラス生卵を食べたことがある。その時は熱が加わった生卵が炒り卵状になり、麺にぶつぶつとまとわりついてあまりうまくなかったのだが、これは温泉卵がトロリと麺を包み込み、味わいをさらに増してくれてなかなか。麺はしっかりしているから時間がたっても伸びないけれど、温泉卵のまろやかさのおかげでつるりと食べられてしまう。

 厳しい目で見れば、チェーンの讃岐うどん店は結局のところ「本場風」なのかも知れないが、出来合いの麺を湯で温め直して出す立ち食いうどんに比べ、それはそれで差別化ができていていいのでは、という気もしてしまう。そういえば仕事で四国をよく訪れるものの、本場の讃岐うどんは未だ食べたことがない。いつも松山とか高知とか、海の幸が美味しいほうばかり行っていないで、今度機会があったらぜひ讃岐うどんのはしごにチャレンジしてみよう。でもそのまえに、レジにおいてあった映画「UDON」の割引券を使わせてもらい、とりあえずは予習しておくことにするか。(2006年9月10日食記)


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