夏の東北は祭り一色だ。かつては三大祭りと称されていたが、最近は「六大祭り」と呼ばれ、8月上旬はどの県も祭り三昧の活気にあふれている。岩手県の盛岡では「さんさ踊り」がラインナップされており、今が旬の三陸のローカル魚が豊富なのも、当地への旅の楽しみのひとつ。祭りの活気の流れにのって夏の地魚三昧に浸るのも一興、とばかり、祭り初日のお昼過ぎに盛岡駅へと降り立った。駅前にもさんさ踊りの会場が設けられ、玄関口からして祭りの盛り上がりにあふれている。
さんさ踊りのパレードは夕方からなので、まずは基本を押さえるべく、盛岡城跡のそばにある「もりおか歴史文化館」へと足を運んだ。祭り常設展示室へ入ると、実物大のチャグチャグ馬っこの模型がお出迎え。6月に行われる盛岡のもう一つの代表的な祭りで、きらびやかな馬具で飾られた馬の行進が華やかな祭事である。この日お目当てのさんさ踊りについては、隣接の映像コーナーで歴史や踊り方を紹介しており、踊り手の臨場感や笛、鐘、太鼓による賑わいが、スクリーンからも伝わってくる。
パネルの展示によると、さんさ踊りの起源は、南部盛岡城の時代の逸話に所以するとあった。いわく、山から城下へと下りてきて村人に悪さをした「羅刹(らせつ)」という鬼を、三ツ石神社の神様が捕らえ、二度と里に現れない約束として境内の大岩「三ツ石」に手形を押させた。村人がその祝いに岩のまわりを「さんさ、さんさ」と踊りまわったのが、さんさ踊りの始まりだそうだ。大岩に手形を押したくだりが岩手の県名の由来ともあり、いわば岩手県を形作った祭事と思えばなかなかな由緒が感じられる。
ひと通り展示を見て、祭りの造詣を深めたところで、外へ出るとまだ17時過ぎ。踊りを観覧する前に軽く一杯ひっかけて、気勢を上げるのも悪くない。ご当地感のある店を探すべく、繁華街の大通りを歩いていると、さっき目にしたチャグチャグ馬っこに再び出くわした。居酒屋の店頭に配されたオブジェらしく、古民家風の構えにも惹かれこの「南部長屋酒場」へ足を向けた。暖簾をくぐった先、蔵に取り付けられたような小扉が入口で、かがんで入ると内部は南部の曲り家風。帳場のような囲炉裏の間を囲むようにカウンター席が設けられ、着くと太鼓がドドン!と出迎えてくれた。まるで田舎の邸宅にて、祭り前夜の宴に招かれたかのようである。
店内では「あさ開」「桜顔」といった、地酒の銘柄が染め抜かれた法被の兄さんが元気に立ち回り、ローカル気分がさらに盛り上がる。渇きを癒すにはまずはビールとばかり、地ビールの「ベアレンクラシック」を。そしてこの季節に頼むべき三陸のアテの筆頭格は、ホヤで決まりだ。ベアレンビールは本場ドイツの醸造設備を使ったヨーロッパスタイルのビールで、盛岡が誇る本格的地ビール。ずんぐりした瓶のクラシックをグラスに注ぐと、薄暗い店内に灯る行灯と裸電球の光に淡い琥珀色がほのかに揺れる。ドッシリした当たりと弾けるような喉越しに、グラスを置くと思わず唸ってしまう。
そしてホヤは定番の酢の物だけでなく、刺身があるのが産地ならでは。鮮やかな橙色の切っつけはエッジがキリッと立っており、鮮度の良さは見た目からして分かる。一切れいくと、水揚げしたてのようなシャクシャクした食感の後、磯の香りが口中にて炸裂。夏の海をそっくりそのまま食べるかのような爽快感に、箸が止まらなくなってしまう。ホヤは「海のフルーツ」と例えられ、パイナップルやイチゴのような果実甘さがあるといわれるが、これは潮臭さが圧倒している。刺身だと素材ならではの味を素直に楽しめ、新たな味覚の発見である。
岩手県はホヤの水揚げ量が県別で三本の指に入る、一大産地かつ消費地である。夏が旬な中、水温が上がる7〜8月は身が締まり厚くなるため、食味がいちばんいい時期とされる。加えて鮮度が勝負の魚介のため、水揚げ地に近いほど甘みがありくせがない。これぞ夏祭りの時期に当地にて食べるべし、の理由で、夏の岩手にてホヤに出会って開眼、やみつきのアテとなってしまった飲んべも少なくないとか。またホヤには日本酒が合うといわれるが、この季節のホヤはビールでも焼酎でも、酒の種類を選ばない実力を秘める。ベアレンクラシックの程よい酸味が、ホヤの磯の香りとぶつかり合いせめぎ合い、寄せては返す口福に浸り飲み耽ってしまう。
古民家風のカウンターの心地よさに根が生えてしまうところだが、さんさ踊り観覧を前に沈んでしまってはいけない。三陸の魚介を軽くもうひと品と、三陸産ワカメのめかぶのせ冷奴で締めとした。サービスの味噌汁をいただいていたら、カウンター内に店のお兄さん方がずらり勢ぞろい。店の名物パフォーマンス・さんさ踊り実演だそうで、本番の観覧前に楽しませてもらった。説明の方によると「さっこらちょいわやっせ」の掛け声は「幸呼来」、つまり幸せを呼び来てもらうとの意味だそう。旬のホヤで幸せ気分になった上にさらに踊りで幸せを呼んでもらえ、盛岡の祭りと魚の夜はいよいよハッピーに更けていく。
