暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

幼児期の思い出

2018-04-02 | あたたかい
背の高い草むらは、小さな私には大きすぎるほどだった。
まっすぐに日の指す桜色の道。
ほどなくして広がる青々とした草むら。
細く鋭利な葉は日を遮るには弱く、
肌を裂くには容易かった。
無数の裂傷を作りながら、いつも私の探検は始まっていた。
土の香り、青い血潮の匂い、
遠くから運ばれる腐敗した海の臭い。
草の筒から顔を覗く虫、
広い葉からこちらを見やる虫。
落ちた草の影では蜥蜴が這い、
私は進む、無邪気に団子虫を踏み潰しながら。
青々とした飛蝗が無防備に、
幼い私の前に飛び込む。
未知の生物に顔を輝かせ、逃げるそいつの脚を掴み、
ぽろりと大きなそれが落ちた。

(そんなつもりではなかった)
(私は、そんなつもりでは)

眩む頭は影を求め、大きな木の下へと進んでいく。
肌から血を滲ませて、靴の裏に死骸を作り、
影はひんやりと凍えていた。
明るいものを奪う影。
地を這うのは鋏虫と蟻と蠲、そして団子虫。
冷たい影、凍える風、
ぽっかり口を開ける井戸。
枯れた井戸には何もおらず、ただ黒い土が覗くだけ。
淀んだ雨水に蓋をするように、私はそこへ花を投げる。
紅く、小さな可愛い花、
日陰にしか咲かない花を。
彩りを添えた花を詰め、それでも井戸はそこにあった。
ひりひりと肌が痛む。そこらじゅうで血が滲む。
痺れる細い指先で、蓬の草を毟り取る。

(だってそう教わったもの)
(それ以外は教わらなかった)

赤い壁蝨と一緒くたに、
重なる蓬へ石を打つ。
何度も、何度も、何度も、何度も。
生贄の祭壇は紅い井戸。
緑の血潮がどろりと垂れ、
私はそれを肌に擦り込む。
ひりひりと痛む肌を擦りながら、
私は飛蝗を思い出していた。
容易く脚を捨てた飛蝗を。
容易く尻尾を捨てた蜥蜴を。

(あれはスズラン)
(毒があるんだ)

桜色の道を戻っていく。
およそ似つかわしくない、血と血で肌を汚した姿で。
灼けゆく道路の色とりどりの紋様は、
団子虫のはらわたで描かれていた。

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