ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

わたしを離さないで

2016年05月22日 | 文学

 昨日は一日かけて、日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロの長編「わたしを離さないで」を一気に読了しました。

 読み始めたら、I can’t stop という感じで、引き込まれました。

 ヘールシャムという特別な施設で育った女性、キャシーの独白という形式で、物語は進んでいきます。

 ヘールシャムというのはいかなる施設なのか、最初は分かりません。

 そこで保護官と呼ばれるどこかぎこちない態度の教師たちに、もっぱら絵画や詩の製作を教わる生徒たち。

 彼らの将来は、すでに決まっています。

 それは介護人と呼ばれる仕事に就き、その後は提供者と呼ばれる存在になること。

 ネタバレになってしまいますが、ミステリーではないので良いでしょう。
 ヘールシャムとは、臓器提供のために生み出されたクローン人間の教育施設なのです。

 クローン人間とはいえ、そこは人間。
 嫉妬や妬み、恋愛、人間関係の悩みなど、当たり前の人間の感情が、精緻に、しかも抑えた筆致で淡々とつづられます。

 提供者などになりたくない、普通に働きたい、という切実な悩みが描かれたり、真に愛しあっているカップルは、それが真の愛だと証明されれば、提供を猶予される、などといったもっともらしい噂が飛びかったりします。
 それは彼ら彼女らの切実な思いが形になったもの。
 噂にこそ真実が隠されているのかもしれません。


 やがてキャシーは優秀な介護人になり、異例なことに10年以上介護人を続けてもなお、提供の通知が届きません。

 キャシーはヘールシャムで仲良しだったルースの介護人になり、ルースは2回目の提供で使命を終えます。
 決して死ぬとは表現されません。
 使命を終えると書かれます。

 その後キャシーはヘールシャムで親友だったトミーの介護人になり、二人は恋愛関係に陥り、病室で情交を繰り返します。
 しかしトミーが3度目の提供を終え、4度目の通知が来るにおよび、キャシーが介護人であれば、最後の姿を見られてしまうと恐れ、介護人を代えてしまいます。

 案の定、トミーが4度目で使命を終えたことを、風の便りにキャシーは知るのです。

 物語はここまでで、キャシーが提供者になってからのことは描かれません。

 クローン人間の悲哀を描いた映画に、往年の名作「ブレード・ランナー」というのがありました。



 

ブレードランナー 最終版 [DVD]
ハリソン・フォード,ルトガー・ハウアー
ワーナー・ホーム・ビデオ


 
 この映画ではクローン人間はレプリカントと呼ばれ、人間とは何か、生命とは何かと鋭く問いかけました。
 私はこの映画を繰り返し観て、そのたびに魂を揺さぶられたものです。

 「わたしを離さないで」は抑えた筆致、ありがちな人間関係のトラブルを丹念に描きながら、臓器移植の問題、そのために生み出された人々の悲哀が問いかけられ、涙なしには読むことができませんでした。

 まさに、魂を揺さぶられる名作です。
 映画化もされているようですから、観てみましょうか。

 是非、ご一読を。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
土屋政雄
早川書房




わたしを離さないで [DVD]
キャリー・マリガン,アンドリュー・ガーフィールド,キーラ・ナイトレイ,シャーロット・ランプリング
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

 
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