安倍首相は、G7で以下のような演説をしました。
「私たちには共通の言葉があります。自由、民主主義、基本的人権、そして法の支配。基本的な価値を共有していることが、私たちが結束する基礎となっています。」「力によって一方的に現状が変更される。強い者が弱い者を振り回す。これは欧州でもアジアでも世界のどこであろうと認めることはできません。法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は明確であり、一貫しています。」
出典:産経新聞http://www.sankei.com/politics/news/150609/plt1506090003-n1.html
何とまあ、戦後民主主義者が裸足で逃げ出すほどリベラルな思想です。法の支配を重視しているそうです。強いものが弱いものを振り回すことなど認められないそうです。その言や良し。是非、実行していただこうではありませんか。
法の支配尊重⇒では、大方の憲法学者が「違憲」と認定している集団的自衛権行使を含む安全保障関連法案を撤回していただきましょう。憲法98条・憲法99条の規定を守ってもらいましょう。
※第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
○2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
ちなみに、『法の支配』とは、次のような概念を指します。
「法の支配の原理は、中世の法優位の思想から生まれ、英米法の根幹として発展してきた基本原理である。それは、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理である。~中略~法の支配の内容として重要なものは、現在、(1)憲法の最高法規性の観念、(2)権力によって犯されない個人の人権、(3)法の内容・手続の公正を要求する適正手続(due process of law)、(4)権力の恣意的行使をコントロールする裁判所に役割に対する尊重、などだと考えられている。」
出典:芦部信喜『憲法 新版』(岩波書店 1997年) ・・・・
どうやら、安倍首相は、(1)の憲法の最高法規制の観念などという『法の支配』概念の一丁目一番地は理解されていないようだ。理解していたら、憲法学者の大半が『違憲』と認定している法案を無理にでも成立させようとはしないはずです。
政府は、9日、衆院憲法審査会で三人の憲法学者が他国を武力で守る「集団的自衛権の行使」容認を含む安全保障関連法案を「違憲」と批判したことに対し、合憲と反論する見解を野党側に示しました。与党推薦の学者までが、「違憲」と批判したことで、安保関連法案それ自体の根拠が根底から問われる事態になったのです。自民党も公明党も相当焦っているのでしょう。怪しげな政府見解なるものをでっち上げ、合憲論を展開しています。そもそも、憲法を専門にしている学者の大半が「違憲」と認識しているものを、合憲と言いくるめる事は相当ハードルが高いのです。
案の定、政府見解なるものは、これまで自民党などが示した認識を超えるものではありません。ほとんど論理的に破産しています。その為、「砂川事件」判決を持ち出していますが、これまた、墓穴を掘るに等しい論理です。
1959年の砂川事件の最高裁判決のテーマは、米軍の駐留の合憲性に関するもので、日本国の自衛権に関するものではありません。自衛権に関して言及した部分も個別的自衛権に関するものであると考えられています。逆に、砂川事件の判決は、集団的自衛権を否定するものだという説もあります。
この当時の歴史的経緯を素描しますと、1950年、朝鮮戦争勃発。米国は、日本政府に30万人の再軍備を要求。吉田茂は憲法9条を理由にこれを拒否。(※米国の再軍備要求の目的は、朝鮮戦争を日本兵で戦わそうと意図した。要するに日本人の血を流さそうとした)その穴埋めとして、軍需産業を復活させ、武器弾薬を米軍に提供した。⇒これがいわゆる【朝鮮特需】⇒日本の経済復興の端緒。
