食と農(食糧問題及び農業問題を全体として捉える場合に食農という言い方がある。以降可能な限り食農を使ってみたい)のシステムに関する世界の潮流をまず捉えてみたい。そして、その潮流が世界沸騰時代という今の状況に合致した適切な流れなのかどうかを考えてみたい、と思い調べております。
そんな考えで、前回はC3植物とC4植物というキーワードを取り出し、現在の世界の食農システムの潮流が妥当かどうかを判断するキーワードの1つを提示しました。
今回はアフリカの食農システムに興味があり調べていく過程で、興味深い別のキーワードの存在が出てきましたので紹介したいと思います。「AGRA」と「AFSA」になります。
AGRAとAFSAはいずれもアフリカ大陸における、それぞれの食農システムの普及を目指している組織になります。ただし、AGRAは世界のアグリビジネス業界の提供する科学技術を採用し、そして推進することでアグリビジネスの巨大企業からの支援と後援を受けており、その運用資金は世界の慈善団体(例えばロックフェラー財団やビル・メリンダゲーツ財団)から受けており、その技術力と資金力からアフリカ各国の政府にAGRAの食農システムを採用させる力を持っており、一方のAFSAはこうした支援や後援を現在はほぼ受けることが出来ていない、世界の潮流の脇に置かれた組織だというのが今の現実の状況と思われます。
しかしながら、AGRA とAFSAという2つの組織の活動を調べていくと、2つの組織の動向が、単にアフリカ大陸に留まらない、世界の食農システムの現在と今後の行方を考えていく上で非常に参考になる思想がそれぞれに含まれている、と感じております。
前回のC3植物とC4植物と同様に、今回もAGRAとAFSAという二つの組織を観察していくことで、世界が目指すべき食農システムと、その流れが世界沸騰時代に適っているのかを考える上での参考材料になればと思っております。
結論的にいうと、種子ビジネス・合成肥料・合成農薬販売等の多国籍巨大アグリビジネス事業体の利益が優先的に確保され、そして単一品種栽培の効率化を追求し、規模の拡大を目指すAGRA型システムだけが繁栄している現状を肯定するのでなく、家族労働も含めた小規模事業者のその土地その土地に合わせた自主性・自律性が尊重されるAFSAシステムもが共存する食農システムが構築され、世界から支持を受けるようなことが望ましく、その方向が我々の取るべき道だと考えております。即ち、いずれか一方に偏った食農システムの採用は正解ではない、という考えであります。
私自身は主流になり得ていないAFSA側に身を置きたい気持ちがあるものの、出来る限り、バランスをとりながら話を進めてみたい。
まずAGRAを紹介する。
AGRAの正式名称は、緑の革命アフリカ同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa)。
彼らのホームページ中の「我々について」に記載されている内容は次のとおりである。
AGRAはアフリカが主導する組織であり、小規模農家の収入が増え、生活が改善され、そして食料の安全確保の向上に役立つ農業の革新化を図ることに焦点を合わせている組織です。
アフリカの農民らが、直面する環境上のそして農業上の課題に関してアフリカに特有の解決策を求めていることをAGRAは心得ています。AGRAが提供する解決策により、生産拡大が持続可能な形で達成され、そして急激に拡張している農業市場への接続性が向上されることが期待できます。簡単に言うと、AGRAの使命というものは、小規模農家の生活を、そして生存をかけた孤独な戦いの状況から繁栄発展するビジネスへと転換させることであります。
2006年以降、AGRAはパートナーら、各国政府、非政府組織、民間企業体やその他多くの組織機関と連携し活動してきています。そして小規模農家や先住アフリカ農業事業体に対して有効性が実証されている一連の解決策を提供してきています。AGRAは小規模農家を第一に考えており、農業の革新なしには如何なる国も低収入状況から中程度収入状況の国への発展はあり得ないと考えています。
以上が、AGRAのホームページにおける自己紹介です。表面上はAFSAの理念を意識し、取り入れながら存在感の確保を試みているが、利益関与団体の意向を底流では保持した文言と見えます。
繰り返すが、AGRAは、多国籍化学肥料・農薬企業・種子ビジネス企業等からの後援を受け、国際的慈善団体からは資金支援を受け、そしてAGRAの農業システムは行政から優先的に採用され、世界的に主流と認知されている組織であるということが大きな特徴であり、その推進するシステムは、以前に紹介したメキシコの研究所の矮生コムギ(背たけが低い)の品種とフィリピンの研究所の矮生コメの品種という新しい多収量品種の単一栽培をアジアと中米に広めた1960~1980年代の所謂「緑の革命Green Revolution(GR)」システムを、前回のGR拡大路線に乗り損ねたと見られるアフリカに、2006年以降から適用・推進することを念頭に置いた組織だ、ということである。
