T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

「弥勒の月」を読み終えて!ー1/4ー

2012-12-14 09:38:09 | 読書

 「バッテリー」で知られる、あさのあつこ著の初のミステリー長編時代小説。

 「小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の目差しに違和感を覚える。ただの飛込みと思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治と共に事件を追い始める。哀感溢れる時代小説。」(裏表紙より)

 「偏屈で拗ね者で意地悪で気まぐれ、むらっ気で一日に何度も気分が変わる予断を許さぬ切れ者同心の信次郎と真っ当さを団子に丸めたような律義な堅物の岡っ引・伊佐治と闇の殺し屋から光の当たる世間で商人として生き直す遠野屋清之介の三人の個性溢れる主人公が、遠野屋の若おかみの飛び込み自殺を巡っての日々の動きの中に、人間とは、生きるとは何たるかをズシンと胸に響く言葉で教えてくれる本。」(解説文より)

 描写の文章にも感心したし、読みながら考え、考えながら読むといった、確かに読み応えのある本だった。しかし、あまりにも推測による相手の主人公の心理や心情の描写が多すぎて主人公の考えが不明瞭になり、納得できない部分が多々あった。また、「闇の殺し屋」の存在が現実的でないため、姿が見えない描写に抽象的な表現部分が多く、私としては、理解でき難いところがあった。

 そのようなところから、第一章の最初に、「遠野屋清之介が妻の飛び込み自殺に調べ直しを願う」場面が三度ほど出てくるのだが、なぜ、最初から不審を抱いて探索を願うのか、その理由が数回読み直しても、どうもはっきりと理解できなかった。

 その為、本の粗筋を纏めることに不安があったが、そのことは気にかけずに、『』内は本文中の心に残った文章、下線はポイントの部分といった方法で、4回に分けて、以下に纏めてみた。

「第一章 闇の月」

 『月が出ていた。丸く、丸く、妙に艶めいて見える月だ。女の乳房のようだな。』

 履物問屋・稲垣屋惣助は女遊びの帰りの満月を見て独り呟いた。

 二つ目之橋を渡ったところで人が落ちた音がした。先ほど橋の上に佇んでいた美しい女はいなかった。

 無意識に体が動いて急ぐと、足に下駄が当たった。赤い鼻緒が付いている女物の黒塗りの良い品だった。

 惣助は下駄を抱いて立ち上がったまま、向こう岸の飲み屋の灯りを見つめながら、暫く取り留めのないことを考えていた。

 ーー女の死体は一つ目之橋近くの杭に引っ掛っていた。ーー

 自身番の中の戸板の上に莚を被せた死体が横たわっていた。その側にいた岡っ引の伊佐治が、昨夜、飛び込みがあったと定町廻り同心・木暮信次郎の顔を見上げた。

 伊佐治は小料理屋をやっており、女房のおふじと息子夫婦が切り盛りしている。お蔭で岡っ引稼業に精を出している。おふじが、『うちの屋根瓦より、よっぽど硬い』と笑うほどで、儲け話とは縁がない生一本の性分で、面倒見がよく、人々から頼りにされている。

 20歳の時、信次郎の父、右衛門から手札をもらって20年、楽ではないが、本人も豆腐や魚を相手をするより、人間相手の方がずっと面白い、自分は根っこからの岡っ引の性分だと納得している。

 信次郎が後を継いだ時、伊佐治は手札をもらい直したが、最近は手札を返そうかと、ふとよぎることがある。

 『信次郎を盛り立てたいという気持ちが大川の風波ほどもにも動かないのだ。右衛門に感じていた共感が僅かも湧いてこない。小銭を盗み、許してくれと請うている哀れな男にも、男の顎を蹴り上げて、手首を踏んで骨を砕いたのだ。人を厭うている、それは自分と信次郎との間に性格の溝の深さを垣間見た瞬間でもあった。』