★この事実から言える事は、憲法9条が、日本を戦争参加から守ったという事。同時に、この時の吉田茂の対応が、後の日本政府の方法論に大きな影響を与えました。一口でいえば、【軍備=戦争】より【経済=平和】優先という思考方法。
1959年の最高裁の砂川事件判決は、この当時の時代背景(朝鮮戦争後の冷戦時代)もあり、相当いかがわしい判決だと言えます。
1957年の砂川事件(※http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6)で、住民たちは、在日米軍は憲法9条二項に違反する「戦力」に当たるのではないかという訴訟を起こします。一審(通称伊達判決)では、米軍は『戦力』に該当し、『違憲』という判断が下りました。
https://kotobank.jp/word/%E4%BC%8A%E9%81%94%E5%88%A4%E6%B1%BA-93734
この判決に慌てた米国は、日本政府要人(藤山愛一郎外相)と会談、日本政府に高裁を飛ばして最高裁に跳躍上告させ、『合憲』判断を勝ち取るために、様々な工作を行います。結果は、米国の思惑通りの判決が出されたのです。少し、長い引用になりますが、以下の文章を読んでもらえば、よく分かります。
・・・実は最高裁によるこの逆転判決の裏には“日本政府とアメリカの介入”が指摘されているのだ。
そのことを明らかにしたのは、2013年に出版された『砂川事件と田中最高裁長官』(布川玲子、新原昭治・編著/日本評論社)。同書によれば、米軍駐留を「違憲」とした伊達判決が出た翌日にあたる1959年3月31日の午後、東京・アメリカ大使館のマッカーサー2世駐日米大使からワシントンにある国務省のジョン・フォスター・ダレス国務長官へ一通の秘密電報が発信されたという。アメリカ政府解禁秘密文書の秘密区分で「極秘」に指定されているこの文書は、以下のように始まる。
〈(私、マッカーサーは)今朝八時に藤山(愛一郎・外務大臣)と会い、米軍の駐留と基地を日本国憲法違反とした東京地裁判決について話しあった。私は、日本政府が迅速な行動をとり、東京地裁判決を正すことの重要性を強調した。私はこの判決が、藤山が重視している安保条約についての協議に複雑さを生み出すだけでなく、4月23日の東京、大阪、北海道その他での極めて重要な知事選挙を前にした重大な時期に、国民の気持ちに混乱を引き起こしかねないとの見解を表明した。〉
当時、米国務省も国防総省も伊達判決にコメントするのは「不適切」とマスメディアに語っていたが、実際には、伊達判決の直後から密かに外交工作を行っていたことがこの秘密電報の文面からはわかる。
しかも、マッカーサー大使は藤山外相に、論議が長引けば〈左翼勢力や中立主義者らを益するだけ〉と戒め、跳躍上告することを促している。これに藤山外相は〈全面的に同意〉。実際、この藤山外相とマッカーサー大使の面会からわずか3日後には跳躍上告が決まっている。
その日のマッカーサー大使から国務省への「秘」電報には、このように書かれている。
〈外務省当局者がわれわれに語ったところによると、法務省は近く最高裁に提出予定の上告趣意書を準備中だという。(中略)政府幹部は伊達判決が覆されることを確信しており、案件の迅速な処理に向けて圧力をかけようとしている。〉
この時点で、日本政府幹部が司法に「圧力」をかけていると、マッカーサー大使は外務省から聞かされている、というわけである。しかしなぜ、まだ跳躍上告の準備中にもかかわらず、政府は「伊達判決が覆されることを確信」していたのか。その背景は4月24日にマッカーサー大使が国務長官に宛てた「秘」公電を見れば明らかになる。
〈(判決の時期について)内密の話し合いで田中最高裁長官は大使に、本件には優先権が与えられているが、日本の手続きでは審理が始まったあと判決に到達するまえに、少なくとも数ヶ月かかると語った。〉
なんと、最高裁での逆転判決の鍵を握る裁判長・田中耕太郎長官自らが、マッカーサーと「内密」に談合を行っていたのである。あらためて言うまでもなく、評議による裁判中の情報は秘密にしなくてはならない(裁判所法第75条)。しかし田中裁判長は、その後もアメリカ側と度々密会を重ね、情報をリークしていたのだ。
