ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん57…神田 『万世パーコー麺』の、パーコーラーメン玉子のせ

2006年09月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 ここ数年我が家では、8月の上旬に行われるJRの「ポケモンスタンプラリー」が、夏の公式行事として定着している。東京近郊の主な駅に設置された、ポケモンのキャラの絵柄のスタンプを押して回るもので、7つ押せばレジャーシートとかビニールバックとかの景品がもらえる仕組み。その時点でさらに、首都圏の98駅全駅のポケモンスタンプが押せるスタンプ帳がもらえ、全スタンプ制覇を目指して家内が子供をつれて今日は熊谷、明日は牛久、さらに八王子、千葉と、首都圏全域をはるばる巡っているのである。何ともご苦労なことで… と傍観してるだけでは当然済まず、自分も都内に用事があることが多いので、この時期は協力して仕事先にスタンプ帳片手に出かけることも多い。改札を出たところに設置してあるスタンプ台に、子供に混じってキャラ入りのスタンプ帳をもって並び、しかもひとりで4人分も押しているのは気恥ずかしいが、ご同類らしいお父さんを各地で見かけるのも何だか可笑しい。

 この日は秋葉原に、先日買い損ねた鉄道旅行作家の著作を買いに行くところ、ついでということでスタンプ帳を託されることになった。代々木から千駄ヶ谷、信濃町、と中央線をひと駅ひと駅押して回り、秋葉原まで押せたはいいがこの日は35度を越える真夏日。冷房の電車内と猛暑の外を頻繁に行き来していたせいか、終わり近くで少々へばってしまった。残っている鶯谷駅を押しにいこうと、上野方面行きの山手線に乗ったら眠ってしまったらしく、気がつくと東京の手前。ほぼ1周分居眠りしてしまったようで、先に最後に押す予定だった神田駅で下車した。南口の改札を出て、ぺたんとスタンプを押してひと息、あと鶯谷駅が残っているけれど、暑さバテを回避するためにもここらできちんとお昼を食べておきたい。

 駅から出て高架沿いの商店街を歩いていると、JRの高架下に最近行って見覚えのある店を発見。赤レンガをあしらった外観に、黒字に赤で牛のイラストと「万世」の文字。万世橋にある「肉の万世」直営の焼肉店のようで、その名も「万世牧場」とある。この間、秋葉原を訪れたときに本店で名物の「万かつサンド」を買ったのを思い出して、同様にお昼に手軽なものがないか探してみることにした。店頭にはちょうど、ランチタイムのおすすめメニューが掲げられていて、手作りハンバーグ奥久慈卵の目玉焼きつき、黒毛和牛のハンバーグカレーなど、精肉店の経営だけにボリュームある肉料理が目をひく。

 スタミナをつけるべくハンバーグに決めて店内に入ろうとしたところ、やや先の高架下にも同様の店舗があるのが見え、足を運んでみたらこちらは何とラーメン屋だ。肉の万世のもうひとつの名物である、パーコー麺を扱う『万世パーコー麺』で、昔有楽町や東京駅八重洲にあった店舗によく食べに行ったことを思い出し、懐かしさに誘われてこちらの扉をくぐることにした。中は厨房を囲むようにぐるりとカウンターが設置されているのも、かつて通ったほかの店舗と同じで懐かしい。あまりの暑さに、冷房が効いた奥の席へと落ち着き、お冷やをぐっと飲み干してから入口近くの食券券売機へと向かった。

 店名にもなっているパーコー麺とは、漢字で書くと「排骨麺」。排骨とは、中華料理で言う豚のあばら肉のことで、これを塩コショウや香辛料にまぶして衣をつけて油で揚げたのをのせた、ボリューム満点のラーメンである。券売機の前に立つと、定番のパーコー麺のほか、上に肉味噌をかけた「肉みそパーコー」、パーコーが増量の「ダブルパーコー」、さらにトッピングの卵やサイドメニューの焼き飯のボタンを見て、当時空腹を抱えながら注文の組み合わせに頭を悩ませていたのを思い出す。今日のところは、シンプルに「パーコー麺」といこう。卓に置かれているメニューにある、エビスのランチビールもひかれるが、再びスタンプめぐりをする時にどっと汗をかきそうなので我慢する。見回すとモツ煮や枝豆など、1品200~300円ほどのつまみの貼紙が壁にいっぱい掲示されていていて、酒も「田苑」「久米仙」「一刻者」など本格焼酎もそろっている様子。八重洲や有楽町店と違い、ラーメン店というよりはガード下の居酒屋といった雰囲気で、神田という立地ならではなのだろうか。

 昔はダブルパーコー麺に普通盛りの焼き飯を注文して、わき目も振らずガンガン平らげていたけれど、運ばれてきたパーコー麺の丼を見て、改めてそのボリュームに、昔はどえらい食欲だったんだな、と感慨深くなってしまう。精肉店直営なだけにドン、とトンカツ丸1枚分の大きさのがのったパーコーはなかなかの迫力ものだ。これからひと切れ頂くと、カリッとした衣と対照的に、肉は実にジューシー。揚げてあるといっても見た目ほど脂っこくなく、さっくりした食感でこの暑さでもすいすい食べられてしまう。一方スープはかなり薄味の醤油味、そして麺が万世特有で、なんとなくの太麺は腰がないというか、非常に柔らかというか。ともに、一般的なラーメン好きなら好みの分かれるところだが、それでもズルリとすすっては薄味スープをぐっと飲み、パーコーをかじり、と食べ進めると、意外にしっかりとバランスがとれているのが何とも不思議である。

 巨大なパーコーに最初はちょっとひるんだけれど、すっかり平らげてしまうと味玉をのせてもよかったかな、焼き飯もいけたかも、などとちょっと強気に思ってしまう。お腹も落ち着き、元気が出たところで残りのスタンプを押しにいこう、と店を出ようとしたところ、大学生ぐらいのふたり組みが、例のスタンプ帳を片手に店へとやってきた。「代理」の自分でも、スタンプを押したりするのは恥ずかしいのに、いい大人でも本気で平気に参加している人がいるものだ。たたずまいや持ち物からして、どうやらアニメ系マニアらしく、そういえば神田の次の駅は、オタクの殿堂・秋葉原だったな。(2006年8月12日食記)