ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん100…新潟・石打 『ほんや旅館』の、自家製の米と野菜の夕ごはん

2008年07月20日 | ◆旅で出会ったローカルごはん

ようやく梅雨が明け、連日の真夏日。今夜も明日の晩も、熱帯夜になること必至なので、今週末のネタは涼しげに、スキーシーズンへと逆戻り。2月に前編を書き終えたっきり、そのまんまになっていた、家族で石打スキー場へ行った際の後編をここらで綴り、読んで涼しさを感じていただきましょうか-。




 家族でやってきた、石打丸山スキー場での
15年ぶりのスキーは、1日目はごく基本の反復練習で終了した。斜度のほとんどない初級者用ゲレンデで、とりあえず立って、進んで、止まって、と、最低限まわりに迷惑がかからない程度の動きは、思い出せたようだ。「自転車は一度乗れるようになれば、しばらく乗らなくても忘れない。スキーも同じようなもの」と誰か言っていたが、ゆるゆるとゲレンデを惰性で滑り落ちながら、確かに昔やってたときもこんなもんだったかな、という気はしてきた。
 もっとも、思い出したところでこの程度。自転車で言えば「何とか転ばず前に進む」ぐらいで、本格的な技術向上は明日以降のレッスンからだ。体力の回復は、悲しいかな15年前のように早くないだろうから、今夜はしっかり食べて、きっちり休んで、疲れをとらなければ。

 ゲレンデから送迎バスで、宿泊先である石打駅前の『ほんや旅館』へと戻り、靴のバックルをはずしたら思わず「は~っ」と声が出てしまう。ウェアを脱いで暖かい部屋へ入ると、リラックスしたとたん、節々や筋肉など体のあちこちが痛いこと。熱めの風呂でしっかりもみほぐし、翌日に残らないようにケアしたら、いざ、うまいものを食べて栄養補給、といきたいところだ。
 ところでスキー旅行の食事といえば、あまり期待できない、というのが定説のようだ。ゲレンデのレストランの、1000円オーバーの具無しレトルトカレーとか、夕方の早いうちから卓に並べられ、乾ききったスキー宿の夕食とか。やや誇張して言われるところもあるけれど、普通の旅行に比べれば「スポーツ合宿」的なカラーもある分、食事は質素でやむなし、とのイメージがあるのかもしれない。

 ツアーの案内人によると、この旅館は石打の宿で一番食事がいい、とのことで、前述の定説をくつがえしてくれることを期待して、17時半からの早めの夕食に向かうことに。一同、食堂に集合したら、案内人のお疲れ様、との挨拶とともに、さっそくいただきます。
 マヨネーズたっぷりのサケのホイル焼、チーズがトロリのマカロニグラタン、ナポリタンとハンバーグとポテトサラダのトレイ、さらにホウレンソウのおひたしに冷奴。ごく普通の家庭の夕ごはんといった感じの、シンプルだが品数が豊富な膳のなかで、ご飯が感動的においしいにはビックリ。米粒がキリッと立ち、見るからにツヤツヤと瑞々しく、口に運ぶとふっくら、ホクホクで、甘みがくっきり際立つ。これぞニッポンの米! という、素晴らしいご飯だ。
 言われてみれば、石打が位置するのは、新潟県南魚沼郡。超高級ブランド米、魚沼産コシヒカリの産地である。この宿、冬はスキー旅館だが農業も行っており、宿で提供する米や野菜は、すべて自家栽培のものを使っているという。米は地元、魚沼産塩沢米のコシヒカリだそうで、「10キロ6300円」と、販売の案内をする貼紙も、板場の窓口のところに貼られている。



これぞ魚沼産のコシヒカリのご飯。漬物も自家製


 そして、「石打は土と水がいいから、米も野菜も味が良くなる」とご主人が話す通り、野菜の味もまた、力強い。おひたしのホウレンソウはややえぐいが、歯ごたえがキュッ、としていて、青野菜のエネルギーが充満しているよう。けんちん汁の具もたっぷりで、ダイコン、ニンジン、ゴボウに皮をとったナス、キノコ。こちらはどっしりと濃厚な、根野菜の底力がみなぎっていて、土の香りが実に香しい。
 汁のおかわりを頂きに板場に声をかけたついでに、中に入っていた見慣れないキノコの名前をご主人に聞いたところ、「地元ではクズレ、と呼んでいます」。シメジの傘をそのまま大きくしたような、大振りのキノコで、味はシメジよりもちょっとあっさりした感じ。正式には何という名前か、さらに尋ねたら、「…まあ、食べられないもんじゃないから(笑)」。後に調べたらナラタケという、食味がいいことで評判の天然キノコで、壊れやすいのが名の由来とか。



野菜たっぷりのけんちん汁(左)。箸でつまんでいるのがナガレ。
右は翌日の夕食で出た、これも自家製野菜のかぼちゃのスープ


 米が良くて、水がいいとくれば、それらで仕込まれた優れた地酒を所望するのは、自然な流れ。魚沼といえば、八海醸造の銘酒「八海山」が挙がるが、まずは地元・塩沢にご挨拶ということで、青木酒造の「鶴齢」から一杯、頂く。受け皿を敷いたガラスのコップに、一升瓶からなみなみ注いで頂き、グラスの縁を口で迎えにいって、受け皿のこぼれ酒をクイッ。フルーティな甘みがあり、水がいいから切れ味がパッ、と鋭い酒だ。
 そしてアテには、さっきのおひたしに、野沢菜、たくあんと、野菜の一品がよく合う。野沢菜は寒い土地のものらしく、ややしょっぱ目に仕上がっていて、鷹の爪がピリッと辛いのがオリジナル。甘めの酒との風味が好対照だ。たくあんは何と、冬期は雪の中にいかって仕込んだ自家製で、発酵してキンキンに酸っぱいのをカリッ、とやって「鶴齢」をクッといくと、酒の甘みがより引き立ってくる。



鶴齢の冷や。写真は昼に、ゲレンデのレストランで飲んだもの


 外は今夜も豪雪のようで、明日のゲレンデのコンディションはバッチリだろうが、大型のストーブをガンガン炊いた食堂でも底冷えがしてくるほど、冷え込みがきつくなってきた。そんな寒冷地で進める冷酒はススッと入っていき、体の心からじわっと暖めてくれる。
 ちなみに、スキー旅行にまつわるもうひとつの定説、「スキー場で飲む酒は回らない」は、昼間ゲレンデで中ジョッキと「八海山」を空けても、きちんと(?)滑り降りてこれたことで立証されたが、今は不慣れなスキーの疲れと、風呂あがりのおかげで、「鶴齢」がグルグルと回ってきた。まだ19時前、夜はこれから、という時間だけれど、夜行のスキーバスと久々のスキーで寝不足、お疲れの今宵は、おかわりに「八海山」を頼むまでもなく爆睡突入、のようである。(2008年2月14日食記)



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