その漏洩内容は恐るべきものだ。同年8月3日に米大使館から国務長官宛てに発信された書簡が、その一部を物語っている。
〈共通の友人宅での会話の中で、田中耕太郎裁判長は、在日米大使館主席公使(引用者註:マッカーサー大使のスタッフだったウィリアム・K・レンハート公使のこと)に対し砂川事件の判決は、おそらく12月であろうと今考えていると語った。弁護団は、裁判所の結審を遅らせるべくあらゆる可能な法的手段を試みているが、裁判長は、争点を事実問題ではなく法的問題に閉じ込める決心を固めていると語った。(中略)裁判長は、結審後の評議は実質的な全員一致を生み出し、世論を“揺さぶる”素になる少数意見を回避するようなやり方で運ばれることを願っていると付言した。〉
田中裁判長は、裁判の争点を直接的背景である日米安保条約における危険性の論議から逸らして法律解釈の問題に限定することで、速やかに結審を下す旨まで報告していたのである。
岸信介内閣が秘密裏に進めてきた安保改定の条約調印は60年1月19日。最高裁判決は59年12月16日に田中裁判長自身が言い渡している。安保改定の反対運動が盛り上がる前に「違憲判決」を覆しておきたかったのだ。
しかも、である。田中裁判長は判決1カ月前にもマッカーサー大使と密談し、その会話のなかで伊達判決の明確な否定と、米軍駐留に合憲判断によってお墨付きを与えることまで公言していたことが、米大使館から国務長官に宛てた極秘書簡によって明らかになっている。
〈田中裁判長との最近の非公式会談の中で、砂川事件について短時間話し合った。(中略)
田中最高裁長官は、下級審の判決が支持されていると思っている様子は見せなかった。それどころか反対に、それは覆されるだろうと思っている印象だった。しかし、重要なのは、15人のうちのできるだけ多くの裁判官が、ここに含まれる憲法上の争点につき裁定することだという印象を私は得た。この点に伊達判事が判断を下したのは、まったく誤っていたのだと彼は述べた。〉
さらに驚くべきことは、外務省はアメリカ側に裁判で弁護団にどのように反論すべきかまで相談をしていることだ。
このことについて詳述しているのは、昨年発売された『検証・法治国家崩壊』(吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司/創元社)だが、同書によれば、最高裁での弁護側の答弁書には、日米安保による米軍の駐留と基地使用によって日本が直接関係のない武力紛争に巻き込まれる危険性が指摘されていた。これに対して検察側は、審理が不利にならぬよう、軍事行動のための基地使用の事実を否定する必要があった。そこで、最高検察庁から弁護団の指摘を聞いた外務省は、マッカーサー大使に相談。米解禁文書から発掘された文書には、〈ときに応じて日本の海軍施設を使うかもしれないが、日本の国内とその付近に配置された米軍とは見なされないし、日本を基地とするものではないということである〉という苦しい言い逃れが書かれている。また、こうしたなかでアメリカの国務長官の指示どおりに検察が虚偽の弁論を行ったことなども「秘」公電によって判明しているのだ。」・・・・
(永井多賀子)http://lite-ra.com/2015/06/post-1175.html 2015.06.10. リテラ
砂川判決の内容それ自体にも非常に問題があります(いわゆる統治行為論)が、それより何より、民主主義の根幹である三権分立制度それ自体が、崩壊していたのではないか、という点が大問題です。
統治行為論というのは、要するに司法権が行政権に屈服したという事を示しています。この判決を安保関連法制の合憲の根拠にしようと強弁している首相や高村氏や政権首脳に聞きたい。
●「あなたがたは、日本の司法が時の権力(米国および日本政府)に屈服した砂川裁判を根拠にするのですか。
●日本の植民地化を証明するような判決を是とするのですか」と。
●そして「それが安倍政権のスローガン【日本を取り戻す】ためにどのような寄与をするのですか」と。
