今でこそ高原リゾートで名を馳せる那須は、古くは開拓を志す入植者で活気を見せた時代がある。戦後期、山形などからの入植者による開墾で開かれた土地は、今は牧場や牧草地となり町の酪農産業を担っている。当時は大石や切り株が作業を阻害したりと、農場や牧場を切り開くには相当な困難な作業が想像できるが、「苦労は色々あったけど、まあね」と、当時を知る方は笑って多くを語らない。このバイタリティあふれるフロンティアスピリッツこそが、代々続く那須入植者の気質なのだろう。
この日は那須湯元からやや登ったところの、休暇村那須に宿泊。料理は地元の伝説・九尾の狐にちなみ、那須産の食材を用いた料理が9品並んだ。那須豚と四季野菜の蒸篭蒸し、那須和牛の炙りに地野菜のオリーブ焼きなど、ローカル銘柄肉とご当地野菜のコンビネーションが見事。那珂川の天然アユは、お昼にもいただいた美ナスが添えられており、ローカル魚料理も健闘の様相である。
ローカル魚といえば、高原の魚としてはちょっと変わった2品が目を引く。ひとつは紅色鮮やかなつくりで、カナダ産のニジマスとのこと。隣接する福島県西郷村で養殖しており、那須山系の清流育ちのおかげで、脂ののりが軽く身がトロリと甘い。「メイプルサーモン」との名が、那須高原の紅葉を思わせる一方、艶やかな盛り付けはバラの花のようでもある。
赤いつくりに並ぶ透き通ったつくりは、那珂川町で養殖のローカル魚。何と、トラフグである。湧出する温泉水が海水の成分に近く、海水魚養殖への利用から考案したそうである。海水養殖のに比べると歯ごたえはもっちり気味、旨味はもたっと重く後からじわっとくる感じか。こちらのネーミングは、まんまの「温泉トラフグ」。ふくれっ面のフグ君が、手ぬぐいのせて湯船にプカプカ浮かんでいるようなイメージか?
この2品、締めご飯の握りのネタにもなっていて、甘さと淡白さのコントラストが、それぞれ酢飯に合う。にしても、内陸の地でサーモンやトラフグを養殖し、標高1230メートルの高原の宿で「地魚」として供するとは。生産者の方々、および宿の料理長の着想と手間と苦労を偲んだら、開拓者から脈々続く那須のフロンティアスピリッツが、ちらり垣間見られた気がした。