生きていくあなたへ
105歳どうしても遺したかった言葉 日野原重明
「内容紹介」
「人間は弱い。死ぬのは僕もこわいです」105歳の医師、日野原重明氏が、死の直前まで語った、希望と感謝の対話20死時間越。
最後の力を振り絞り伝えたかった言葉とは。生涯現役、渾身最後の一冊。
「記憶、記録しておきたい言葉の抜粋」
「第一章 死は命の終わりでない」
◎105歳になられた日野原先生、死ぬのは怖くないのですか?
あなたにそう聞かれるだけで恐ろしい……。
僕は、そう遠くない未来に自分が死ぬという事実を、とても恐ろしいことだと感じています。
だからこそ、朝起きて自分が生きているということが、心から嬉しいのです。
死ぬということは人間にとって、経験していない「未知」の部分なので恐ろしいのだと思います。だから、これは、ごくごく自然な感情です。
私は、朝起きて自分が生きているということが心から嬉しいのです。
生きているからこそ、新しい一日をスタートできる。様々な出会いがある。
また、105歳という年齢を迎えてもなお、僕にはまだ自分でも知らない自分がたくさんあり、その未知なる自分と出会えるということに、心からわくわくしているのです。
「死ぬのが嫌いであるから生まれてこない」という人はいないように、人間は生まれた瞬間から死ぬことが決まっています。死と生は切り離すことのできない一続きのものです。いや同じものです。
僕達は死だけを凝視するのではなく、死から目を背けるのでもなく、だだ今生きる自分の命を輝かせていくこと。それこそが死と一つになった生を生きるということなのです。
◎105歳まで長生きして幸せだと思いますか?
確かに僕も病を持ち、思い通りにならない自分自身と四苦八苦、戦ながらの毎日です。
車椅子に乗るようになってからは、特に自分の思い通りにならない不自由なことが増えました。それでも、やはり長生きしてよかったと思っています。
というのも、100歳を超えたあたりから、自分がいかに本当の自分を知らないでいたのかということを感じるからです。
世の中で一番わかっていないのは自分自身のことだ、ということに気づくことができました。これは、年をとってみないとわからない発見でした。
長生きするということは、わからない自分と出会う時間が貰えるということです。自分の姿をどんどん知っていく喜びは、年をとったことでより実感するようになりました。
「第二章 愛すること」
◎大事な人にほど、きつい口調になってしまったり、素直に感情表現ができません。
愛しているからこそ出た言葉なのに、近い間柄の人にうまく伝わらない。なんだかギクシャクしてしまう。そういうこと、今でも僕もありますよ。日々反省することばかりです。
大切な人と接するときに僕が意識しているのは、常に自分自身の手で、心を柔らかい状態にしておくということです。
穏やかな物腰、感謝の笑顔、いたわりの言葉……、心がこわばっている状態ではできないことだらけです。その大事なきっかけは常に自分の中に持っていたいのです。
◎本当の友達とはいったいどんな存在なのでしょうか?
僕にとっては僕のために祈ってくれる人です。
誰かのために祈る行為とは、相手を自分のことのように思うということです。
僕のことを自分のごとく感じ、僕が受けた痛みを一緒に悲しみ、僕の幸福を一緒に願ってくれる、そんな真の友達がいれば、どんなに人生は心強いものになるでしょうか。
夫婦も同じです。本物の苦難を乗り越えた夫婦というのは、やがて真の友になっていけるのだと思います。
「第三章 ゆるすことは難しい」
◎聖書には人をゆるしなさいとあります。先生はすべての人とをゆるしてきたのですか?
ゆるすということは難しいことですね。
ゆるすということを考えるとき、僕は「恕す」という漢字を思い浮かべます。
この漢字は、心の上に如くという文字が載っていますね。つまり、ゆるすとは、「相手のことを自分のごとく思う心」という意味なのです。すなはち、相手をゆるすことが自分をゆるすということに他なりません。
イエスは十字架の上で息絶えようとしているときに、父なる天の神に向かって「自分を十字架にかけた人々をゆるしてください。彼らは自分が何をしているかわからないのです」と言いました。
「第四章 大切なことはすぐにはわからない」
◎突然の災害で家族を亡くしました。
この悲しみを私は乗り越えていけるのでしょうか?
聖書に、「神は越えられない苦しみは与えられない。そして、その中で逃げる道を与えてくださる」という言葉があります。
僕達人間には、時間がかかっても必ず悲しみを乗り越える力が備わっています。生きていて良かったなと思える瞬間が必ずやってきます。その時を信じて待つのです。
◎これまでの人生の中で一番悲しかったことは何ですか?
悲しみと喜びというのは、コインの表裏のようにくっついている。
夜が暗ければ暗いほど(悲しければ悲しいほど)、朝の光が眩しい(喜びは一層大きい)。
冬が寒いほど、春の優しさが身にしみます。
◎改革に取り組まれた先生、まわりのお医者さんから反対されたことはあったのでしょう?
これまで誰もしなかったことに挑戦するとき、おそらく、あなたの心の中には、「これをやりたい、僕はやるんだ」という強い気持がある、だから挑戦するのだと思います。
そのときに、「なぜやるのか」ということを自分に問いかけ続けることが大切です。
さらに。
周りの人がそのことを理解せず反対されても、仏教哲学者の鈴木大拙さんは、そのような人々を無視するのではなく、「遠くを見つめる」そして「僕はこう考える」と表明することが大切だと教えてくれました。
「遠くを見る。表明する。そして実践する」
これこそが僕達人間が持つ、意志の力を形にするために必要なプロセスです。
終