自身が美辞麗句で飾るAGRAのホームページの情報とは異なる、別の立場の人々が見るAGRAについての情報を次に紹介してみたい。
Tufts大学のTimothy A.Wise氏による「間違った約束:緑の革命アフリカ同盟(False Promises:The Alliance for a Green Revolution in Africa)」の記事がそれである。この記事は題名からわかる通りAGRAに批判的な立場からの見かた・歴史観になります。
更に興味のある方はWise氏の論文「Failing Africa's Farmers:An Impact Assessment of the Alliance for a Green Revolution in Africa」2020年を参照することをお勧めします。
以下に簡単にWise氏の論旨を拾って紹介します。
ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation:以下BMGFと略す)及びロックフェラー財団が2006年にAGRAの設立に着手。
多国籍種子企業が販売する高収量(矮生)種子や合成肥料及び合成殺虫剤等農薬を用い、そして灌漑-多水農耕が必要な米・小麦等の単一品種栽培を特徴とする緑の革命(GR)型農耕システムをアフリカ大陸に導入することを目的とする組織の設立である。
そしてAGRAが推進するシステムが、アフリカに存在する飢餓と貧困の削減達成に貢献できる、と主張している。
AGRAは様々なプロジェクトに投資を行っており、そしてアフリカ各国政府にロビー活動(多国籍巨大アグリビジネス団体の力を背景とする)を行い各国政府がAGRA型GR技術を採用することを推進し、アフリカ大陸各国家の食農政策の推進と市場の構造改善を達成する手助けを行っている。
AGRAは発足以来、10億ドルに近い出資・寄付金を主にBMGFから受けており、BMGF以外にはアメリカ、英国、ドイツ等もある。
AGRAは5億ドル以上の助成金をアフリカ農業の現代化を目指して行っている。
そしてアフリカ各国政府は主として、「作物栽培向け投入資材(農薬や肥料や種子に相当する)購入資金助成金プログラム(the form of input subsidy programmes, FISPs)」という形で獲得した助成金を使用している。即ち、農家はハイブリット種子を購入し、合成肥料や合成農薬の力を借りて緑の革命型農業システムを行い、それにより農家の収入と生活の改善及び生産性の向上を図ろうというわけである。
AGRAの初代代表には前国連事務総長のアナン氏が就任しており、その主導のもとAGRAは重点対象国を13カ国に設定して、その内10カ国が事実FISPsを採用している。
AGRAが当初目標としたミッションが2008年年次報告書(2008 annual report)に記されており、2020年までにアフリカの2000万の小規模農家の収入の倍増とアフリカ20カ国の食料不安・栄養不足を半減させることとしていた。
AGRAが主導するシステムの実績は次のようである。
・栄養不足の改善:3ヶ国は15年にわたり改善がみられる。ザンビア(2%改善)、エチオピア(8%改善)ガーナ(36%改善)。反対にケニア(44%の悪化)、ナイジェリア(247%の悪化)。
即ち、過去15年のAGRA型システムの取り組みで全体としては、栄養不足は逆に50%悪化したという。AGRAの目標は完全に破たんしていると言える結果なのである。
・2000万の小規模農家の収入アップ目標:この目標も達成されていない。巨大アグリビジネス企業の利益は常に確保される(それが保証されるシステムであるが故である)ものの小規模農家の収入アップに繋がらない理由は、一つにAGRA型のシステムでは時間と共に土壌の劣化が起こり、生産性の悪化が付随することによるとされている。
よってAGRAは2020年6月に説明なしでこれら目標をホームページから削除しているのが実態である。
このWise氏の提供している情報の中でAGRAの本質を示すものは次の点だろう。
1.2006年ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation,BMGF)とロックフェラー財団がAGRAの設立を主導。そして10億ドルに近い出資・寄付金が主にBMGFからのものだったこと。
