さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

余計な嵩上げ不要、上々の三戦目 堤駿斗、サンティシマに判定勝ち

2023-06-01 13:30:47 | 関東ボクシング



昨日はABEMAのライブ配信、堤駿斗のサンティシマ戦がありました。感想など。


初回スタート、堤の上体が厚みを増しているように見える。速いジャブ、上下に散らす。
ジョー・サンティシマもまずは左から。こちらは踏み込み深く、肩入れて突き抜くジャブ。
両者のスタイル、何に重きを置いて打つか、フォームの違いが早々に見えて、面白い。

この回は堤が徐々に右ボディストレート、左ボディフックを当て、つつがなく終えるかと見えたラスト10秒、サンティシマの右が伸びてヒット。
しかし堤、のけぞって芯を外し、左フック上、下と速いリターン。この辺は危ない場面でも非凡。

2回、堤足使い、外す。追い足に欠けるサンシティシマの泣き所が少し見える。
堤、ジャブ上下、右クロス、ボディなどを当てては動き、外す。良い回り。
基本、これで行けば良い、と見えた三分間だった、が。

3回、サンティシマが出る。序盤だが、このままではまずいと早々に判断。堤は右を外してコンビ返す。
しかし、サンティシマの前進、ボディや右の狙いに、徐々に足で外すでなく、止まって対応する形になっていく。
右クロスヒット、左ボディをサンティシマの右打ち終わりに当てるなどして、さらに攻める。
手応えあり、だったか。しかし、少し攻めに「傾き」始めたな、とも見える。

4回も堤は足使いつつ、止まっての対応もやはり続く。右外してジャブから左ボディ、ヒット。
ジャブを下に散らして右フック。サンティシマの打ち終わりに左ボディ、差し込む。ジャブの「返り前」に左フック。
逐一センスが光る、鋭いリターンパンチの数々。

5回、サンティシマ右を強振して、挽回図る。しかし堤、右の返り前に左リターン。左ダブルから右アッパー。
6回、サンティシマさらに手数増やして攻める。堤右ストレート、左ボディ決めるが、当てたあと大きく足で外さず、次に来るサンティシマを迎え撃つ。


もちろん12ラウンズの長丁場、何度かこういう形は必要なれど、これでずっと行く必要もない、と思うのだが、本人の手応えや選択は、小さく動いて外し、あとは迎え撃ち、効かせられたら「行く」というものらしい。
ここまでの前半戦、もう少しセーフティーに考えた方が、相手を心身共に疲弊させ、後半に倒すチャンスが増したのでは、と思ったところ、でした。


この回、サンティシマのボディブローが何度か堤の腹に届く。ラスト、堤の右カウンターあるが、もしサンティシマが取れたとしたら、この6回だったか。

7回、堤は左ジャブを押し立てて、という感じ。ジャブで間合いをしっかり作って、後続打。
迎え撃ちばかりだと、どうしても相手が来るので、リスクも増すし、対応にも労力が要るが、ジャブ優先で流れを作れば、良い回りになる。

ところが8回、堤、足使うが手数は減る。ペースの上げ下げでもあっただろうが、良い流れのまま足使うのでなく、一度止め加減になったあとから、再び足使い始めると、こうなるのかなあ、とも見える。
堤は引き寄せ狙い、サンティシマは前の回の間合いが「残って」いて、打ってもミスが多い。
9回、堤引き続き「省エネ」の感。右ボディアッパーは、サンティシマさすがに「覚えた」か、腕でブロック。
両者左フック相打ち、打ち勝ったのはサンティシマの方。

10回、堤は足使って、サンティシマが迫る、という流れ。サンティシマの右が伸び、堤ちょっとのけぞるが、右アッパーでお返し。
ラストも打ち合うが、全体としては、精度も数も、堤がまさってはいる。
11回、サンティシマの左ボディ。堤、打ち合いで左ダブル決める。左フック、右アッパーさらに好打。


疲れも見える終盤ながら、少し攻めに厚みが出てきた堤、最終回はさらに攻めを上乗せ。
左右ボディから右フック、また同じ攻めから右クロス。サンティシマ後退、堤さらに追い打ち。
左ボディで効いたサンティシマ、腰を折ったまま、堤に二度、しがみつく。もう一押しでダウン、というところ。

