Q.東京で風が吹いたときに桶屋はいくら儲かりますか?
残業規制で所得8.5兆円減=生産性向上が不可欠-大和総研試算(時事通信)
残業時間の上限が月平均で60時間に規制されると、残業代は最大で年8兆5000億円減少する-。大和総研は、政府が掲げる働き方改革で国民の所得が大きく減る可能性があるとの試算をまとめた。個人消費の逆風となりかねないだけに、賃金上昇につながる労働生産性の向上が不可欠となりそうだ。
政府は働き方改革の一環として、罰則付きの残業上限規制の導入を目指している。実現すれば繁忙期を含め年720時間、月平均60時間が上限となる。
試算によると、1人当たりの残業時間を月60時間に抑えると、労働者全体では月3億8454万時間の残業が減る。年間の残業代に換算すると8兆5000億円に相当する。
残業時間の削減分を新規雇用で穴埋めするには、240万人のフルタイム労働者を確保する必要があるが、人手不足の中では至難の業だ。
もちろんシンクタンクとは特定のイデオロギーを擁護するのが仕事ですので、多少の無理筋をも厭わず脅し文句を並べ立ててくることもあるのだ、と言えます。曰く「残業時間の上限が月平均で60時間に規制されると~国民の所得が大きく減る」そうで。しかし、大和総研の語る夢はどこまで正しいのでしょうか。
残業時間の規制で残業代が減る――それが成り立つのは、残業代が支払われている場合に限ります。しかし日本では、残業代を支払わなかった程度で経営側が罰則を受けることはきわめて稀です。とりわけ超長時間残業が常態化している会社ほど、不払いも一般的、払われているとしても雀の涙なのではないでしょうか。常人の倍以上の時間を働いているはずの飲食店の従業員が豪邸住まいなら話は別ですが……
とりあえず試算によれば「残業時間の削減分を新規雇用で穴埋めするには、240万人のフルタイム労働者を確保する必要がある」とか。本当に240万人のフルタイム労働者の雇用を生み出すのならば、現政権の働き方改革の賞賛されるべき部分であると言えますが(当然その分だけ「所得」も増えますから)、どこまで上手くいくでしょうね。人件費削減を至上命題にする日本企業がそう簡単に雇用を増やすかは微妙です。
嘘も百回言えば真実となる、とばかりに人手不足を連呼するメディアも多いです。報道側にも色々と思惑はあるのでしょうけれど、職にあぶれている人はいくらでもいます。結局のところは企業側がえり好みしているだけ、「(薄給で無制限に働いてくれる即戦力の)人手が足りない」とワガママを続けているだけ、と言うのが実態でしょう。
人手不足が現実のものであるならば、他社に明確な差を付けた好待遇で人材を奪いに来る会社が出てくる、人材の獲得競争が始まるはずです。しかし、それを日本国内で行っているのは本当に一部の外資系企業ぐらいで、大半の国内企業は横並び初任給と伝統の過重労働を堅持しているわけです。人手不足と言われるのに人の奪い合いは全く起きない、起こそうとする企業もない、それって本当に人手不足なんですか?
どのみち、60時間を越える残業をしないと消費に金が回らないほど賃金が低いとしたら、そっちの方が大問題です。60時間を大きく上回るような残業ありきで従業員の生活が成り立っているのなら、それこそ異常な社会と言えます(まぁ国民の所得もGDPも上がっていないのに内部留保だけは鰻登りという時点で異常には違いありません!)。生産性よりもまず先に、低すぎる日本の人件費を引き上げる、それを企業に「強制」することを働き改革に盛り込んでも良さそうです。
そもそも大和総研と、それを無批判に伝える時事通信の主張が正しいなら、業務の効率化で残業時間を削減することすら即ち「所得が減る⇒個人消費の逆風」になってしまいます。それを避けるためには、非効率的な働き方でダラダラ残業することが求められてしまいますが――まさに21世紀日本の経済言論の水準を象徴している感じですね。
日本経済が衰退していった理由は色々と言われています。説の多くは全くの見当違いなものですし、一見すると妥当に見えても実はミスリーディングになっているものもあります。結局のところ要因は複数あるにもかかわらず、特定の要因だけを衰退の理由に挙げることで他の要因を切り捨てようとする、そうした主張も少なくないわけです。例えるなら誰か一人を「犯人」として検挙し幕引きを計り、共犯者を逃してしまうようなものですね。
まぁ日本経済が駄目になった理由は少なからず頭に浮かびますが、最大公約数的なことを言えば「基準がおかしい」のかも知れません。何をすべきかすべきでないか、何を残して何を切り捨てるのか、何に投資して何を削減するのか――そうしたものを判断する上での基準が根本的に間違っていたからこそ、世界経済の成長とは反対の方向に進んできたのではないか、そう思えてならないわけです。
欧米と違って訴訟リスクも低ければ組合の抵抗も皆無の日本では人員削減もスンナリと進められてしまいますが、恐ろしいのはリストラの結果として経営再建に繋がったと言えるケースがあまりにも少ないことです。日本企業はまるで自分の手足を食べる狂った化け物のごとし、リストラの結果は組織が合理化されるどころか弱体化するばかりだったりします。日本の会社が「不要」と判断した社員こそが本当に必要な人材であり、日本の会社が「必要」と判断した社員は実は組織の癌だったりはしないでしょうか。
