ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

味本・旅本ライブラリー11…『土佐の一本釣り』 青柳裕介

2008年07月17日 | 味本・旅本ライブラリー
「土佐の一本釣り」は、1975年からビッグコミックに連載されたが、最近コンビニ向け漫画の「My First Wide」で初期の数巻が1~3集にまとめて復刊。カツオやマグロ、鯨など高知の遠洋漁業をベースにした、漁師たちの人間模様を描いた、青柳裕介氏の代表作です。

話は、駆け出しのカツオ漁師・純平と、幼馴染で恋人の八千代を中心に、純平が乗るカツオ船「福丸」の漁師仲間や、土佐久礼の町の人々が繰り広げる、漁師の厳しい男の世界と、漁師町の温かい人情が入り混じったストーリー。復刊した3冊は、15歳で見習い一本釣り漁師になりたての純平と、高校を出たばかりの17歳の八千代の、漁師としての成長と、ひたすら純な恋物語を中心に進んでいきます。

カツオやマグロなど遠洋漁業といえば、このところ、休漁問題がとりざたされるなどで元気がないけれど、このマンガの昭和40~50年代は、遠洋漁業の漁師は儲けが良かったいい時代でした。ひと航海して帰ってきたら、町で数少ない信号機がある交差点の角に、一戸建てがキャッシュで買えた、なんて話も。漁師は9ヶ月航海して、残りの3ヶ月は女房子供に文句言わせず好きに遊び暮らせたのは、稼ぎへのありがたみももちろん、板子一枚下は地獄、と呼ばれる危険な海での仕事、さらに昼も夜もない重労働に対する、リスペクトもあったのでしょう。「福丸」の漁師たちの、飲んで騒いで喧嘩して笑って仲直りして、といった豪快なやりとりの影には、ちょっと先の命や知れず、といった覚悟、哀愁が、ちらりと伝わってくるところがあります。

それにしても、この時代の男女の駆け引き、これが実に素朴で純情。長期の漁に出る前に逢う二人が、指輪代わりになんと、ちり紙のこよりで輪っかをつくって契りを交わすなんて、今日びの恋愛漫画のストレートな表現以上に、情感あふれるものがあります。そんな一方で、一度して(!)しまえば俺の女、的な、この時代の男の傲慢さ、そしてそれすら包み込もうとする寛大な女心の行き違いもまた、面白い。港々に女あり、が海の男の甲斐性だが、下田港で偶然会った八千代を前にした純平が、商売女を連れて「ほんとに愛しているのはお前だけだから、お前とする時には生でする。だから、この商売女とはつけてする」とのセリフといったら! しかもその後、泣き出す八千代をほったらかして商売女を連れ出し、「オレは男ぞ、決めるときはビシッと決める」って…。

と、下世話な話から軌道修正。実はマンガの舞台の土佐久礼に、以前行ったことがあります。高知から特急で小一時間ほどの漁師町で、町の中央にある、久礼大正町市場という市場を歩きました。カツオの品揃えは、一本釣り漁の拠点だけに、言うことなし。売り手もマンガに出てくるような、気風のいい女性が多かったです。もっとも、マンガの頃の八千代がそのまま、時の流れにあわせて年をとったような女性ばかりでしたが。市場のアーケードの屋根からは、純平と八千代のイラスト入りの大漁旗が提がっていたのが、印象的でした。

◎『土佐の一本釣り』My First Wide版 全3巻・小学館刊


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2 コメント

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Unknown (にむら)
2008-07-19 13:34:54
う…名前すら知りませんでした。流石kamimuraさん!
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え… (kamimura)
2008-07-19 20:54:38
…ホント?ジェネレーションギャップかな、って、そんなに違わんだろう(もちろん、私もこの本をライブの世代で読んでいる訳ではないですよ)。

でも、土佐カツ船団とか、カツオ漁業のうんちくも面白いし、何せこの時代の漁師町風俗が絶妙。古きよき時代、といってしまえば手垢ものの表現だけど、もし生まれ変われるのならこんな時代で青春すごすのもいいかな、なんて思わせる1冊です。定価600円、夏の読書にぜひどうぞ!
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