T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

「弥勒の月」を読み終えて!ー2/4ー

2012-12-15 09:05:11 | 読書

「第三章 欠けの月」

 --信次郎と伊佐治は遠野屋を訪ねた。ーー

 帳場の隣部屋で待たされた。遠野屋が近づいた気配が声をかけられるまで察することができず、信次郎は思わず柄に手を掛けさせてしまった。だから、ただの鼠じゃねえって言っただろうと、信次郎以上に驚く伊佐治に言った。

 信次郎がおまえさん、どうやって遠野屋の婿に納まったと尋ねた時、運悪く、職人が入ってきた。また、おぬし、人を斬ったことがあるかと問うと、木暮さまは、よほど詮議がお好きと見えますねとはぐらかされる。その後、おりんの件を改めるご意思がないなら、おりん自身が成仏できないので、私どものやり方で調べてみますとも言う。

 伊佐治から、遠野屋に、駕籠屋の鶴七が、昼四つに街中でおりんに挨拶した後、木戸が閉まるころまで、おりんを見かけたという奴がただの一人も出てこないと知らすと。遠野屋は、逢引をしていたなどと、あまり見当違いの筋を探していらっしゃるなら手掛かりなど見つかりません、藪をいくら探しても魚は取れませんと、無礼な言葉を投げる。

 それだけの口をきいて、ただで済むと思うなよと、信次郎が刀を掴む。旦那、刀なんぞ、抜いちゃいけねえと、伊佐治は手を伸ばして信次郎の右手を押さえ込み、遠野屋さん、あんたの言うとおりだ、もう一度端からやり直そうと言う。

 伊佐治は、『世間のどこでも起こりうる痴話として惰性で安易に動いた。根拠はないが、遠野屋のような男が絡んでいるのに、ただの痴話で済むわけがない。何故、そこに思い至らなかった。』と思った。

「第四章 酷の月」

 --遠野屋の座敷で、姑のおしのが首を吊った。ーー

 女中の悲鳴に、奥の座敷から信次郎も遠野屋と同時に動いた。

 「私が…殺した。」かろうじて掠れる声がおしのから漏れた。そして、頭を後ろにのけ反らせて、おしのは目を閉じた。

 駆けつけた医師・源庵は診たての後に、覚悟をしておいたほうがよいと言う。

 外へ出た伊佐治は、信次郎に、『旦那、あっしは、なんていうか、気の収まりがつかねえんで、変なんですよ。仮に、おりんが殺されたとして、その下手人をお縄にしたとしても、一件落着、ようござんしたねという気にならないで。』と言う。信次郎も、おりんの死んだ訳なぞどうでもよい、遠野屋は俺の獲物だ、面白い狩りができるかもしれねえと頷いた。

 --翌朝、二つ目之橋の側ので、惣助が一太刀で斬り殺されていた。ー

 惣助の死に顔は、心底驚いた表情で恐怖も無念も感じる暇がなかったようで、真正面から一太刀で斬り殺されていた。

 伊佐治は、稲垣屋に急いだ。遠野屋の昨夜の行動の探索も忘れていなかった。

 惣助は、女房のおつなに下駄の事で急用ができたと言って店を閉める頃に出かけたとのことだ。また、手代の松吉から、主人(惣助)が、困ったなぁと呟いた後、まあ何とかなるさと独り言を言っていたことを知らされた。

 後日、松吉が伊佐治の家を訪れ、稲垣屋の女中から、主人がお武家さんらしい人と話していたことを聞いた。また、主人が出かけた日に10両を持ち出していたことが判った。と知らせてきた。

 伊佐治は、惣亮の死が、おりんの死と関係があるのか、ないのかと考えて歩きながら、いつの間にか自分の店まで来ていた。

「第五章 偽の月」

 --遠野屋が伊佐治の店を訪れた。すぐに追いかけた。ーー

 遠野屋から小料理屋に誘われた。

 稲垣屋さんは、何故、殺されたのですか。この辺りでは、鯰のように切り刻まれていたと、その話で持ちきりだがと問いかける。

 伊佐治は、真正面から一太刀だとだけ答えて、昨夜は何をしていたかと問う。

 遠野屋は、一晩中、姑の耳元で声掛けをするなど看病をしていたと言う。

 その後、話が遅れたがと、遠野屋が今日訪ねた中身について話ししだした。

 おりんの挟み箱(持ち運び用の衣類箱)の中から朝顔の新しい種を包んだ紙包みを見つけた。包んだ紙には「うすもも・あい・あいのふ」(朝顔の花模様の種類)と書いてあって、おりんの手だと言う。

 挟み箱に入れておくのは不向きな物であり、伊佐治は何処で手に入れたか探ってみたいと言った。

 遠野屋も頷いて、私は先代から店とおりんを頼むと言われたのですが、そのおりんを失いました。私にとって、おりんは弥勒であったと言う。

 伊佐治は、遠野屋の婿に入る前は何処で何をしていたか尋ねた。木暮さまが、とっくに人別帳を調べられていることでしょうと言い、木暮さまに、お待ちしていますとお伝えくださいと言う。

 --自身番で、伊佐治が、遠野屋からの話を信次郎に伝える。ーー

 信次郎は、人別帳を調べても何も出てこねえと分かって、笑ってやがるのか、確かに怪しいところはなく、作事方の次男が届を出しての脱藩で、遠野屋に来る前は神田にいたらしいと言う。

