非国民通信

ノーモア・コイズミ

決断と責任のアウトソーシング

2010-08-23 22:57:53 | ニュース

国民に選ばせる歳出削減策…英でネット投票(読売新聞)

 財政赤字削減を目指す英国の財務省が、国民から公募した歳出カットのアイデア約4万4000件をインターネットのサイト上に公表し、有力な削減策を絞り込む“国民投票”を始めた。

 国民の意見を反映させることで世論をバックに財政再建を目指すユニークな試みとして注目されそうだ。

 英国の2010年度の財政赤字は1490億ポンド(約20兆円)に達する見込みで対国内総生産(GDP)比率は10・1%と、欧州連合(EU)27か国の中で高水準にある。5月に発足した保守党と自由民主党による連立政権は財政赤字削減を最優先課題に掲げ、GDP比率を15年度に1・2%まで下げる目標を打ち出した。そのために、増税と歳出カットの組み合わせで、10~14年度に計約1200億ポンド(約16兆円)の収支改善を目指している。しかし、歳出削減で市民サービスの低下なども見込まれるため、オズボーン財務相は、「(政府の支出も)無駄をなくすと同時に、メリハリをつける必要がある」として国民の知恵を借りることにした。

 イギリスでもこういうことがあるようですが、愚策と言わざるを得ません。挙げられた個々の「アイデア」自体が愚かしいものばかりですけれど、それを差し置くにしても国民に具体策のレベルで判断を仰ぐというのは本末転倒ではないでしょうか。国民は信頼して政治を任せられる人を選び、そうして選ばれた政治家が政策を決定するのが間接民主制というもののはずです。もし国民に具体的な政策を選択させるのであれば国民全員に政治家と同等の政策理解を求めたいところですが、それは国民に取ってこそ負担の大きいことでしょう(私だって関心のあるテーマはともかく、無関心なテーマまでは手を回せませんし)。あるいは国民に政治を勉強させることなしに具体策を選択させるとしたら、それは政治家が責任を放棄して素人判断に任せるということですよね?

 国民が選んだとなれば、その「民意」を後ろ盾として異論を抑え込むことが容易となります。もはや政策の理非を論じる必要はなく、「これが国民の声なのだ」と押し通せば済むのですから。ある意味で日本的な政治手法とも言えますが、イギリスは日本の失敗に学ぶつもりはないのでしょうか。ともあれ、「民意」によって選ばれた政策ともなれば、それに反対の声を上げることは難しくなります。曲がりなりにも国民の声である以上、それを尊重しないわけにもいかないのが政治家の辛いところです。

 財政再建と称して公共サービスを削減した場合、それによって不利益を被る人も当然ながら出てくるわけです。そこで公共サービス削減を決定したのが政治家であるのなら、普通は政治家が不平不満の矢面に立たされます(日本の場合は官邸主導で強引に決められた結果であっても、不平不満は政治家ではなく官僚に向けられる傾向も強いですが)。しかるに、公共サービス削減を政治家の決断ではなく民意の決定という形で断行した場合はどうなるでしょうか? 決めたのは特定の政党や政治家ではない、決めたのは国民なのだ、と。こうなると不平不満が政治家に向かわず、あくまで国民が決めた結果なのだということで批判が飲み込まれやすくなると予想されるわけです。そうなれば政府側としては願ったり適ったりなのでしょうけれど、このような手法を採る政治家は卑怯ですし、決して信用してはならないと思います。

ソフト会社、図書館側に不具合伝えず アクセス障害問題(朝日新聞)

 愛知県岡崎市立図書館のホームページにサイバー攻撃をしたとして男性(39)が逮捕された後、朝日新聞の取材で図書館のソフトの側に攻撃を受けたように見える不具合があることが発覚した問題で、ソフトを開発した三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)は、2006年の段階で不具合を解消した新しいソフトを作っていたことがわかった。

(中略)

 MDISは06年、不具合を解消した新ソフトを開発。東京都渋谷区など全国約45カ所に納入した。しかし、一部では旧ソフトが更新されずに使われ続け、広島県府中市で08年末、石川県加賀市で09年夏、大阪府貝塚市で09年末に閲覧障害が起きた。