つまり、この20年あまりで、日本で「良い」と考えられてきたことが実はダメなことで、逆に「悪い」と言われてきたことこそ、進むべき道で会ったのではないか、みたいな気すらするのです。例えば、「言われたことしかやらないのはダメ」辺りはどうでしょう。大半の日本企業の中では「言われたことしかやらないのはダメ」だと固く信じられているところですが、この考え方こそ致命的な間違いではないかな、と。
「言われたことしかやらないのはダメ」なのだと、そう盲信されている組織の中では必然的に「(言われていないことを)自分で考えて行動する」ことが求められます。だから会社で評価される意識の高い人ほど、他人の言うことを聞かない、素直に言われたとおりのことをやらない、余計なことを勝手にやって組織を混乱させて仕事を増やすことが多かったり等々。ちなみに私の勤務先では、言われていないことを自発的に追加して行動することを「付加価値を付ける」と呼んでいます。
部下の大半が「言われたことしかやらない」組織であれば、必然的に上司は明確な指示を出すことが求められますし、結果が悪ければ責任も明確(上司の支持が悪い!)になります。逆に「自分で考えて行動しなさい」との意識で染め上げられた組織の場合、上司は敢えて曖昧な指示を出し、部下は上意を忖度することが仕事になるわけです。この結果が悪ければ――適切に忖度できなかった部下に問題がある、と。前者と後者、勝てる組織はどっちなんでしょうかね?
「言われたことだけではダメ」信仰は、商品開発なんかにも影響しているのかな、と思います。換言すれば、日本の商品開発現場は「(消費者から)求められている機能だけではダメ」と信じ込んでいるのではないでしょうか。消費者が必要としている機能だけをシンプルに搭載した製品を市場に出してくるのは専ら海外のメーカーで、逆に日本のメーカーは「誰が欲しがっているのか?」と首をかしげる謎機能を山盛りにした製品を連発しているのが現状ですから。日本企業は人件費削減に熱心な反面、「無駄な機能」を削減してコストを抑えようとする発想を持ってはいないようです。そういう思想なのだ、としか言えません。
食料自給率、38%に下落=過去2番目の低水準-政府目標、達成困難に(時事通信)
農林水産省は9日、2016年度の食料自給率(カロリーベース)が前年度比1ポイント下落の38%だったと発表した。天候不良で深刻な米不足となった1993年度(37%)に次ぐ過去2番目の低水準。コメの消費減少が続いた上、台風被害を受けた北海道で小麦などの生産量が大幅に減ったことが響いた。
(中略)
生産額ベースの自給率は前年度比2ポイント増の68%。生産量の減少で国産牛肉の価格が上昇したことが押し上げ要因となった。野菜や果物は輸入額が減り、国内生産額が上昇した。
これは「カロリーベース」と明記してある点では良心的な報道でしょうか。日本が固執する「カロリーベース」での食料自給率が過去2番目の低水準であった一方で、より一般的な指標である金額ベースの自給率は前年度比2ポイント増の68%であったことも伝えられています。報道ではなく生活の中の実感としてはどうでしょう。あなたの身の回りの食材は輸入品ばかりですか? それとも国産品ばかりですか?
「カロリーベース」という奇妙な指標の低迷とは裏腹に、近年は安価な外食チェーン店でも「国産」を売りにしているところが珍しくなくなりました。一昔前のイメージですと「国産=割高」「輸入品=割安」だったのかも知れませんが、現代は事情が違うようです。むしろ世界的に見て日本人の賃金は相対的に安くなり続けているだけに、輸送コストだけではなく生産コスト自体が日本製は安上がり――そういう時代に入りつつあるのかも知れません。
日本の讃岐うどんが将来、食べられなくなるかもしれない。原料となる小麦のほとんどを生産しているオーストラリア西部で農家が作付けをどんどん減らしているのだ。理由を探るため現場の豪州西部を訪れると、豪州の農地や農産物を巡る世界の争奪戦が激化している様子が見えてきた。
(中略)
うどん用にブレンドする小麦の6割を占める、もちもちした食感の小麦「オーストラリアン・ヌードル小麦」(ANW)は豪州の農家にとってはニッチ商品だ。それなのに中国や東南アジア諸国が買う汎用性の高い2つの品種と比べ、11年の買い付け価格は1トン当たり約25豪ドル(約2300円)も低かった。
こちらは2013年時点の報道ですけれど、恐らく現在はもっと事態が進行していると推測されます。うどん用の小麦でも「国産」を使用していると謳う飲食店は多くなりましたが、その辺の裏事情はいかがなものでしょうか。「国産」を看板に掲げることでプレミア感を演出する、国産信仰を今なお堅持する頭の古い人を惹きつける意味合いもあるのかも知れません。しかし、表に出てこない理由としては日本の購買力の低下がある、もはや日本の経済力では外から小麦を自由に買えない、むしろ日本の低廉な労働力で生産した国産品の方が安上がり――そうした側面もあるのではないかと。