「護憲+BBS」「憲法を考える」より
流水
「私たちには共通の言葉があります。自由、民主主義、基本的人権、そして法の支配。基本的な価値を共有していることが、私たちが結束する基礎となっています。」「力によって一方的に現状が変更される。強い者が弱い者を振り回す。これは欧州でもアジアでも世界のどこであろうと認めることはできません。法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は明確であり、一貫しています。」
出典:産経新聞http://www.sankei.com/politics/news/150609/plt1506090003-n1.html
何とまあ、戦後民主主義者が裸足で逃げ出すほどリベラルな思想です。法の支配を重視しているそうです。強いものが弱いものを振り回すことなど認められないそうです。その言や良し。是非、実行していただこうではありませんか。
法の支配尊重⇒では、大方の憲法学者が「違憲」と認定している集団的自衛権行使を含む安全保障関連法案を撤回していただきましょう。憲法98条・憲法99条の規定を守ってもらいましょう。
※第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
○2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
ちなみに、『法の支配』とは、次のような概念を指します。
「法の支配の原理は、中世の法優位の思想から生まれ、英米法の根幹として発展してきた基本原理である。それは、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理である。~中略~法の支配の内容として重要なものは、現在、(1)憲法の最高法規性の観念、(2)権力によって犯されない個人の人権、(3)法の内容・手続の公正を要求する適正手続(due process of law)、(4)権力の恣意的行使をコントロールする裁判所に役割に対する尊重、などだと考えられている。」
出典:芦部信喜『憲法 新版』(岩波書店 1997年) ・・・・
どうやら、安倍首相は、(1)の憲法の最高法規制の観念などという『法の支配』概念の一丁目一番地は理解されていないようだ。理解していたら、憲法学者の大半が『違憲』と認定している法案を無理にでも成立させようとはしないはずです。
政府は、9日、衆院憲法審査会で三人の憲法学者が他国を武力で守る「集団的自衛権の行使」容認を含む安全保障関連法案を「違憲」と批判したことに対し、合憲と反論する見解を野党側に示しました。与党推薦の学者までが、「違憲」と批判したことで、安保関連法案それ自体の根拠が根底から問われる事態になったのです。自民党も公明党も相当焦っているのでしょう。怪しげな政府見解なるものをでっち上げ、合憲論を展開しています。そもそも、憲法を専門にしている学者の大半が「違憲」と認識しているものを、合憲と言いくるめる事は相当ハードルが高いのです。
案の定、政府見解なるものは、これまで自民党などが示した認識を超えるものではありません。ほとんど論理的に破産しています。その為、「砂川事件」判決を持ち出していますが、これまた、墓穴を掘るに等しい論理です。
1959年の砂川事件の最高裁判決のテーマは、米軍の駐留の合憲性に関するもので、日本国の自衛権に関するものではありません。自衛権に関して言及した部分も個別的自衛権に関するものであると考えられています。逆に、砂川事件の判決は、集団的自衛権を否定するものだという説もあります。
この当時の歴史的経緯を素描しますと、1950年、朝鮮戦争勃発。米国は、日本政府に30万人の再軍備を要求。吉田茂は憲法9条を理由にこれを拒否。(※米国の再軍備要求の目的は、朝鮮戦争を日本兵で戦わそうと意図した。要するに日本人の血を流さそうとした)その穴埋めとして、軍需産業を復活させ、武器弾薬を米軍に提供した。⇒これがいわゆる【朝鮮特需】⇒日本の経済復興の端緒。