 ちなみに冒頭のイギリスの歳出削減案の一つに「コンピューターの基本ソフトの更新頻度を減らしたり~」とありますが、ソフトを更新しないと色々と不具合が起こります。上記の例はソフトが更新されず古いままであったために一般利用者の巡回行為をサイバー攻撃と誤認、逮捕までしてしまったという話です。これもまた酷い話ですが、逆にサイバー攻撃を認識できず、情報漏洩してしまうリスクもまた古いソフトの継続利用には伴うわけです。未だにWindows2000を使い続けている役所も少なくないと聞きますが、歳出削減と称して更新を怠った結果として住民情報を流出させるなんてことがあったら、それこそ目も当てられません。時には政治家までが世論に便乗して「もっと削れるだろう」と素人判断で迫ることも多いですけれど、そのリスクはもうちょっと考えられる必要があります。

 

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4 コメント

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いやあ (Bill McCreary)
2010-08-23 23:47:41
読むだけであまりの選挙民への迎合ぶりに笑っちゃいます。しかしこれが一応民主主義体制を確立した英国の事例ですからね。困っちゃいます。つまり日本だけの問題というわけではないということですね。

>このような手法を採る政治家は卑怯ですし、決して信用してはならないと思います。

間接民主主義というものは、有権者が政治家や官僚と同等の政治や財政その他の知識を持つという仮定は現実的でないからこそ導入されているわけで、このような細かい部分まで政治家らがメニューを用意して国民に選らばせるなんてそりゃ話が違うでしょっていう気がするんですけどね。

それでいて読売の記者は

>ユニークな試みとして

と評する始末。読者がこのようなことをよろこぶことを見こしています。で、読者は(たぶn)よろこぶんですからね。毎度おなじみの光景にうんざりします。
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Unknown (とおる)
2010-08-24 05:55:22
一見すると合理的に見えて、大衆受けしそうな所が最悪な手法ですね。日本でも民主党が真似しそうで怖いです。

現実には、どんな政策でも直接的な受益者は過半数を超えないわけですから、下手をすると大半の政策が否定されます。

この手法の発案者の意図はともかく、明らかに福祉国家から夜警国家へと移行し易い手法です。防衛予算のカットまで出てくるのですから、無政府状態への移行可能性も孕んでいます。

社会の相互扶助の概念も否定され、国民間の分断にもつながりかねません。民主主義国家の自殺ですね。
返信する
同じこと考えたけど、逆に… (Sysuo)
2010-08-24 12:58:17
私も同じことを考えたことがあります。
同じ事って言うのは、国民が直接政策を決められないか…という部分です。
でもおっしゃるように国民の政治知識はそこまで高くないですし、
全員を高レベルにするのは不可能ですよね。
だから専門家として政治家がいるんだと。

しかしそれを考えた時に
政治家が国の為を思ってした政策でも
国民からしたらそれがいい政策かどうかの判断が出来ずに
「なんて愚策だ!」と賛成した政治家を
落選させてしまったりすることもあると思います。
そうすると、直接政策を国民が選ぶでも
政治家を国民が選ぶでも
結局政治知識がないと正しく選択することはできないなと思いました。
それに人柄で判断するなんて、政策を元に判断するよりも遥かに難しいことですし。
しかしやっぱり政治に国民が介入しなくなるとそれはそれで独裁になっちゃうんですよね。
難しいものですね。。
返信する
Unknown (非国民通信管理人)
2010-08-24 13:58:15
>Bill McCrearyさん

 大まかな方向性はいざ知らず、具体策の部分まで素人を介入させるとなると、誤解や偏見に基づいた政策決定が行われるリスクが高まると思うんですよね。しかるに国民の政治否定が強いところでは、政治家や官僚が考えたことよりも民意の多数決の方が歓迎されがちなだけに、そこに政府筋が迎合してしまうと歯止めの掛からないことになってしまいそうです。

>とおるさん

 「民意」を後ろ盾にすることこそ、政府側が最も楽をできる方法ですからね。どれだけ反対意見が出ようとも「民意に逆らうのか」で済みますから。そして公共サービスへの理解がない民意によって軍隊と警察だけの国家に近づく、と。

>Sysuoさん

 逆に政治が自らの負うべき国民に投げ出すことで衆愚政治になるリスクがある、日本(及びイギリス)にとって恐れるべきはこちらの方だと思います。それが国民の生活を破壊する政策であることを判断できず「すばらしい政策だ!」とトンデモ系の政治家を次々と要職に送り込んできたわけですから。
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