2.AGRAは5億ドル以上の助成金を、アフリカ農業の現代化達成を目指して行っている。
アフリカ各国政府は獲得した助成金を使用して「作物栽培向け投入資材購入向けの助成金プログラム」を提示。農家がGR型農業のハイブリット種子や合成肥料の購入をするよう誘導する。各国政府に対する多国籍アグロビジネス事業体からのロビー活動により、13カ国中10カ国でFISPsが採用されているというのが実態である。
3.各国政府にFISPsを採用させて、GR型農業行政を行うよう誘導したのが前国連総長だった人物でありAGRA初代代表だったという点も重要なことである。
4.BMGFやロックフェラー財団がバックアップし、種子企業や大手合成肥料会社・農薬企業・農業機械企業といった多国籍企業の資本力・事業化力の後援があり、地元各国政府の思惑が重なった形で、アフリカ大陸の食と農業のガバナンスはAGRAが思い描く方向に進んでいるという実態が厳然と存在している。
即ち、アフリカに留まらずに世界の食農システムのガバナンスを支配しているのはAGRA的工業型農業システムであり、これが現在の主流の体制と間違いなく言える状況である、とも言えるのではないかと見ている。
次にAFSAについて、説明する。
AFSAとは、食料主権アフリカ同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa、AFSA)を指す。
同様に先ずはAFSAホームページの「我々について」を見てみたい。
AFSAはアフリカの小規模農家・牧畜民・漁民・先住民・信仰共同体・消費者・女性そして若者らを統合し、統一して食料主権を声高に訴えることを目指している。
そしてFAO(世界食糧農業機関)がホームページでAFSAを紹介している。それによると、AFSAは2008年に趣旨を共有する関係者らが構想を持ち、2011年の南ア・ダーバンにおける国連気候変動に関する枠組み会合(the UN Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)のCOP17において発足している。発足時の報告において、食料主権主義が地球を冷却する力があり、世界の食を改善し、そして地球環境を再生する力を持つと主張されている。
即ち、AFSAはアフリカにおける食料主権とアグロエコロジー(agroecology)確立のため闘っている様々な市民活動家らの広範な同盟である。同盟に加わっているのは、農民組織団体・NGOネットワーク・専門家NGO団体・消費者運動団体・AFSAの考えに共鳴する国際組織団体及び個人らであり、小規模農家・牧畜民・狩猟採集者ら・先住民の人々らを代表するものである。
AFSAの重要な目標は国の政策に影響を及ぼすこと、そして食料主権に向けてのアフリカが提示する解決策を推進することであるとしている。
アフリカの農民を組織化しネットワーク化するための汎アフリカプラットホームである。
そして共同体の権利・家族型農業・伝統として継承されている農業知識体系の推進そして環境及び天然資源の管理運営等をアフリカ農業政策へと昇華していくように声を強めていくことがAFSAの目標だとしている。
しかし、その実態及び実績は、やはり主流からは脇に置かれた存在という面はぬぐいきれない状況であろう。AGRAの背後の多国籍アグリビジネス巨大企業体組織・国際慈善団体のバックアップとそれになびく地元各国政府の存在という総合力は侮ることはできない力である。
ここにおいて前国連総長がアフリカの食農システムの改善向上を目指す考えを持った時に、多国籍アグリビジネス巨大企業体組織のGR型システムだけを念頭に置く構想だけでなく、AFSA型のシステムの構築と確立も重要だとする構想を持てなかった判断力と見識の不足が残念である。多面的な視野を持って動けば、例えばBMGF等の国際慈善団体基金の投入もバランスの取れたものになっていたのではないかと思う。
かかる現状の課題からAFSAはBMGFも含むAGRAへの出資団体に公開書簡を送っている。その内容を記しておきたい。
AFSAの35の組織ならびに40カ国174に及ぶ団体からの後援を背景に、AFSAはAGRAを支援する団体に対し支援の停止を要望する。そしてアフリカ人が主導するAgroecologyやその他の低い投入物量(合成肥料や合成農業薬剤の使用量の削減化を目指す)を特徴とする農耕システムを支援するように要請する。
アフリカ大陸最大の市民社会団体ネットワークであるAFSAは、2021年5月にAGRA支援団体に対し、AGRAが15年にわたり実施した工業型農業システムが数100万の小規模農家の収入拡大と食糧安全保障に貢献した、という確かな証拠があれば提示して欲しい旨の書簡を送っている。