★この事実から言える事は、憲法9条が、日本を戦争参加から守ったという事。同時に、この時の吉田茂の対応が、後の日本政府の方法論に大きな影響を与えました。一口でいえば、【軍備=戦争】より【経済=平和】優先という思考方法。
1959年の最高裁の砂川事件判決は、この当時の時代背景(朝鮮戦争後の冷戦時代)もあり、相当いかがわしい判決だと言えます。
1957年の砂川事件(※http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6)で、住民たちは、在日米軍は憲法9条二項に違反する「戦力」に当たるのではないかという訴訟を起こします。一審(通称伊達判決)では、米軍は『戦力』に該当し、『違憲』という判断が下りました。
https://kotobank.jp/word/%E4%BC%8A%E9%81%94%E5%88%A4%E6%B1%BA-93734
この判決に慌てた米国は、日本政府要人(藤山愛一郎外相)と会談、日本政府に高裁を飛ばして最高裁に跳躍上告させ、『合憲』判断を勝ち取るために、様々な工作を行います。結果は、米国の思惑通りの判決が出されたのです。少し、長い引用になりますが、以下の文章を読んでもらえば、よく分かります。
・・・実は最高裁によるこの逆転判決の裏には“日本政府とアメリカの介入”が指摘されているのだ。
そのことを明らかにしたのは、2013年に出版された『砂川事件と田中最高裁長官』(布川玲子、新原昭治・編著/日本評論社)。同書によれば、米軍駐留を「違憲」とした伊達判決が出た翌日にあたる1959年3月31日の午後、東京・アメリカ大使館のマッカーサー2世駐日米大使からワシントンにある国務省のジョン・フォスター・ダレス国務長官へ一通の秘密電報が発信されたという。アメリカ政府解禁秘密文書の秘密区分で「極秘」に指定されているこの文書は、以下のように始まる。
〈(私、マッカーサーは)今朝八時に藤山(愛一郎・外務大臣)と会い、米軍の駐留と基地を日本国憲法違反とした東京地裁判決について話しあった。私は、日本政府が迅速な行動をとり、東京地裁判決を正すことの重要性を強調した。私はこの判決が、藤山が重視している安保条約についての協議に複雑さを生み出すだけでなく、4月23日の東京、大阪、北海道その他での極めて重要な知事選挙を前にした重大な時期に、国民の気持ちに混乱を引き起こしかねないとの見解を表明した。〉
当時、米国務省も国防総省も伊達判決にコメントするのは「不適切」とマスメディアに語っていたが、実際には、伊達判決の直後から密かに外交工作を行っていたことがこの秘密電報の文面からはわかる。
しかも、マッカーサー大使は藤山外相に、論議が長引けば〈左翼勢力や中立主義者らを益するだけ〉と戒め、跳躍上告することを促している。これに藤山外相は〈全面的に同意〉。実際、この藤山外相とマッカーサー大使の面会からわずか3日後には跳躍上告が決まっている。
その日のマッカーサー大使から国務省への「秘」電報には、このように書かれている。
〈外務省当局者がわれわれに語ったところによると、法務省は近く最高裁に提出予定の上告趣意書を準備中だという。(中略)政府幹部は伊達判決が覆されることを確信しており、案件の迅速な処理に向けて圧力をかけようとしている。〉
この時点で、日本政府幹部が司法に「圧力」をかけていると、マッカーサー大使は外務省から聞かされている、というわけである。しかしなぜ、まだ跳躍上告の準備中にもかかわらず、政府は「伊達判決が覆されることを確信」していたのか。その背景は4月24日にマッカーサー大使が国務長官に宛てた「秘」公電を見れば明らかになる。
〈(判決の時期について)内密の話し合いで田中最高裁長官は大使に、本件には優先権が与えられているが、日本の手続きでは審理が始まったあと判決に到達するまえに、少なくとも数ヶ月かかると語った。〉
なんと、最高裁での逆転判決の鍵を握る裁判長・田中耕太郎長官自らが、マッカーサーと「内密」に談合を行っていたのである。あらためて言うまでもなく、評議による裁判中の情報は秘密にしなくてはならない(裁判所法第75条)。しかし田中裁判長は、その後もアメリカ側と度々密会を重ね、情報をリークしていたのだ。
