ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

ローカル魚でとれたてごはん…盛岡 『さんさ踊り』の、ホウボウ姿造りとアイナメの刺身

2016年08月01日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
大通りの居酒屋「南部藩長屋酒場」にてプレ・さんさ踊りを披露いただいたおかげで、本番に向けテンションもグッと高まってきた。玄関のチャグチャグ馬っこのオブジェに再び見送られいざ、さんさ踊りのパレードが催されている中央通へと向かう。路地の飲み屋街の沿道には露店が目立ち、鮮やかな着物姿に丸い太鼓を抱えた若い人の姿も。次第にドドドン、カカカッとの囃子が腹の底に響き始め、沿道に立てば夏祭り気分が最高潮に達する。

次々に練り来る踊りの波は、団体によってスタイルが様々だ。笛太鼓と鐘の音に合わせ、手を水平に振っては回す優雅な動きの踊りは「統合さんさ」と称される。さんさ踊りは盆踊りや町流しなど、地域ごとに様々な形で伝承されたため、かつては踊り方が各所で異なっていた。それを多くの人が踊れ楽しめるよう、文字どおり各地の様式を統合して生み出されたものが、統合さんさである。基本の「七夕崩し」、柔らかい動きの「栄夜差(えいやさ)踊り」、観衆に礼をする所作が愛らしい「福呼(ふっこ)踊り」の3種があり、団体によりリズム、テンポ、調子が微妙に違うのが見ていて楽しい。中にはチアリーディングやラインダンスのように、一糸乱れぬ統率された所作が見事な団体も。

オーソドックスな統合さんさとは対照的に、テンポが速く左右の振りや回転など動きが激しい、いわば玄人仕様の踊りが「伝統さんさ」と称される様式である。盛岡と周辺地域に受け継がれてきた発祥当時のスタイルで、太鼓を向き合って打ち合う様や、急き立てるような笛の囃子に、故事にある鬼を山へと追いはらう迫力が感じられるかのようだ。鐘の音のリードに導かれたリズミカルな太鼓の響きと、落ち着いた低音の笛の音が絡み、五色の腰帯をまとい蓮花をあしらった傘を被った踊り手が、囃子に合わせ舞い踊る。パレードでは統合・伝統の踊りが入り混じり、様々な団体のとりどりな動きがうねるように押し寄せては流れ去ってゆく。目も足もしばし釘付けとなった、真夏の華あふれるひと時となった。

そんな祭りの熱の影響か、夜が更けても気温は一向に下がる気配がない。喉を潤し祭りの余韻に浸りつつ一杯といきたく大通りへ引き返したところ、まさにドンピシャの店を発見。その名もズバリ「さんさ踊り」との屋号とくれば、今宵暖簾をくぐらぬわけにはいくまい。小ぢんまりした店内は祭りの勢いそのままに満席で、野良着姿のおばちゃんたちのシャキシャキした応対がキレのいいこと。南部長屋酒場の兄さんたちとはまた対照的な、岩手の素朴なローカルさにあふれる雰囲気に、ここで沈むのもよし、との気分が湧き上がってくる。

カウンターの脇には敷き氷の上に鮮魚かずらり揃っており、魚系の料理はなかなかやりそうな予感がする。一軒目では夏の三陸の定番魚介を攻めたため、ここではさらなるディープなローカル魚探訪といきたい。盛岡に構える蔵の地酒三種に浸れる「南部杜氏セット」をオーダーして、酒の構えは準備万端。アテの思案をしつつ突き出しのアラ汁をつついたら、オレンジのヒレが棘ばったトビウオのような見慣れぬ魚が入っていた。アラのヒレの付け根は身の味が濃いのが相場だが、これは極めて淡白で汁も潮の味が澄みきっている。ブリのような流線型の頭をばらし、ゼラチンもしゃぶれば勢い酒も呼び、水のようにキレの良い「菊の司」の盃がまず空になった。

カウンター越しに親父さんにアラ汁の魚の正体を尋ねたら「ホウボウ。東京では高級魚でしょう? 」。三陸では今が旬だそうで、この時期だからこそ味わえる、と勧められた姿盛りを思い切って頼んでみた。もう一品、祭りの時期に旬を迎える地魚を尋ねたら、アイナメも今ならつくりがおすすめとのこと。先に俎板に登場したのはホウボウで、目の前で橙の魚体から大振りのヒレが落とされ、おろされていく。白身のさくからていねいに骨抜きが施され、引かれると程よく脂ののった鯛のような見栄えの切っつけに。ウマヅラの頭と広げたヒレも添えて出され、まるで皿の上で羽ばたくかのようだ。

料理屋ではあまり聞きなれないホウボウだが、道南以南の浅瀬の砂泥地に広く棲息している魚である。この店のは宮古で揚がったもので、一切れいくとコシのある歯応えが口の中で跳ね躍動。キレのある旨味がほのかに後を引き、実に清々しい食味である。エビやカニやシャコをエサとしているのが、白身の味の良さの理由。一説にはヒラメや鯛以上とも評価されており、高級魚との親父さんの話も納得の味だ。そう聞いて味わえば、とぼけ面に派手な色とでかいヒレといった押し出しある見た目にも、風格と気品が感じられるような。身のほか皮目のゼラチンのうまさも特筆もので、アラ汁はその本領発揮の品。ちなみに大きなヒレは海中を羽ばたくように泳ぐほか、エサ探しの際に砂地を這うのに役立っているのだとか。

合わせて出されたアイナメはほんのりピンクを帯びており、ホウボウとは対照的に華のある見た目だ。味もまた好対照で、やんわりした食感に脂ののりが絶妙のバランス。マグロのもったりした脂濃さのやや手前、寸止めのゆえの気高さが感じられる。アイナメの水揚げは宮古が代表的で、こちらも地元では比較的高級魚。30〜40センチ前後と大振りながら身が締まり淡白な白身のため、焼き物や煮付け、フライにムニエルなど加熱調理向きとされる。夏から冬が旬であり、刺身でいただけるのは走りである祭りの時期ならではの醍醐味だろう。桜色の刺身にやや酸味のある「桜顔」を合わせれば、後口をすっきりと流す桜絡みの趣である。

キッ、クッと粋な食味のホウボウに、トロリ、モタリと艶かしいアイナメ。食べ比べたら、伝承と統合それぞれのさんさ踊りのメリハリにも思えたりして。気を良くしてカツオのたたきも追加すると、目の前でおろされ焼き締めされ手早く出された。夏の三陸を代表するカツオのふっくらした身の穏やかさに、盛岡にて安定のクォリティたる銘柄「あさ開」がマッチ。インパクトある個性派に押された刺身の宴にて、定番同士による穏やかな締めくくりとなった。さんさ踊り以降、秋田の竿燈、青森のねぶた、仙台の七夕と、祭りはさらに続いていく。岩ガキ、マイカ、ホタテ、ウニと、各地で食べたい夏のローカル魚も目白押し。囃子に惹かれ旅をさらに続けたくなりそうな、祭りと魚が出合う東北の夏である。

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