さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

失われたものと足りないもの 野中悠樹、復帰戦即戴冠ならず

2023-06-12 05:20:02 | 関西ボクシング



土曜日の府立地下二部興行、配信の感想続きです。


昼の部、試合順でいうとセミファイナル、新設なった日本スーパーミドル級王座決定戦は、野中悠樹と帝尊康輝のサウスポー対決。
以前なら頭に「関西」がついたのですが、帝尊が一力ジムに移籍しているとのことで、これはなし。
共に関西重量級の貴重なタレントで、新旧対決でもありました。
闘う階級がスーパーミドル級というのが、意外な成り行きではありますが。


序盤、野中は足使って右ジャブをボディへ突くスタート。
スピード生かして左を決め、クリーンヒットでダメージ与え、なんならダウンも奪って先行し、そのリード、優勢を元手に、フットワーカーとして試合を良い回りに持っていく、というのが全盛期によく見た、野中の勝ちパターン。

しかし年齢も45になり、元の階級から二階級上、そして直近の試合でもTKO負けを喫しているという状況は、執念のフットワーカー、野中から、そのような試合展開を作る力を失わせていたようでした。
序盤のうちから、野中の足があまり動かないなあ、と見える。かつてのフットワーカーと同じボクシングを求めるのは無理だ、とわかっていても、やはり。


対する帝尊康輝はあまり動かず、右ジャブから当てて行く。野中は左ボディにも手を伸ばすが、帝尊ジャブから左へ繋げる。
3回、野中の左カウンター、この試合随一のクリーンヒット。しかし帝尊動じず。左当て返す。

こちらも恵まれた体躯、パンチ力、サウスポーという優位性がありながら、若手の頃から体力、スタミナに難があり、新人王戦を戦い終えても、その辺り、鍛え込まれて仕上がっていく印象があまり持てなかった選手。
それはこの日の試合ぶりでも半々で、以前よりは良いが、序盤のうちから、緩急や攻防の切れ味はあまり感じない。
しかし、右リードがけっこう出るようになっていて、慌てず当てて行き、後続打もある。
確かに、もっと打てるだろうという歯がゆさは若干あれど、以前よりは良い、と見えました。



中盤、野中も動いて左のヒットを取るが、帝尊はアッパーやフック気味の軌道のものも含めて、左を再三当てて、プレスかけて攻めていく。
けっしてハードヒッターではない野中、帝尊にパワー負けしている。元々階級も違い、無理からぬところ。

7回、左当て合うが、帝尊が優勢。野中、足使って回り込んで、左当てるが、帝尊は肩越しに左決めて、ボディにも攻撃していく。
野中が二発当てていても、帝尊の一発の方が印象的。さらに帝尊、右ジャブ当てて、左の追撃へ繋げる。
8回は身体寄せた間合いから、帝尊が肩越しの左、右フック返しを際どく飛ばす。野中、危ないところへ追い込まれている。

最終回、野中が奮起して左ストレート、クロスを連発。果敢に攻めきって、この回は取るが、挽回及ばず、という絵。
判定は3-0で帝尊でした。



やはり、上記したような野中悠樹の現状は、かつての先行逃げ切りパターンで、日本上位や世界ランカーを破ってきたフットワーカーとしての技量力量が失われている、と言わざるを得ないものでした。
体格、パワーで勝り、歳も若い帝尊康輝相手に、パンチャー寄り、ヒットの有効性を競う方向に若干傾いた展開で闘う苦しさが、試合全般に渡って、つぶさに見えてしまったように思います。

もちろん、45歳でありながら、タイトルマッチでこれだけの試合が出来ることは、本当に凄いし、感嘆します。
しかし、それを殊更に言い、称えねばならないのだとしたら...すでにボクサー野中悠樹の存在意義そのものが揺らいでいるが故だ、とも思います。

本人の試合後のコメントは、飽くなき闘志で追い求める「世界」を、ひとつの基準として語られたものでした。
ならば、と傍目には思うところですが。




新王者となった帝尊康輝ですが、以前よりはスタミナの不安など、あからさまな不足は見えなかったし、移籍して初のタイトル獲得は、この一戦に賭けていたであろう彼にとり、歓喜の瞬間だったこともよくわかりました。
試合運びは割と落ち着いていたし、丁寧に右リードを当てることで圧力をかけ、様々な「測定」も出来、という利点を得ての闘いぶりは、良いものだったと思います。

しかし、タイトル自体の存在意義や是非は置くとして、タイトルホルダーとして見れば、やはり天与の体躯、パワーをもっと発揮してほしいし、そうでなければいかん、とも思います。
大ベテラン野中の偉大をわかった上で、それでも、もっと激しい形での新旧交代を目指して、闘って欲しかったなあ、と。
実際にそれがかなうかどうかは別にして、ですが。そういう面では不足を感じた次第、です。





メイン、と言っていいのかどうかはともかくも、ヘビー級の但馬ミツロは、ルイス・マリンという選手に初の判定勝ちでした。
スピードもセンスも随所に出ていて、左フックのカウンターやリターンパンチは、階級どうこう以前に鮮やかなものが何度も見られました。

とはいえ、相手については...35歳で、戦績がどうで、という以前に、体格こそ立派ながら、但馬の同じパターンのリターンを、何度も繰り返してもらい続け、何の対応も出来ない一点だけ見ても、ボクサーとしての作り、という観点で言えば、あまりに大きな欠落がある相手でした。
しかしながら、あの体格と、打ち返そうという気がある、という二点がありさえすれば、但馬にとって、思うようには闘えない試合になってしまう。

でも、こういう試合から始めて、まずは数を積み重ねていかねばならない。
前回までは、ボクサーとしての耐性がそもそも無い、足りない相手だったが、今回は少なくともそれがある相手との試合だった、ということなのでしょう。
こういう試合があとどれくらいの数、必要なのかは不明ですが、但馬ミツロの、ヘビー級ボクサーとしての「現在地」が、はっきり見え(してまっ)た試合だったかな、という印象でした。




コメント (2)
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