宇部市といえば、宇部興産のコンビナートにイメージされる、工業都市の印象が強い。最近は彫刻の街として話題を呼ぶようになったが、街を歩いていると巨大な煙突からはもうもうと煙が出ている様子が、現在もあちこちで見える。生産の現場を巡る産業観光にも力を入れているそうで、アートと合わせ新しいタイプの都市型観光地といえるだろう。
産業都市の印象が強いせいか、宇部は瀬戸内に面した立地から、おいしい地魚に恵まれていることが、意外に知られていない。山口宇部空港のそば、宇部岬に設けられた漁港では、底引き網を中心に操業。鯛やフグ、クルマエビやガザミなどが主要な漁獲で、市街には地魚料理を売りにする店も数多い。コンビナートで働く人たちが、仕事が終わってからローカル魚を肴に一杯。そんな形で地魚たちも、地元の産業に貢献しているようにも思えるのだが。
宇部の地魚料理屋の中でも、昼時には混雑する人気店が、市役所そばのアーケード商店街「ハミングロード新天町」の中ほどにある。「たまちゃん」は穴子漁師の店と称するだけに、店頭にひるがえる「炭焼きアナゴ」ののれんが目を引く。地元のサラリーマンで埋まったテーブルをちらりと見ると、焼き魚や刺身定食のご飯にアナゴをトッピングする人、うどんにミニアナゴ丼をセットする人など、お客のほとんどがアナゴをいただいている様子である。
せっかくなのでアナゴ丼をオーダー、注文を受けてから炭火で焼くため少々時間がかかり、しばらく待つと香ばしい匂いが漂ってきた。丼のふたを開けると、焼いたアナゴが無造作にどっさりのっているのが、ローカル食堂らしい素朴さ。やや小ぶりの身を一口いくと、焼き目がカリッと香ばしく、身はふっくらホクホク。土の香りはほとんどなく、清楚な白身の行儀のいい味が、見た目のワイルドさと対象的だ。自家製のタレは薄味で軽く、白身の実力を堪能できる。
愛想のいいおばちゃんに聞いたところ、地アナゴは宇部の比較的近海でとれるという。かつては豊漁だと100キロほどとれることもあったが、最近は数が減ってしまい、15キロ〜悪い時は3キロ程度しかとれないそう。アナゴ漁に出るご主人はかつては潜水夫もやっており、おばちゃんも同乗して操船と潜水の補助をする、夫婦船での操業をやっていたとか。あの頃の海は豊かで、タイラギやミル貝、大粒のアサリなど、それこそ何十キロもとれたものだねえ、と懐かしむ。
このたびの取材では、巨大なトレーラーや露天掘りの採掘所など、大規模かつ迫力のある産業観光を視察する予定である。一方でこういう話を伺うと、大産業都市の中で息づいている漁業の今も気になる。ジェット機が発着する滑走路のたもとにある漁港での、水揚げや朝市見学。そんな他所にない漁業風景も、産業観光として面白いかもしれない。