漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

グリンプス

2006年02月14日 | 読書録
 今日、クリストファー・プリーストの「魔術師」を読み始めた。これは面白そう。読み終えたら、また感想を書こう。

 ところで、その「魔術師」は、世界幻想文学大賞を受賞している。それで、ふと思い出した作品のことを、少しだけ。

 数年前に読んだルイス・シャイナーの「グリンプス」という作品は、やはり世界幻想文学大賞を受賞していた。創元SF文庫から出ていたその作品は、分厚い本だったが、僕が風邪で寝込んでいたときに布団の中で読んだ。
 内容は、簡単に言えば、60年代のロックに捧げるオマージュのような作品だった。レイという主人公は、ふとしたことから、自分には想像力を扉にして、過去へ旅する能力があることに気が付く。正確には、精神だけが飛ぶわけだが、彼はその能力を使って、例えばビーチボーイズの「スマイル」など、幻となったロックアルバムを完成させようとするのだ。
 この作品の背景を、僕はリアルタイムで知っているわけではないから、思い入れの深さという点ではさほどないわけだが、やはり甘酸っぱい香りは感じた。小説としての完成度は、僕にはさほど高いとも思えなかったが、この時代に生きた人々にとってはたまらないだろうという気もする。とくに、ジミ・ヘンドリックスの好きな人には。
 さて、この物語の主要な登場人物は、ビートルズを筆頭として、ブライアン・ウィルソン、ジム・モリスン、それにジミ・ヘンドリックスなどがいる。この三人の幻の作品の中で、実は幻ではなくなった作品がある。それは、唯一今でも現役のブライアン・ウィルソンによる、「スマイル」である。
 この作品が完成していれば、音楽の歴史は変わっただろうとまで言われていた「スマイル」。それが去年完成してしまった。
 だが、僕は「スマイル」について、語るべき言葉をもっていない。理由は簡単で、聞いていないからだ。なぜか、聞きたいという気にならない。
 「スマイル」は神話で良かった。そんなことを言う気もない。だが、もはや「スマイル」の割り込む余地は、どこにもない。そんな気がする。
 とりとめのない文章でしたね。