外国人技能実習生の受け入れに関する違反は、2016年に表面化しただけでも4000件を超え、過去最高を記録したそうです。ただこの辺も、食糧自給率と同じで将来的には解決されるのではないかな、と思います。つまり経済力が衰退し購買力が低下した日本では、外国から食料を買うより国内で生産した方が安上がりになる、結果として金額ベースでの食糧自給率が向上しつつあるわけですが、労働力でも遠からず同じことが起こるのではないかと考えられますので。
そもそも中国企業が日本に工場を建て、初任給40万円の求人を出す時代です。今や中国でも一流企業ならば日本企業より高い給与を支払っているのです。そして低コストを見込んで中国に工場を建てた日本企業が人件費の急上昇に四苦八苦していたりもします。これまで日本が人身売買の「買う側」であったのは、日本が経済力の面で優位にあったからに他なりません。しかし日本の経済的優位が失われた先はどうなるでしょう。日本よりも中国の都市部や韓国にでも行った方が稼げるようになれば、敢えて日本に来るのは生粋のオタクぐらいです。いずれ技能実習生は、日本になど来なくなります。そうなったらまぁ、この人権問題も解決ですね。めでたし、めでたし。
ついでになりますが、昨今は工業製品などでも「Made in Japan」を見かける機会が増えてきたように思うんですよね。四半世紀ばかり前までなら、品質の高さで市場を支配している日本製を見かけることが多いのも当然と言えます。そこから「日本製」の品質的な優位が失われて、単に割高なものでしかなくなった時代があったわけです。そして現代は、低コストな日本製は割高ではなくなりつつあるのでしょう。むしろ外国製品すなわち「舶来品」を高級品として、ありがたがらなければならない時代に進みつつあるのかも知れません。
安倍晋三首相、消費税10%増税は「予定通り」 デフレ脱却最優先で
安倍晋三首相は5日、読売テレビの番組に出演し、2019年10月に予定している消費税率10%への引き上げについて「予定通り行っていく考えだ」と明言した。10%への引き上げをめぐっては当初、平成27年10月の予定だったが、2度にわたって延期した。
一方、景気については「デフレマインドを払拭するには至っていない。デフレから脱却すれば税収が安定的に増えていく」と述べ、デフレ脱却が最優先であると重ねて主張した。
先週は、安倍政権の賃上げ目標を「中小企業に重荷!」と批判するメディアを取り上げましたが、まぁ批判するにも「右から」か「左から」で全く内容は変わるわけです。そして現政権に批判的なメディアや政党も存在していますが、総じて「批判する方向を180°変えた方が良いのではないか」と思えるものが多いですね。安倍政権を批判する人の主張を聞くほど、安倍政権の方が相対的にマシと感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
……で、上記引用にて伝えられている通り、消費税率10%への引き上げについて「予定通り行っていく考えだ」と首相自ら明言したそうです。これまでの延期の判断は正しいものだと考えられますが、それを批判する人もいました。消費税率の引き上げ延期を批判していた人は、今回の引き上げ宣言をどう評価するのでしょう。安倍内閣が引き上げに動くなら、今度はそれに反対する、みたいな節操のない人も多そうですが。
ともあれ安倍首相は、この場面で「デフレ脱却が最優先である」とも主張したことが伝えられていますし、別の場面では「経済最優先」という言葉をよく使います。しかし安倍内閣の最大の問題は、実際には経済最優先ではない、デフレ脱却最優先ではないことにあるのではないでしょうか。ちょっと景気が上向いて支持率が良い方向に動くと、改憲などの趣味に走る、お友達へのサービスを優先してしまう、それが実態ですから。
消費に課税する、なんてのはデフレ脱却とは絶対に相容れない狂気の沙汰でしかありません。過去3回の消費税増税はいずれも景気を致命的に悪化させて来ました。デフレ不況を放置し国民が経済苦に喘ぐ様を高台から見下ろしてきた政党・政治家や省庁が消費税増税を説くのは、筋としては通ります(野田佳彦とか財務省とか)。しかし曲がりなりにもデフレ脱却を「最優先」と語りながら消費税増税を約束するというのでは、「頭は大丈夫ですか?」と問われるのが当然のレベルです。
「ちゃんと経済を優先しろ」と、そう批判する勢力が国会なり大手メディアなりに欲しいと願うばかりですが、いかがなものでしょう。安倍政権批判につなげられれば主張の中身はどうでも良い、みたいな反政府勢力はいますけれど、そういう類いは安倍内閣を「他の内閣よりよさそう」と思わせるだけの存在にしかなっていません。むしろ経済的な豊かさを追うことをネガティブに捉えている人も今なお幅を利かせているところがありまして、まぁ説得力のある政府批判は盛り上がりを欠くばかり、そうなると不祥事叩きぐらいしかなくなるわけですが……