昨日は一日かけて、日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロの長編「わたしを離さないで」を一気に読了しました。
読み始めたら、I can’t stop という感じで、引き込まれました。
ヘールシャムという特別な施設で育った女性、キャシーの独白という形式で、物語は進んでいきます。
ヘールシャムというのはいかなる施設なのか、最初は分かりません。
そこで保護官と呼ばれるどこかぎこちない態度の教師たちに、もっぱら絵画や詩の製作を教わる生徒たち。
彼らの将来は、すでに決まっています。
それは介護人と呼ばれる仕事に就き、その後は提供者と呼ばれる存在になること。
ネタバレになってしまいますが、ミステリーではないので良いでしょう。
ヘールシャムとは、臓器提供のために生み出されたクローン人間の教育施設なのです。
クローン人間とはいえ、そこは人間。
嫉妬や妬み、恋愛、人間関係の悩みなど、当たり前の人間の感情が、精緻に、しかも抑えた筆致で淡々とつづられます。
提供者などになりたくない、普通に働きたい、という切実な悩みが描かれたり、真に愛しあっているカップルは、それが真の愛だと証明されれば、提供を猶予される、などといったもっともらしい噂が飛びかったりします。
それは彼ら彼女らの切実な思いが形になったもの。
噂にこそ真実が隠されているのかもしれません。
やがてキャシーは優秀な介護人になり、異例なことに10年以上介護人を続けてもなお、提供の通知が届きません。
キャシーはヘールシャムで仲良しだったルースの介護人になり、ルースは2回目の提供で使命を終えます。
決して死ぬとは表現されません。
使命を終えると書かれます。
その後キャシーはヘールシャムで親友だったトミーの介護人になり、二人は恋愛関係に陥り、病室で情交を繰り返します。
しかしトミーが3度目の提供を終え、4度目の通知が来るにおよび、キャシーが介護人であれば、最後の姿を見られてしまうと恐れ、介護人を代えてしまいます。
案の定、トミーが4度目で使命を終えたことを、風の便りにキャシーは知るのです。
物語はここまでで、キャシーが提供者になってからのことは描かれません。
クローン人間の悲哀を描いた映画に、往年の名作「ブレード・ランナー」というのがありました。
この映画ではクローン人間はレプリカントと呼ばれ、人間とは何か、生命とは何かと鋭く問いかけました。
私はこの映画を繰り返し観て、そのたびに魂を揺さぶられたものです。
「わたしを離さないで」は抑えた筆致、ありがちな人間関係のトラブルを丹念に描きながら、臓器移植の問題、そのために生み出された人々の悲哀が問いかけられ、涙なしには読むことができませんでした。
まさに、魂を揺さぶられる名作です。
映画化もされているようですから、観てみましょうか。
是非、ご一読を。
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