堤左右を強振して追撃。ここで冷静に、ラッシュで無くコンビネーションが出るようなら、それこそ次が世界挑戦でも通りそうだが、まだ三戦目、そこまではさすがに求められない。
とはいえ、ラストでしっかり白黒ついた、という「絵」を作って見せるだけでも、充分凄い。


判定は大差の3-0で堤。
よほど辛くつけても10対2まで、という内容だったと思います。



試合後、本人は「地に足着けて、自分のペースで」世界を狙って行く、というコメントをしていました。
この辺は、当たり前ですが経験、そして他にも不足している部分あり、という自覚があるようで、若いのに冷静、頭涼しいな、と感心しました。

試合全般に渡って、リターンパンチの狙いどころひとつとっても「非凡」としか言いようのないセンスを感じるところ多々ですが、同時に、セーフティーに闘ってペースを掴みきる前に、止まり加減でリターンやカウンターの好打、強打狙いにシフトした判断などは、疑問を感じるところでもありました。
前半、動きにスピードがあり、疲弊する前に、速さで相手を苛立たせ、精神的に苦しめておいて、中盤以降に「狙い」に出る、という組み立てならば、最終回に見せた攻め上げが、もうひとつふたつ前のラウンドで出せたのではないか。
もちろん、傍目の思うとおりに行けば苦労無いわ、と言われればそれまでですが、少し、闘い方の切り換えに「稚気」が勝っている部分が見えた気もしました。

それは本人も語っているとおり、やれ「最短」だなんだ、という無意味な嵩上げで「世界」を語れる階級では無い、伝統のフェザー級において、今後の課題として残ったひとつだと思います。


しかし、今回の最短東洋太平洋チャンピオン、という余計な嵩上げは、本当に目障りなものでした。
試合以外の部分まで、つぶさに配信を見ていたわけではありませんが、ジョー・サンティシマが直近の試合で、下町俊貴に敗れたことに言及した部分は、見ている限りでは無かったように思います。
サンティシマの力量は、対オーソドックス、体格も大差ない相手なら、見た通り十分なものがあり、手強いものでした。
しかし、直近の試合で敗れている選手相手の空位決定戦を、昔日の「東洋最強」のグレードがOPBFタイトルに備わっていた時代と同じ尺度で「快挙」として喧伝しようとする、その無理は、堤駿斗本人も、番組の作り手自身も、よくわかっていたはずです。

そして、実際に出来上がった中継配信番組は、その喧伝に到底見合わない、若干寂しい客入りと、場内の雰囲気とのギャップも相まって、何とも見ていて据わりの悪いものになりました。
実況解説、ゲストの放送内容が、あまりに安っぽくて貧乏くさいことには、もう諦めの心境あるのみ、ですが、伝えて良いことと悪いことを、自分たちの都合で選別する、昭和の発想、というと昭和に失礼か、と思うような番組作りは、見てるこちらが恥ずかしくなるようなレベルのものでした。



その上で、もちろん不足もあれば、未熟な部分も残るとはいえ、堤駿斗が終始示した非凡な素質、その技量の素晴らしさは、デビュー三戦目の選手としては出色のもので、見ていて救われる思いでした。
タイトルにまつわる、やれ最短だ何だという話を置いても、デビュー三戦をジョン・ジェミノ、ピート・アポリナル、ジョー・サンティシマと闘って、全部クリアに勝つというのは、考え得る中で、これ以上望めない実力証明と言って良いのでは、と思います。

次が世界というのは、馬鹿馬鹿しい限りですが、次が日本、というのは、充分に「大ごと」というか、大きな話題になって然るべき話でしょう。
現時点で、脅威的に強い新人が日本一位に躍り出た、と言える位置につけた、と思いますが、さらに日本上位や、国際レベルで強いと言える選手と対戦し、そのあと松本圭佑とのライバル対決、となれば、それこそPPVで売られても買ってしまう(そりゃ、無料は有り難いですが)ようなカードです。

すぐに世界世界というよりも、そういう場で、ファンの心中に「余計」なことを思わせない形での「納得」を勝ち取って、そして世界へと打って出る。
それこそが、真の逸材たる、堤駿斗にとって、本当に相応しい道行きなのだ、と強く思った次第、です。





コメント (2)
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