 伊佐治と信次郎が朝顔の話をしているとき、下っ引の源蔵が、稲垣屋の女中から一度店に来られた遠野屋と稲垣屋の手代の松吉が街中で立ち話をしていたことを聞いたと知らせてきた。

 既に夜になっていたが、信次郎が、直接、遠野屋に尋ねると自身番を出ようとした。その時、下っ引の新吉が、夜鷹蕎麦の親父が稲垣屋の殺しの下手人を見たようだとの情報を得たのだが、その親父が長屋を出たきり行方が分からないのだと言う。

「第六章 乱の月」

 --自身番を出て、信次郎と伊佐治が遠野屋を訪ねた。ーー

 手代に案内され、信次郎が自ら奥の座敷の戸を開ける。遠野屋が改めて座敷に居た医者の里耶源庵を信次郎に紹介した。そして、源庵を見送って廊下に出ていった。

 信次郎は何となく気になり、伊佐治に、源庵と遠野屋との繋がりと、源庵の家におりんが持っていた種類の朝顔が咲いていたかもしれない庭があるか調べることを命じた。

 信次郎は、座敷に戻ってきた遠野屋に、『周防清弥、送りの書付による名前はそうだったな。一度、闇の中に沈んだものはな、たとえ弥勒の裳裾にすがっても、なかなか、日の当たる場所には住めねえのさ。さっきも、一部の隙もねえ、間合いを計っているような用心深い足音だった。おぬしは僅かに間合いの外に居たろう。周防、あの足音は闇の中を歩く時のものだ。』と言った。闇の中を歩くと呟く遠野屋に、信次郎は頷いた。

 伊佐治が、何用で稲垣屋に行ったのか、後日、稲垣屋の松吉と街角で何の話をしていたのかと尋ねた。遠野屋は、おりんの最後を詳しく聞かずにおれなかったし、松吉さんとは、稲垣屋を尋ねた時に面識ができて、あくまで世間話だったと答えた。

 信次郎は遠野屋に夜鷹蕎麦の探索に100両を工面させた。そして、遠野屋に、おまえさんの居場所が明確でなかったら、稲垣屋の斬り捨て方、おりんの下駄が欲しかったこと、おぬしなら全て辻褄が合うので下手人として打って付けだと言う。

 遠野屋が、下手人は作り上げるものでないと、口答えすると、信次郎は、商人の分際ってもんがまだ身に付かないのかと、遠野屋の頬を音高く打った。謝ることもしないので、もう一度頬を叩いた。

 --信次郎と伊佐治は遠野屋の店を後にした。ーー

 伊佐治が、旦那が遠野屋の頬をぶった時に、驚いたことに遠野屋は目をつぶらなかった。信次郎が、気が付いたか、奴はしみついて習い性となり、こちらの動きをちゃんと見ていやがったと言う。

 伊佐治が問う。おりんは自分の亭主の正体を知っていたと思いますか。

 知らなかったろうよ。しかし、言うことなしの幸せな若女房を冷たい川に飛び込ませたのだ。身投げするはずがない、殺されたのだ。そこん処が解らないんだと信次郎は答える。

 伊佐治は、信次郎に、おりんの死の原因は亭主に関係があるように思うが、謎解きがおまえさんの昔に関わっていると諭せば口を割りませんかねと問う。

 信次郎は、もしその事が外に漏れれば二代目の足を引っ張りたい手合いが何人もいるので、それは遠野屋の身代を潰しかねない、今の遠野屋には店の身代が大事な事なので、それはないだろうと言う。

 『伊佐治は、ふと、人は自分の一番痛いところから目を背けるものだ、遠野屋だって同じではないかと思った。

 遠野屋は、本気で女房に惚れていた。私にとって、おりんは弥勒のような女だったと言う言葉には嘘偽りがあろうとはどうしても思えない。闇を抱えたものならばなお、弥勒の光は眩かっただろう。

 おりんを失った遠野屋は、よく耐えている。商いに没頭し店を護ることにのめり込み、現実から目を逸らそうとしている。そして、かろうじて目を逸らすことができている。首の皮一枚で狂うことから免れているのではないか。

 おりんの死が自分の背負った闇に関わるものと思えば、思っただけで皮は裂ける。今はまだ遠野屋という店がある限り、まだ狂うわけにはいかぬのだ。』

                                                  

 ーー《当初から、遠野屋がおりんの死を疑ったことについての私の推量》ー

 おりんを弥勒の女と思うほど本気で愛しており、その上、自分は人には絶対に言えない過去に闇を抱えた者であることから、おりんの死が自殺ではなく自分の背負うた闇に関わるものではないかと、最初の一時、思ったのだろう。

 その事は、弥勒菩薩に出会ったと心から愛していた女が、自分の過去に関わって死んだとすれば、結果的に愛する女を自分が殺したことになる。

 関わったかもしれないとの思いが心の中にいつも存在していたら狂ってしまいそうになるので、商いに没頭し店を護ることにのめり込み、現実から目を逸らそうとして耐えている。

 しかし、信次郎の嫌がらせに耐えて探索を頼んでいたが、その疑いが現実化していくうちに、自分から積極的に探索(次章から記述されていく)していく。

                                (次回に続く)

 

 

 

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