これに対しわずかな回答はあるものの、信頼できる証拠の情報は提示されていない(2021年9月7日時点)。
AGRAの掲げる使命(生産性と収入を向上し、食料安全保障を改善するという使命)は明らかに破たんし実際にはアフリカ農民に対し広範な悪影響を及ぼしている。
約15年にわたり、10億ドル以上を推奨種子・化学肥料・農薬購入に費やすシステムを13のアフリカ諸国で展開し、その上、毎年10億ドルに及ぶ補助金制度をアフリカ諸国政府が提供するシステムをAGRAが展開したが、持続可能な形で収穫量・農家収入そして食料安全保障を改善するというAGRAの目標が達成されたという明確な証明は為されていない。
AGRAシステムに取りくんだ13カ国では栄養不足の割合が30%拡大し、主食作物の生産量が拡大した国においてさえ田園地域の貧困と飢餓状況の削減にはほとんど効果は出ていない。反対にAGRA推奨の品種の大量採用により、元々かかる地域の食料安全保障に役だっていた気候変動に強い作物が脇に追いやられるという弊害のみが残ったといえる。
AGRAが果たした悪影響に対する理由を挙げると、
1. 持続可能な生活システム、長期にわたる土壌肥沃性や気象等を犠牲にして、良策とは言えない化学的投入物(肥料と農薬)に高度に依存する単一品種栽培を追求している。
2. 高収量種子・肥料・農薬依存へと農民を誘導する戦略は、多国籍アグリビジネス事業体の提供する生産システムへの依存性を農家に植え付けることになる。しかもこのシステムは環境に悪影響を与えることで、気候変動に対する回復性を悪化させ、そして小規模農家の負債リスクを高進させる恐れがある。
3. AGRAはその財政力を梃子にしてアフリカ諸国の農業政策に介入している。そこではアフリカの飢餓と貧困対策は置き去りにされ、アフリカ農民と資源が収奪されるシステムが働いている。
AGRA現代表のKalibata博士が、開催が予定される国連食糧サミット(UN Food Systems Summit、UNFSS)に国連特別代表として参加し、AGRAのシステムを世界に提案し、世界を間違った方向に誘導する可能性が出てきている。このことが現在の我々が抱えている課題の一つであると捉えている。
世界の数百の組織・団体が、開催予定のUNFSSが多国籍企業の主導する工業型農業を世界に拡散する機会になるのでは、という懸念を表明している。
2021年6月500人に近い数のアフリカの各種団体の長がBMGFに書簡を送り、悪影響のある工業型農業への支援停止を要請している。そしてBMGFおよびその他の支援団体は、小規模農家の声を聞くよう求めている。
AFSAはこれらの書簡の内容を支持し、慈善団体が支援を決定する段階で、アフリカ人の声を聞くよう要望する。
世界は人道的に、環境的に、そして異常気象という危機に直面している。従って発展モデルを迅速に転換する必要がある。
アフリカの全ての農民は、それぞれの知識を共有し、科学者らと連携して低い投入量に基づく農業モデルを確立することが更なる望ましい結果を生むということを理解している。即ち農業生産の権利はアフリカ農民の手にあるべきだ、と考えている。
AFSAはBMGF及び他のAGRA支援団体がアフリカ全域にわたる農民の声(健全であり、持続可能であり、公正な食農を目指すシステムの構築、即ちAgroecologyに基づく食農システムの構築)に耳を傾けるよう要請する。
***
世界は主流側、体制側がアドバルーン的に方向を指し示し、その持てる資金力と技術開発力とそして腕力を用いて、その方向への動きを実態化させていくことで、動いていくものだ、とも言える。
まさしく進行中のCOP28で、温暖効果ガス排出削減の手段として、100カ国以上の支持を受け当然ながら再生可能エネルギーの拡大が上程されようとしている。そして20程の国(日本はこちらにも顔を出している)が、原発の3倍化の方針を上程する気配が感じられる。
このCOP28での突然の原発の動向は今後興味深い問題ですが、現時点ではあくまでこういう考え方もある位の受け取り方をする必要が我々市民側には求められると思っております。
事実、DeutcheWelleやAlJazeeraやPakistanDawnらの記事には、20程の国による原発の3倍化方針の情報は取り立ててスポットライトは当てられていない。例え紹介されている場合でも100カ国以上の支持の再生可能エネルギーの3倍化拡大策が強調され、そして原発の動きもある位の報道が現状です。
ここでも日本の報道の突出性がある意味興味深く、また気にかかる所です。
わき道にそれてしまいましたが、今回のテーマの底流として存在していると感じる資金力や腕力による世の潮流作りの功罪ということについて、今後焦点を当てていきたいと思っております。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan
そんな考えで、前回はC3植物とC4植物というキーワードを取り出し、現在の世界の食農システムの潮流が妥当かどうかを判断するキーワードの1つを提示しました。
今回はアフリカの食農システムに興味があり調べていく過程で、興味深い別のキーワードの存在が出てきましたので紹介したいと思います。「AGRA」と「AFSA」になります。
AGRAとAFSAはいずれもアフリカ大陸における、それぞれの食農システムの普及を目指している組織になります。ただし、AGRAは世界のアグリビジネス業界の提供する科学技術を採用し、そして推進することでアグリビジネスの巨大企業からの支援と後援を受けており、その運用資金は世界の慈善団体(例えばロックフェラー財団やビル・メリンダゲーツ財団)から受けており、その技術力と資金力からアフリカ各国の政府にAGRAの食農システムを採用させる力を持っており、一方のAFSAはこうした支援や後援を現在はほぼ受けることが出来ていない、世界の潮流の脇に置かれた組織だというのが今の現実の状況と思われます。
しかしながら、AGRA とAFSAという2つの組織の活動を調べていくと、2つの組織の動向が、単にアフリカ大陸に留まらない、世界の食農システムの現在と今後の行方を考えていく上で非常に参考になる思想がそれぞれに含まれている、と感じております。
前回のC3植物とC4植物と同様に、今回もAGRAとAFSAという二つの組織を観察していくことで、世界が目指すべき食農システムと、その流れが世界沸騰時代に適っているのかを考える上での参考材料になればと思っております。
結論的にいうと、種子ビジネス・合成肥料・合成農薬販売等の多国籍巨大アグリビジネス事業体の利益が優先的に確保され、そして単一品種栽培の効率化を追求し、規模の拡大を目指すAGRA型システムだけが繁栄している現状を肯定するのでなく、家族労働も含めた小規模事業者のその土地その土地に合わせた自主性・自律性が尊重されるAFSAシステムもが共存する食農システムが構築され、世界から支持を受けるようなことが望ましく、その方向が我々の取るべき道だと考えております。即ち、いずれか一方に偏った食農システムの採用は正解ではない、という考えであります。
私自身は主流になり得ていないAFSA側に身を置きたい気持ちがあるものの、出来る限り、バランスをとりながら話を進めてみたい。
まずAGRAを紹介する。
AGRAの正式名称は、緑の革命アフリカ同盟(Alliance for a Green Revolution in Africa)。
彼らのホームページ中の「我々について」に記載されている内容は次のとおりである。
AGRAはアフリカが主導する組織であり、小規模農家の収入が増え、生活が改善され、そして食料の安全確保の向上に役立つ農業の革新化を図ることに焦点を合わせている組織です。
アフリカの農民らが、直面する環境上のそして農業上の課題に関してアフリカに特有の解決策を求めていることをAGRAは心得ています。AGRAが提供する解決策により、生産拡大が持続可能な形で達成され、そして急激に拡張している農業市場への接続性が向上されることが期待できます。簡単に言うと、AGRAの使命というものは、小規模農家の生活を、そして生存をかけた孤独な戦いの状況から繁栄発展するビジネスへと転換させることであります。
2006年以降、AGRAはパートナーら、各国政府、非政府組織、民間企業体やその他多くの組織機関と連携し活動してきています。そして小規模農家や先住アフリカ農業事業体に対して有効性が実証されている一連の解決策を提供してきています。AGRAは小規模農家を第一に考えており、農業の革新なしには如何なる国も低収入状況から中程度収入状況の国への発展はあり得ないと考えています。
以上が、AGRAのホームページにおける自己紹介です。表面上はAFSAの理念を意識し、取り入れながら存在感の確保を試みているが、利益関与団体の意向を底流では保持した文言と見えます。
繰り返すが、AGRAは、多国籍化学肥料・農薬企業・種子ビジネス企業等からの後援を受け、国際的慈善団体からは資金支援を受け、そしてAGRAの農業システムは行政から優先的に採用され、世界的に主流と認知されている組織であるということが大きな特徴であり、その推進するシステムは、以前に紹介したメキシコの研究所の矮生コムギ(背たけが低い)の品種とフィリピンの研究所の矮生コメの品種という新しい多収量品種の単一栽培をアジアと中米に広めた1960~1980年代の所謂「緑の革命Green Revolution(GR)」システムを、前回のGR拡大路線に乗り損ねたと見られるアフリカに、2006年以降から適用・推進することを念頭に置いた組織だ、ということである。