さんさ踊りのパレードは夕方からなので、まずは基本を押さえるべく、盛岡城跡のそばにある「もりおか歴史文化館」へと足を運んだ。祭り常設展示室へ入ると、実物大のチャグチャグ馬っこの模型がお出迎え。6月に行われる盛岡のもう一つの代表的な祭りで、きらびやかな馬具で飾られた馬の行進が華やかな祭事である。この日お目当てのさんさ踊りについては、隣接の映像コーナーで歴史や踊り方を紹介しており、踊り手の臨場感や笛、鐘、太鼓による賑わいが、スクリーンからも伝わってくる。
パネルの展示によると、さんさ踊りの起源は、南部盛岡城の時代の逸話に所以するとあった。いわく、山から城下へと下りてきて村人に悪さをした「羅刹(らせつ)」という鬼を、三ツ石神社の神様が捕らえ、二度と里に現れない約束として境内の大岩「三ツ石」に手形を押させた。村人がその祝いに岩のまわりを「さんさ、さんさ」と踊りまわったのが、さんさ踊りの始まりだそうだ。大岩に手形を押したくだりが岩手の県名の由来ともあり、いわば岩手県を形作った祭事と思えばなかなかな由緒が感じられる。
ひと通り展示を見て、祭りの造詣を深めたところで、外へ出るとまだ17時過ぎ。踊りを観覧する前に軽く一杯ひっかけて、気勢を上げるのも悪くない。ご当地感のある店を探すべく、繁華街の大通りを歩いていると、さっき目にしたチャグチャグ馬っこに再び出くわした。居酒屋の店頭に配されたオブジェらしく、古民家風の構えにも惹かれこの「南部長屋酒場」へ足を向けた。暖簾をくぐった先、蔵に取り付けられたような小扉が入口で、かがんで入ると内部は南部の曲り家風。帳場のような囲炉裏の間を囲むようにカウンター席が設けられ、着くと太鼓がドドン!と出迎えてくれた。まるで田舎の邸宅にて、祭り前夜の宴に招かれたかのようである。
店内では「あさ開」「桜顔」といった、地酒の銘柄が染め抜かれた法被の兄さんが元気に立ち回り、ローカル気分がさらに盛り上がる。渇きを癒すにはまずはビールとばかり、地ビールの「ベアレンクラシック」を。そしてこの季節に頼むべき三陸のアテの筆頭格は、ホヤで決まりだ。ベアレンビールは本場ドイツの醸造設備を使ったヨーロッパスタイルのビールで、盛岡が誇る本格的地ビール。ずんぐりした瓶のクラシックをグラスに注ぐと、薄暗い店内に灯る行灯と裸電球の光に淡い琥珀色がほのかに揺れる。ドッシリした当たりと弾けるような喉越しに、グラスを置くと思わず唸ってしまう。
そしてホヤは定番の酢の物だけでなく、刺身があるのが産地ならでは。鮮やかな橙色の切っつけはエッジがキリッと立っており、鮮度の良さは見た目からして分かる。一切れいくと、水揚げしたてのようなシャクシャクした食感の後、磯の香りが口中にて炸裂。夏の海をそっくりそのまま食べるかのような爽快感に、箸が止まらなくなってしまう。ホヤは「海のフルーツ」と例えられ、パイナップルやイチゴのような果実甘さがあるといわれるが、これは潮臭さが圧倒している。刺身だと素材ならではの味を素直に楽しめ、新たな味覚の発見である。
岩手県はホヤの水揚げ量が県別で三本の指に入る、一大産地かつ消費地である。夏が旬な中、水温が上がる7〜8月は身が締まり厚くなるため、食味がいちばんいい時期とされる。加えて鮮度が勝負の魚介のため、水揚げ地に近いほど甘みがありくせがない。これぞ夏祭りの時期に当地にて食べるべし、の理由で、夏の岩手にてホヤに出会って開眼、やみつきのアテとなってしまった飲んべも少なくないとか。またホヤには日本酒が合うといわれるが、この季節のホヤはビールでも焼酎でも、酒の種類を選ばない実力を秘める。ベアレンクラシックの程よい酸味が、ホヤの磯の香りとぶつかり合いせめぎ合い、寄せては返す口福に浸り飲み耽ってしまう。
古民家風のカウンターの心地よさに根が生えてしまうところだが、さんさ踊り観覧を前に沈んでしまってはいけない。三陸の魚介を軽くもうひと品と、三陸産ワカメのめかぶのせ冷奴で締めとした。サービスの味噌汁をいただいていたら、カウンター内に店のお兄さん方がずらり勢ぞろい。店の名物パフォーマンス・さんさ踊り実演だそうで、本番の観覧前に楽しませてもらった。説明の方によると「さっこらちょいわやっせ」の掛け声は「幸呼来」、つまり幸せを呼び来てもらうとの意味だそう。旬のホヤで幸せ気分になった上にさらに踊りで幸せを呼んでもらえ、盛岡の祭りと魚の夜はいよいよハッピーに更けていく。
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