漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

奇術師

2006年02月16日 | 読書録
 「奇術師」
 クリストファー・プリースト著 
 ハヤカワ文庫FT

 を読了。
 
 分厚いが、巧みな語り口に引き込まれるので、どんどん読めてしまう。面白かったが、読み終わった後に、結局本当はどうだったのか、分からなくなってしまうという小説。はっきりしたものが好きな人には、フラストレーションが残るかもしれないが、あれこれと考えるのが好きな人には、いろいろな解釈のできる小説だから、余韻まで楽しめると思う。
 ドッペルゲンガーのテーマは、僕も一つ、もう20年以上にわたって暖めているどうしてもいずれ書きたい小説があるから、この小説は特に興味深く読めた。かつてナボコフが「ドッペルゲンガーのテーマは退屈だ」と言っていたとかいないとか、聞いたことがあるが、ナボコフにそういわせるのだから、作家には興味深いテーマであるのだろう。
 この小説は、舞台が19世紀末から20世紀始めのロンドンということで、交霊術が大きなキーになっているあたりも、僕にはなかなか興味深かった。特に奇人として有名なニコラ・テスラに関する記述を読んでいて、ふと、これまで考えていなかったことだが、ホジスンの「カーナッキ」のモデルとしてテスラはありうるとも思った。この辺り、もう少し調べてみよう。

 ところで、この「奇術師」、なんと映画化されるそうだ。そのテスラ役には、デビット・ボウイの名があるとか。