食マンガ大好き人間としてもどかしいのは、お題の料理をなかなか実食できないことだ。対決系マンガは創作に凝り過ぎ、再現不可能な料理が多いし、料理人修行系は高級店が舞台(そもそも店も架空)で、敷居が高く行きづらい。実在する店をとりあげたマンガでも、「聖地巡礼」までは思い立てず、と思ったら、「孤独のグルメ」の例の焼肉屋は通っているっけか。
そんなフィクションかつファンタジーな食マンガ界において、最近イチオシの「めしばな刑事タチバナ」は、究極の普段使いリアリズム食マンガといえる。署員同士のめしばな談義のみならず、取調べで容疑者がつい自供するめしばな、捜査協力者との役に立たないめしばな。そこに登場するのは王将や天一やはなまるへの情熱合戦だったり、牛丼ホカ弁ポテチの派閥論争だったり。読んで感銘を受けたら翌日実食できるのが、ある意味凄いお題で、さらにまた読んでのスパイラルが、結構危険な食マンガである。
コロッケうどんは「スペクタクル」。タチバナ刑事のその言葉が妙に響き、たまに朝食を食べる鶴見駅のスタンドそばで、いつものうどんにトッピングしてみた。マンガの流儀に倣い、つゆが染みないうちにコロッケの「ソリッドさ」を楽しみ、衣がやや染みたぐらいで「一期一会」で数口、そこから加速度的に染みて分解して「サルベージ不能」に。この短時間でのドラスティックな変換、確かにスペクタクル…なのか?
ちなみに食マンガは、味や飲食の表現に勉強になるところがあり、某大河作品の「まったりとした」、酒系作品の「キュピピピ」などは聞いたことがあるのでは。コロッケうどんでは、つゆに浸したコロッケが「ふがっ」としてくる頃が食べごろだそう。今度食べる機会があれば、ふがっ、の瞬間をぜひ逃さずに。