自身が美辞麗句で飾るAGRAのホームページの情報とは異なる、別の立場の人々が見るAGRAについての情報を次に紹介してみたい。
Tufts大学のTimothy A.Wise氏による「間違った約束:緑の革命アフリカ同盟(False Promises:The Alliance for a Green Revolution in Africa)」の記事がそれである。この記事は題名からわかる通りAGRAに批判的な立場からの見かた・歴史観になります。
更に興味のある方はWise氏の論文「Failing Africa's Farmers:An Impact Assessment of the Alliance for a Green Revolution in Africa」2020年を参照することをお勧めします。
以下に簡単にWise氏の論旨を拾って紹介します。
ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation:以下BMGFと略す)及びロックフェラー財団が2006年にAGRAの設立に着手。
多国籍種子企業が販売する高収量(矮生)種子や合成肥料及び合成殺虫剤等農薬を用い、そして灌漑-多水農耕が必要な米・小麦等の単一品種栽培を特徴とする緑の革命(GR)型農耕システムをアフリカ大陸に導入することを目的とする組織の設立である。
そしてAGRAが推進するシステムが、アフリカに存在する飢餓と貧困の削減達成に貢献できる、と主張している。
AGRAは様々なプロジェクトに投資を行っており、そしてアフリカ各国政府にロビー活動(多国籍巨大アグリビジネス団体の力を背景とする)を行い各国政府がAGRA型GR技術を採用することを推進し、アフリカ大陸各国家の食農政策の推進と市場の構造改善を達成する手助けを行っている。
AGRAは発足以来、10億ドルに近い出資・寄付金を主にBMGFから受けており、BMGF以外にはアメリカ、英国、ドイツ等もある。
AGRAは5億ドル以上の助成金をアフリカ農業の現代化を目指して行っている。
そしてアフリカ各国政府は主として、「作物栽培向け投入資材(農薬や肥料や種子に相当する)購入資金助成金プログラム(the form of input subsidy programmes, FISPs)」という形で獲得した助成金を使用している。即ち、農家はハイブリット種子を購入し、合成肥料や合成農薬の力を借りて緑の革命型農業システムを行い、それにより農家の収入と生活の改善及び生産性の向上を図ろうというわけである。
AGRAの初代代表には前国連事務総長のアナン氏が就任しており、その主導のもとAGRAは重点対象国を13カ国に設定して、その内10カ国が事実FISPsを採用している。
AGRAが当初目標としたミッションが2008年年次報告書(2008 annual report)に記されており、2020年までにアフリカの2000万の小規模農家の収入の倍増とアフリカ20カ国の食料不安・栄養不足を半減させることとしていた。
AGRAが主導するシステムの実績は次のようである。
・栄養不足の改善:3ヶ国は15年にわたり改善がみられる。ザンビア(2%改善)、エチオピア(8%改善)ガーナ(36%改善)。反対にケニア(44%の悪化)、ナイジェリア(247%の悪化)。
即ち、過去15年のAGRA型システムの取り組みで全体としては、栄養不足は逆に50%悪化したという。AGRAの目標は完全に破たんしていると言える結果なのである。
・2000万の小規模農家の収入アップ目標:この目標も達成されていない。巨大アグリビジネス企業の利益は常に確保される(それが保証されるシステムであるが故である)ものの小規模農家の収入アップに繋がらない理由は、一つにAGRA型のシステムでは時間と共に土壌の劣化が起こり、生産性の悪化が付随することによるとされている。
よってAGRAは2020年6月に説明なしでこれら目標をホームページから削除しているのが実態である。
このWise氏の提供している情報の中でAGRAの本質を示すものは次の点だろう。
1.2006年ビルとメリンダ・ゲーツ財団(Bill and Melinda Gates Foundation,BMGF)とロックフェラー財団がAGRAの設立を主導。そして10億ドルに近い出資・寄付金が主にBMGFからのものだったこと。
2.AGRAは5億ドル以上の助成金を、アフリカ農業の現代化達成を目指して行っている。
