T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1452話 「 夏目漱石著・こころ・粗筋 -5/?- 」 3/24・土曜(晴)

2018-03-24 10:11:36 | 読書

「心に残った文章等を抜粋して纏めた粗筋」

中 両親と私

十二・十三 (先生からの2通の電報)

 兄が帰って来た時、父は寐ながら新聞を読んでいた。その頃の新聞は天皇崩御関係の記事ばかりであった。

 悲痛な風が田舎の隅まで吹いて来て、眠たそうな樹や草を震わせている最中に、突然私は一通の電報を先生から受取った。電報には一寸会いたいが来られるかという意味が簡単に書いてあった。

「きっと御頼もうしておいた口の事だよ」と母が推断してくれた。

 私は、父の病気を打ち遣って、東京へ行く訳には行かなかった。母と相談して行かないと返電を打つ事にした。その後、すぐに細かい事情を認(したた)めて郵便で出した。

 手紙を出して二日目に、また先生からの電報が私宛に届いた。それには来ないでもよろしいという文句だけしかなかった。

 母は、手紙で何とか言ってきて下さる積りだよと言われたが、私は、先生の平生から推してみると、どうも変に思われた。「先生が口を探してくれる」。これは有り得べからざる事のように私には見えた。

                     

十四・十五 (落ち着かない家族)

 父の病気は最後の一撃を待つ間際まで進んできて、其所で暫く躊躇するように見えた。

 母は、先生の返事の来るのを苦にして、まだ手紙は来ないのかと私を責めた。

 兄と私は、父の死んだ後の事に就いて尋ねあった。

 兄は、「御前、これからどうする。此所へ帰って来て、宅(うち)の事を管理する気はないか」と。私は、「一体、家の財産はどうなってるんだろう」と。

                         

十六~十八 (先生の遺書の手紙が届く)

 父は時々譫言を言う様になった。

 父は、自分の目の前に薄暗く映る死の影を眺めながら、まだ遺言らしいものを口に出さなかった。兄が、「今のうち何か聞いて置く必要はないかな」と私に言うも、私は、こちらから進んでそんなことを持ち出すのも病人のために好し悪しだと考え、決めかねて、二人で伯父に相談するも首を傾げた。

 ために遺言話はとうとう愚図々々になってしまった。

 そのうち父は段々舌が縺れてきた。そんな中、先生からの分厚い書留の手紙が届いた。

 私は不審に思って、その晩一人になって、急ぎ中を見た。

 私は最初の一頁を読んだ。その頁は次のように綴られていた。

「あなたから過去を問いただされた時、答える事の出来なかった勇気のない私は、今あなたの前に、それを明白に物語る自由を得たと信じます。然し、その自由はあなたの状況を待っているうちには又失われてしまう世間的の自由に過ぎないのであります。従って、それを利用出来る時に利用しなければ、私の過去をあなたの頭に間接の経験として教えて上げる機会を永久に逸するようになります。そうすると、あの時あれ程固く約束した言葉がまるで嘘になります。私は己(やむ)を得ず、口で言うべきところを、筆で申し上げることにしました」(意味不明。下巻に奥さんが留守になり先生一人になる時があるので、自由とはその事かと思うが?自信がない)

 私は其所まで読んで、何が書かれているのか知る事が出来た。然し、先生はなぜ私の上京するまで待っていられないだろう。

「自由が来たから話す。然し、その自由は又永久に失われなければならない」

 私は心のうちでこう繰り返しながら、その意味を知るに苦しんだ。

 その時、病室の方から私を呼ぶ兄の大きな声が聞こえた。

 病室には医者が来ていて、浣腸を試みるところであった。私は兄に代わって処置の手伝いをして、また元の部屋に戻った。

 私は急ぎ頁を剥繰(はぐ)って行った。けれども、それを読む余裕はなかった。その時、不図結末に近い一句が私の目に這入った。

「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とにかく死んでいるでしょう」

 私ははっと思った。今までざわざわと動いていた私の胸が一度に凝結したように感じた。

 私は父の様子を見に病室に急いだ。母は、「今少し持ち合っているようだよ」と答えた。私は父の目の前へ顔を出して、「どうです、浣腸して少しは心持がよくなりましたか」と尋ねた。父は首肯(うなず)いた。父ははっきり「有難う」と言った。父の精神は存外朦朧としていなかった。

 私は夢中で医者の家へ駆けこんだ。医者は生憎(あいにく)留守であった。私は医者の帰りを待たず、すぐ俥(くるま)を停車場へ急がせた。停車場で紙片(かみぎれ)に母と兄あてで手紙を書いて宅へ届けるように車夫に頼んだ。

 そうして思い切った勢で東京行の汽車に飛び乗ってしまった。

                                 

     中巻の終り

     下巻の「先生の遺書」へ続く

 

 

 

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