 信次郎に対して不満があるわけでなく、気心がよく判らないのだ。

 伊佐治は、夜鷹蕎麦の親父が、人が飛び込んだような水音を聞いて、客一人捌いてから二つ目之橋の傍らを通った時に、稲垣屋が番屋のほうに歩いて行くのを見たと、信次郎に告げた。

 ーーほとけは小間物問屋・遠野屋の若おかみのおりんとのことだった。ー

 『死体の横で膝を折った遠野屋の旦那の顔には、血の気はないが、驚愕も悲哀も他のどんな感情も読み取れなかった。しかし、我を忘れているわけでもなく、また、魂の抜け落ちた目ではなかった。さっきまで荒かった息さえ、鎮まっていた。』

 『伊佐地が話しかけようとした時、遠野屋は、洗い髪の女の体を助け起こすように死体の頭を後ろから支え、ゆっくりと持ち上げた。一言、りんという声が漏れた。その後、抱き起した時と同じように静かな動作で横たえた。』

 信次郎からの、別に目立った傷もなく、水もしこたま飲んでおり、自分から飛び込んだのは間違いない。何か心当たりがあるかの問いに、遠野屋は「納得いたしかねます。今一度の探索をお願いしとうございます。」と言う。

 素足の色香のある母親が飛び込んできた。

 「おりん、なんで。」と細い悲鳴が震える喉から漏れる。そして、遠野屋が支えた腕を振り払って死体の上に被さった。

 義母を見る遠野屋の背後で、信次郎がふらりと立ち上がり、指が鯉口を静かに切った。

 遠野屋は静かに身体を巡らせて、信次郎の正面に手をつき頭を垂れた。そして、再び、何卒お調べ直しをお願いしたいと言う。

「第二章 朧の月」

 --遠野屋のことを調べてくれと頼む。ーー

 『女房が目の前で死んでんだぜ。なんで、動揺しねえ。俺の前で、こう手をつきながら、俺の殺気をきっちり捕まえやがって、毛筋一本分の隙も見せなかったぜ。ただの商人じゃねぇ。絶対に違う。』

 遠野屋たちが帰った後、信次郎は、伊佐治に、遠野屋のことを調べて、逐一俺に知らせてくんなと言う。伊佐治が、おりんの飛込み事件を一から考え直すことになると言うと、信次郎は、すまぬが頼むと頭を下げた。

 慌てる伊佐治も惣助の行動について調べることがあった。

 --信次郎は詰め所に出向く。ーー

 自身番を出た信次郎が詰め所を覗くと、父の朋輩で、子が無く、幼い信次郎を膝の上に抱いて遊んでくれた吉田敬之助が座っていた。

 敬之助は3年前に妻を亡くして、めっきり老け込んでいて顔色の悪さが目立った。医者はと尋ねると、組屋敷の土地の一部を貸していた医者の跡を継いだ息子に、よく効く薬を処方してもらっていると言う。薬で治る病なのか? 信次郎は胸の中で独り語ちる。

 その敬之助に、遠野屋の事件を話した。敬之助は、昔、おりんが子供の頃に、遊び仲間の下駄を拾おうとして溺れているところを助けてやったことを想い出し、その時に、根付を安く分けてもらったことを話してくれた。しかし、おりんの婿の遠野屋の元の素性については、記憶が薄れているのか、御家人だったかと、何故かすっきりした返答がなかった。

 信次郎が去った後、敬之助は何かを告げ忘れていると思ったが、おりんの声も顔も遠ざかり鈍い痛みだけが頭の隅で疼いていた。

 --伊佐治は稲垣屋惣助の座敷に通された。ーー

 女が川に飛び込んで、暫くして番屋に知らせに来たようだが本当か。何故かと尋ねた。

 惣助は、あまりの驚きにどうしたらいいか見当がつかず、女遊びの後でもあって、騒ぎに巻き込まれたらまずいと、変な考えから遅くなったと言う。

                                 次回に続く

 

 

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