アフリカ各国政府は獲得した助成金を使用して「作物栽培向け投入資材購入向けの助成金プログラム」を提示。農家がGR型農業のハイブリット種子や合成肥料の購入をするよう誘導する。各国政府に対する多国籍アグロビジネス事業体からのロビー活動により、13カ国中10カ国でFISPsが採用されているというのが実態である。
3.各国政府にFISPsを採用させて、GR型農業行政を行うよう誘導したのが前国連総長だった人物でありAGRA初代代表だったという点も重要なことである。
4.BMGFやロックフェラー財団がバックアップし、種子企業や大手合成肥料会社・農薬企業・農業機械企業といった多国籍企業の資本力・事業化力の後援があり、地元各国政府の思惑が重なった形で、アフリカ大陸の食と農業のガバナンスはAGRAが思い描く方向に進んでいるという実態が厳然と存在している。
即ち、アフリカに留まらずに世界の食農システムのガバナンスを支配しているのはAGRA的工業型農業システムであり、これが現在の主流の体制と間違いなく言える状況である、とも言えるのではないかと見ている。
次にAFSAについて、説明する。
AFSAとは、食料主権アフリカ同盟(Alliance for Food Sovereignty in Africa、AFSA)を指す。
同様に先ずはAFSAホームページの「我々について」を見てみたい。
AFSAはアフリカの小規模農家・牧畜民・漁民・先住民・信仰共同体・消費者・女性そして若者らを統合し、統一して食料主権を声高に訴えることを目指している。
そしてFAO(世界食糧農業機関)がホームページでAFSAを紹介している。それによると、AFSAは2008年に趣旨を共有する関係者らが構想を持ち、2011年の南ア・ダーバンにおける国連気候変動に関する枠組み会合(the UN Framework Convention on Climate Change、UNFCCC)のCOP17において発足している。発足時の報告において、食料主権主義が地球を冷却する力があり、世界の食を改善し、そして地球環境を再生する力を持つと主張されている。
即ち、AFSAはアフリカにおける食料主権とアグロエコロジー(agroecology)確立のため闘っている様々な市民活動家らの広範な同盟である。同盟に加わっているのは、農民組織団体・NGOネットワーク・専門家NGO団体・消費者運動団体・AFSAの考えに共鳴する国際組織団体及び個人らであり、小規模農家・牧畜民・狩猟採集者ら・先住民の人々らを代表するものである。
AFSAの重要な目標は国の政策に影響を及ぼすこと、そして食料主権に向けてのアフリカが提示する解決策を推進することであるとしている。
アフリカの農民を組織化しネットワーク化するための汎アフリカプラットホームである。
そして共同体の権利・家族型農業・伝統として継承されている農業知識体系の推進そして環境及び天然資源の管理運営等をアフリカ農業政策へと昇華していくように声を強めていくことがAFSAの目標だとしている。
しかし、その実態及び実績は、やはり主流からは脇に置かれた存在という面はぬぐいきれない状況であろう。AGRAの背後の多国籍アグリビジネス巨大企業体組織・国際慈善団体のバックアップとそれになびく地元各国政府の存在という総合力は侮ることはできない力である。
ここにおいて前国連総長がアフリカの食農システムの改善向上を目指す考えを持った時に、多国籍アグリビジネス巨大企業体組織のGR型システムだけを念頭に置く構想だけでなく、AFSA型のシステムの構築と確立も重要だとする構想を持てなかった判断力と見識の不足が残念である。多面的な視野を持って動けば、例えばBMGF等の国際慈善団体基金の投入もバランスの取れたものになっていたのではないかと思う。
かかる現状の課題からAFSAはBMGFも含むAGRAへの出資団体に公開書簡を送っている。その内容を記しておきたい。
AFSAの35の組織ならびに40カ国174に及ぶ団体からの後援を背景に、AFSAはAGRAを支援する団体に対し支援の停止を要望する。そしてアフリカ人が主導するAgroecologyやその他の低い投入物量(合成肥料や合成農業薬剤の使用量の削減化を目指す)を特徴とする農耕システムを支援するように要請する。
アフリカ大陸最大の市民社会団体ネットワークであるAFSAは、2021年5月にAGRA支援団体に対し、AGRAが15年にわたり実施した工業型農業システムが数100万の小規模農家の収入拡大と食糧安全保障に貢献した、という確かな証拠があれば提示して欲しい旨の書簡を送っている。
これに対しわずかな回答はあるものの、信頼できる証拠の情報は提示されていない(2021年9月7日時点)。
AGRAの掲げる使命(生産性と収入を向上し、食料安全保障を改善するという使命)は明らかに破たんし実際にはアフリカ農民に対し広範な悪影響を及ぼしている。