その漏洩内容は恐るべきものだ。同年8月3日に米大使館から国務長官宛てに発信された書簡が、その一部を物語っている。
〈共通の友人宅での会話の中で、田中耕太郎裁判長は、在日米大使館主席公使(引用者註:マッカーサー大使のスタッフだったウィリアム・K・レンハート公使のこと)に対し砂川事件の判決は、おそらく12月であろうと今考えていると語った。弁護団は、裁判所の結審を遅らせるべくあらゆる可能な法的手段を試みているが、裁判長は、争点を事実問題ではなく法的問題に閉じ込める決心を固めていると語った。(中略)裁判長は、結審後の評議は実質的な全員一致を生み出し、世論を“揺さぶる”素になる少数意見を回避するようなやり方で運ばれることを願っていると付言した。〉
田中裁判長は、裁判の争点を直接的背景である日米安保条約における危険性の論議から逸らして法律解釈の問題に限定することで、速やかに結審を下す旨まで報告していたのである。
岸信介内閣が秘密裏に進めてきた安保改定の条約調印は60年1月19日。最高裁判決は59年12月16日に田中裁判長自身が言い渡している。安保改定の反対運動が盛り上がる前に「違憲判決」を覆しておきたかったのだ。
しかも、である。田中裁判長は判決1カ月前にもマッカーサー大使と密談し、その会話のなかで伊達判決の明確な否定と、米軍駐留に合憲判断によってお墨付きを与えることまで公言していたことが、米大使館から国務長官に宛てた極秘書簡によって明らかになっている。
〈田中裁判長との最近の非公式会談の中で、砂川事件について短時間話し合った。(中略)
田中最高裁長官は、下級審の判決が支持されていると思っている様子は見せなかった。それどころか反対に、それは覆されるだろうと思っている印象だった。しかし、重要なのは、15人のうちのできるだけ多くの裁判官が、ここに含まれる憲法上の争点につき裁定することだという印象を私は得た。この点に伊達判事が判断を下したのは、まったく誤っていたのだと彼は述べた。〉
さらに驚くべきことは、外務省はアメリカ側に裁判で弁護団にどのように反論すべきかまで相談をしていることだ。
このことについて詳述しているのは、昨年発売された『検証・法治国家崩壊』(吉田敏浩、新原昭治、末浪靖司/創元社)だが、同書によれば、最高裁での弁護側の答弁書には、日米安保による米軍の駐留と基地使用によって日本が直接関係のない武力紛争に巻き込まれる危険性が指摘されていた。これに対して検察側は、審理が不利にならぬよう、軍事行動のための基地使用の事実を否定する必要があった。そこで、最高検察庁から弁護団の指摘を聞いた外務省は、マッカーサー大使に相談。米解禁文書から発掘された文書には、〈ときに応じて日本の海軍施設を使うかもしれないが、日本の国内とその付近に配置された米軍とは見なされないし、日本を基地とするものではないということである〉という苦しい言い逃れが書かれている。また、こうしたなかでアメリカの国務長官の指示どおりに検察が虚偽の弁論を行ったことなども「秘」公電によって判明しているのだ。」・・・・
(永井多賀子)http://lite-ra.com/2015/06/post-1175.html 2015.06.10. リテラ
砂川判決の内容それ自体にも非常に問題があります(いわゆる統治行為論)が、それより何より、民主主義の根幹である三権分立制度それ自体が、崩壊していたのではないか、という点が大問題です。
統治行為論というのは、要するに司法権が行政権に屈服したという事を示しています。この判決を安保関連法制の合憲の根拠にしようと強弁している首相や高村氏や政権首脳に聞きたい。
●「あなたがたは、日本の司法が時の権力(米国および日本政府)に屈服した砂川裁判を根拠にするのですか。
●日本の植民地化を証明するような判決を是とするのですか」と。
●そして「それが安倍政権のスローガン【日本を取り戻す】ためにどのような寄与をするのですか」と。
「護憲+BBS」「憲法を考える」より
流水