約15年にわたり、10億ドル以上を推奨種子・化学肥料・農薬購入に費やすシステムを13のアフリカ諸国で展開し、その上、毎年10億ドルに及ぶ補助金制度をアフリカ諸国政府が提供するシステムをAGRAが展開したが、持続可能な形で収穫量・農家収入そして食料安全保障を改善するというAGRAの目標が達成されたという明確な証明は為されていない。
AGRAシステムに取りくんだ13カ国では栄養不足の割合が30%拡大し、主食作物の生産量が拡大した国においてさえ田園地域の貧困と飢餓状況の削減にはほとんど効果は出ていない。反対にAGRA推奨の品種の大量採用により、元々かかる地域の食料安全保障に役だっていた気候変動に強い作物が脇に追いやられるという弊害のみが残ったといえる。
AGRAが果たした悪影響に対する理由を挙げると、
1. 持続可能な生活システム、長期にわたる土壌肥沃性や気象等を犠牲にして、良策とは言えない化学的投入物(肥料と農薬)に高度に依存する単一品種栽培を追求している。
2. 高収量種子・肥料・農薬依存へと農民を誘導する戦略は、多国籍アグリビジネス事業体の提供する生産システムへの依存性を農家に植え付けることになる。しかもこのシステムは環境に悪影響を与えることで、気候変動に対する回復性を悪化させ、そして小規模農家の負債リスクを高進させる恐れがある。
3. AGRAはその財政力を梃子にしてアフリカ諸国の農業政策に介入している。そこではアフリカの飢餓と貧困対策は置き去りにされ、アフリカ農民と資源が収奪されるシステムが働いている。
AGRA現代表のKalibata博士が、開催が予定される国連食糧サミット(UN Food Systems Summit、UNFSS)に国連特別代表として参加し、AGRAのシステムを世界に提案し、世界を間違った方向に誘導する可能性が出てきている。このことが現在の我々が抱えている課題の一つであると捉えている。
世界の数百の組織・団体が、開催予定のUNFSSが多国籍企業の主導する工業型農業を世界に拡散する機会になるのでは、という懸念を表明している。
2021年6月500人に近い数のアフリカの各種団体の長がBMGFに書簡を送り、悪影響のある工業型農業への支援停止を要請している。そしてBMGFおよびその他の支援団体は、小規模農家の声を聞くよう求めている。
AFSAはこれらの書簡の内容を支持し、慈善団体が支援を決定する段階で、アフリカ人の声を聞くよう要望する。
世界は人道的に、環境的に、そして異常気象という危機に直面している。従って発展モデルを迅速に転換する必要がある。
アフリカの全ての農民は、それぞれの知識を共有し、科学者らと連携して低い投入量に基づく農業モデルを確立することが更なる望ましい結果を生むということを理解している。即ち農業生産の権利はアフリカ農民の手にあるべきだ、と考えている。
AFSAはBMGF及び他のAGRA支援団体がアフリカ全域にわたる農民の声(健全であり、持続可能であり、公正な食農を目指すシステムの構築、即ちAgroecologyに基づく食農システムの構築)に耳を傾けるよう要請する。
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世界は主流側、体制側がアドバルーン的に方向を指し示し、その持てる資金力と技術開発力とそして腕力を用いて、その方向への動きを実態化させていくことで、動いていくものだ、とも言える。
まさしく進行中のCOP28で、温暖効果ガス排出削減の手段として、100カ国以上の支持を受け当然ながら再生可能エネルギーの拡大が上程されようとしている。そして20程の国(日本はこちらにも顔を出している)が、原発の3倍化の方針を上程する気配が感じられる。
このCOP28での突然の原発の動向は今後興味深い問題ですが、現時点ではあくまでこういう考え方もある位の受け取り方をする必要が我々市民側には求められると思っております。
事実、DeutcheWelleやAlJazeeraやPakistanDawnらの記事には、20程の国による原発の3倍化方針の情報は取り立ててスポットライトは当てられていない。例え紹介されている場合でも100カ国以上の支持の再生可能エネルギーの3倍化拡大策が強調され、そして原発の動きもある位の報道が現状です。
ここでも日本の報道の突出性がある意味興味深く、また気にかかる所です。
わき道にそれてしまいましたが、今回のテーマの底流として存在していると感じる資金力や腕力による世の潮流作りの功罪ということについて、今後焦点を当てていきたいと思っております。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan