非国民通信

ノーモア・コイズミ

アメリカ第一主義と自国第一主義

2023-11-26 21:42:00 | 政治・国際

 さて海外に目を向けますとブラジルやスロバキアなど国際協調路線の政党・政治家が政権を奪取することもあれば米国追従路線の政治家が勝ってしまうこともあるなど、まだまだどちらに転ぶかは定まらない状況です。後者の代表としては「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれるハビエル・ミレイ候補が大統領選に勝利したアルゼンチンでしょうか。

 なんでも中央銀行を廃止して米ドルを法定通貨にしたいとのこと、経済的に弱い国が自国通貨を放棄するとギリシャのようになる、自国民ではなく国外の投資家を保護することが優先されるようになるわけですが、経済学の宗教的観点からはそれが正しいのかも知れません。そもそもギリシャだってアルゼンチンだって結局は日本よりも経済成長率が高いですので、まだまだ最悪の政策には遠いとも言えます。

 ともあれミレイ氏の主張としては米ドル化によってアメリカに首を差し出す一方、加盟申請中であったBRICSからは距離を置くとも伝えられる等、自国がどちらの陣営に属するかを明確にしているという点では日本外交とも方向性が一致しているところです。ともにアメリカ第一主義を奉じるもの同士、日本とアルゼンチンの関係に限っては良好なものが築けるような気がしますね。

 

トランプ氏、米大統領返り咲きならIPEF破棄へ(ロイター)

[フォートドッジ(米アイオワ州) 18日 ロイター] - トランプ前米大統領は18日、2024年の大統領選で返り咲きを果たせば、日米など14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を破棄する方針を示した。

トランプ氏は野党共和党内で最有力の大統領候補となっている。

アイオワ州の支持者に対し、バイデン政権が推進しているIPEFは米製造業界を空洞化させ、雇用喪失につながると主張した。

環太平洋連携協定(TPP)からの米離脱を主導したトランプ氏は、IPEFを「TPP2」と呼び、大統領に就任次第「たたきのめす」と強調。

 

 本来TPPはアメリカが離脱するまで「中国を外した連合」であり、IPEFもまたTPPに代わる「中国を外した連合」としてバイデン政権が腐心して作り上げたものですが、これを本家トランプは破棄する方針なのだそうです。3年前のアメリカ大統領選挙の当時、ロシアでも中国でも世論調査ではトランプの再選を望む声の方が強かったと聞きますが、その辺の理由が伺われるところでしょうか。

 TPPやIPEFを否定する理由として「米製造業界を空洞化させ、雇用喪失につながる」とトランプは主張しています。そうした側面はあるのかも知れませんけれど、それでもバイデン政権は中国を切り反した経済的枠組み構築のためならばデメリットは許容されると判断して推進してきたわけです。しかるにトランプ流の「アメリカ第一主義」と反中包囲網の構築が相容れないものになっている、と言えます。

 アメリカの覇権は、アメリカ一国の力によって成立しているものではありません。アメリカに付き従う多数の衛星国があってこそアメリカは偉大な国でいられるのです。もしアメリカが敵視する国に何らかの制裁措置を科したとしても、日本やヨーロッパ諸国が同調することなく自由な経済取引を続けるとしたら、それは大して効力を持ち得ません。しかし実際は日欧諸国がアメリカの意向を受け入れて同様の制裁を「アメリカの敵」に課すからこそ、アメリカは偉大な国なのです。

 ただ世界を支配する偉大な国であるためにはコストもかかる、世界各国に軍隊を派遣し、経済的枠組みを主導して支配体制を維持する必要があるわけです。バイデンはアメリカが偉大な国であるためいかなるコストの支払いをも厭わない一方で、トランプはそのコストの支払いを自国の損と勘違いしている、偉大な国であり続けるための対価を削減することがトランプ流の自国第一主義なのだと言うことが出来ます。

 一方ヨーロッパでもEUやNATOなどの陣営構築に背を向ける新たな右派勢力が台頭しています。日本のようにアメリカを盟主とする陣営の勝利のためには対価の支払いを惜しまない国家がある一方で、純粋に自国の損得だけを考え「陣営」の利害を省みない政治勢力が伸張しているわけです。バイデンや日本政府が自国よりも「自陣営」を優先するのに対し、トランプや新時代の右派はより狭く自国だけを見る、そうした変化は着実に広がっています。

 日本やアルゼンチンなど旧時代の枠組みに止まる国家は今なおアメリカ「陣営」の勝利を重んじる、アメリカの敵を利する行為を避けることを優先する一方で、ヨーロッパでは「アメリカの意向に囚われず」自国の利害を第一に唱える方向にシフトしつつあるのが現状です。どちらも国際協調路線からはほど遠いと言えますが、アメリカによる支配を前提とした前者に比べれば後者の方がまだしも、平和的なところはあるのかも知れません。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Boys be strong

2023-11-19 22:06:53 | 社会

「男性専用車」登場 知ってほしい痴漢冤罪の不安 18日に都電荒川線(産経新聞)

 11月19日の国際男性デーを前に、NPO法人「日本弱者男性センター」が18日、東京さくらトラム(都電荒川線)を借り切って、「男性専用車両」を走らせる。「異性からの性被害」や「痴漢の冤罪(えんざい)被害」など男性も電車内で不安や恐怖を抱えていることを社会に伝えるイベントで、担当者は「趣旨に賛同してもらえるなら性別問わず乗車できる。真の男女平等を考える機会にしてほしい」と呼びかけている。

 昨年の国際男性デー、父の日にちなんだ今年6月に続き、今回が3回目となる「男性専用車両」の運行。

 主催する同センターは、社会的に弱い立場にいる男性を支援するために結成された団体だという。

 

 第一印象としてはミソジニストのジョークみたいにも感じたところですが、これを実現させた人がいるようです。大半の人はネットで悪口を言っているだけで完結する中、NPO法人を設立し、公共交通機関を貸切にしてまでイベントを開催しているあたり、その行動力は賞賛されるべきでしょうか。親から継いだ家業でもないのに政治家になれるのは、こういう人なんだろうなと思いました。

①痴漢の訴えも死刑判決も、いずれも冤罪の可能性がある
②痴漢の訴えには冤罪の可能性がある、死刑判決は正しく犯人を裁いている
③痴漢の訴えに間違いはなく捕まっているのは犯人、死刑判決には冤罪の可能性がある
④痴漢の訴えも死刑判決も、正しく犯人を裁いている

 ……痴漢と死刑、冤罪を巡っては概ね4通りの世論があると言えます。感覚論としては②と③の合計が①と④の合計を大きく上回る印象ですけれど、いかがでしょう。痴漢に関しては冤罪の可能性を声高に叫ぶ一方で死刑執行に関しては異議を持たない、逆に死刑判決については冤罪の可能性を指摘する一方で痴漢に関しては被疑者を犯人と同一視することに何の躊躇もない、そんな人々を随所で見かけます。

 殺人と性犯罪のどちらが重いかと言えば前者のはず、しかるにフィクションの中で人を殺しても有害図書指定を食らうことはまずあり得ないのに、フィクションの中で性犯罪を描写すれば販売に制限が課されたりします。「性」が絡むと基準は揺れ動く、ある意味で面白い話です。日頃は推定無罪の原則を支持している人が、性犯罪を裁く法廷で「疑わしきは罰せず」の判決が下るや怒りを露にする等々、性とはかくも不思議なものと言えます。

 まぁウクライナのクーデターは無条件で受け入れながらミャンマーのクーデターには制裁措置で応じたり、ウクライナの反転攻勢には拍手喝采しながらハマスの反転攻勢にはテロ行為とレッテルを貼って非難する等々、その時々でスタンダードを使い分けるのは人権を重んじる西欧諸国では当たり前のことです。一介の民間人が性の絡む犯罪とそうでないものとで矛盾した主張を繰り出したところで、決して驚くような話でもありません。

 なお私が女性専用車両に言いたいこととしては「空いている女性専用車両にお回りください」でしょうか。どうも男性専用車両以前に女性専用車両だって需要は決して大きくない、わざわざ女性専用車両に乗ろうとする女性は多くない現実があります。一つ隣の車両が女性専用車両で空いているにも関わらず、混雑する「共用」車両に体をねじ込んでくる女性を見ると男性としては苛立ちを覚えるのですが、当の女性からすれば女性専用車両など知らない、空いていようが混んでいようが乗りたい車両に乗る、という感覚なのだと思います。

 女性専用車両ですら他の車両より乗る人が少ないことを鑑みれば、男性専用車両なんて尚更に需要は少ないことでしょう。でもまぁ、利便性の話ではなく主張として訴えるだけなら尊重はされるべきなのかも知れません。あるいは男性専用車両が女性専用車両のように他の車両よりも空いた車両になるのなら、私は乗りたいです。男性専用車両だろうが女性専用車両だろうが日本人専用車両だろうが、結局は空いている車両が一番ですから。

 それはさておき痴漢を「する」か「しない」かは自由に選ぶことが出来ます。そして大半の痴漢など「しない」人にとって被害者の訴え一つで事実上の犯人認定される、私人逮捕に等しい状況に追い込まれる現状はどう映っているのでしょうか。そこで冤罪が生まれる可能性がどれほど低いとしても、痴漢「しない」人にとっては純然たるリスクでしかないはずです。被害者の主張を信頼し第三者による犯行の立証を省略することにはメリットもあるのかも知れませんが、それを享受するのは痴漢「しない」ひとではありません。

 ちなみにこちらは私の通勤風景です。よく「女性を狙ってぶつかってくるおじさん」なんてのが話題になりますけれど、吹けば飛ぶような男性に対してはぶつかってくる女性も珍しくありません。男も女も、そんなに違いはないと電車に乗る度に痛感します。人間の世界は弱肉強食、「弱い」人間は蔑ろにされるものなのでしょう。痴漢されることが多いのはセクシーな女性ではなく、「弱そうな」女性だというのが定説です。それが人間の世の中なのだと思います。

 一方2006年には特急内で周囲の誰からも制止されることなく女性を強姦したなんて事件が話題になりました。痴漢も被疑者が「弱そう」なら告発するのも容易い、周囲の乗客も喜んで身柄の拘束に協力してくれるものですが、被疑者が「強そう」だと誰もが沈黙してしまうのでしょう。私が教育者であったなら、巣立っていく生徒達には"Boys be strong"と伝えるところです。痴漢されたくなければ強くあれ、痴漢の被疑者として名指しされたくなければ強くあれ、これが日本の現状です。

 少し前には「上級国民」なんて言葉が流行りました。権力という「力」を持った人であれば警察からも手心を加えられる、少なくとも他人からそう見えているところがあるわけです。暴力なり権力なり、「力」のある男性であれば、自らが痴漢の被疑者として告発されるリスクは小さい、警察や駅員も自信の釈明に耳を傾けてくれると感じていることでしょう。しかし力のない「弱い」男性からすると、もし自身が痴漢の被害者として告発されたら周りは誰も助けてくれないとの確信がある、それが「弱者男性」と女性の意識の違いにも繋がっているのかも知れません。

 男性専用車両云々はナンセンスとも感じますけれど、まぁ現状が良いものではないというところは共感できます。痴漢が多発するのも問題ですし、推定無罪の原則が適用除外となるのも問題です。おかしな話は、いくらでもあります。そもそも衆人の監視が行き渡らないほどの混雑が容認されたまま、コロナ禍の一時的な乗客減にかこつけて減便されたおかげで痴漢はやりやすいまま、というものいかがなものでしょうか。もちろん被疑者が「強そう」なら無意味とも言えますが、混雑緩和は対策として第一に挙げられるべきです。

 あるいは被害者が犯人を捜し、被疑者が自信の無罪の証明を求められるというのが前時代的とも言えます。被害者は自らの被害を訴え、第三者が公正に犯人を捜し、検察が有罪を立証、それが適切に行われなければ罰せず──というが本来の司法であるはずです。「この人痴漢です」と誰かを犯人として名指す行為と「私は痴漢されてます」と庇護を求めるのでは全く違いますが、しかるに現状は被害者の保護と犯人を罰することが現状は不可分になっているのではないでしょうか。被害者を無条件に保護しつつ被疑者はあくまで推定無罪の原則に沿って扱う、そもそも誰を被疑者とするかは第三者が公正に判断する、というのが正しいように私には思われるのですが、現代の運用は実に野蛮です。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野党共闘

2023-11-18 22:35:42 | 政治・国際

京都・八幡市長選は自立公推薦候補勝利 「談合批判は時代遅れ」と西田会長(産経新聞)

 前市長の辞職に伴う京都府八幡市長選は12日投開票の結果、無所属新人で元京都市職員の川田翔子氏(33)=自民、立憲民主、公明推薦=が勝利した。川田氏は10月末に辞職した堀口文昭前市長(71)の後継候補で、国政与野党3党の支援を受けながら手堅い選挙戦を展開した。川田氏は12日夜、「市政を担っていく責任感と使命感に打ち震える思い。全ての世代に寄り添い、成長をつかめるまちづくりをしたい」と意気込みを語った。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野党第一党

2023-11-12 21:44:28 | 政治・国際

 岸田内閣の支持率は着実に下がっているようで、それ自体は残念でもないし当然という他ないのですが、今後はどうなるのでしょうか。これが別の政権に替われば何かが良くなると期待できるものであれば火が付くこともありそうなところ、しかるに総理の座に近い人や現有議席の多い政党ほど、事態を余計に悪化させそうな気配を漂わせてもいます。岸田総理には早く退陣して欲しい、しかし次が○○では……みたいなジレンマがある、というのが私の現時点での見解です。

 地方選挙まで視野に入れていますと、与党の一員として自民党と手を携えて共産党と戦っている民主党が政権交代だの野党共闘だのと唱えること事態がお笑いぐさなのですが、少なくとも民主党支持層は地方選挙と国政選挙は完全に別のものと割り切っているように見えます。見たくないものは見ないだけなのかどうかは知りませんけれど、いわゆる「浮動票」の目線からはどう映っているのでしょうね。まぁ地方選挙なんて知らない、メディアを賑わす国政選挙までしか関心のない人の方が多数派なのかも知れません。

 私が野党第一党である立憲民主党を政権交代のために支持するとしたら、「過去への反省」を条件にします。たとえば過去の民主党は民法改正(選択的夫婦別姓)を何度となく国会に提出してきたのですが、いよいよ政権交代が現実的となった2009年に公約集から夫婦別姓案を削除しました。そして民主党が政権を握った後、野党時代に自らが提出してきた民法改正が進められることはなく、今に至るわけです。

 今、下野した立憲民主党は選択的夫婦別姓を含む民法改正案の国会提出を再開しています。なぜ政権交代前夜に取り下げ、自らの与党時代に封印していた改正案を野党になってから再燃させたのか、そこには納得のいく説明が求められるはずです。立憲民主党の広報ページには選択的夫婦別姓の実現をめざすと称してQ&Aなども掲載されていますけれど、「なぜ与党時代に封印していたのか、なぜ下野してから再開したのか」についての説明はありません。

 民主党政権が犯した数限りない過ちの中でも、とりわけ大きなものとして消費税増税の決定が挙げられます。この野田内閣時代の決定は安倍政権時代に遅れながらも施行され日本経済の足枷となってきたわけですが、その民主党側の評価はどうなのでしょう。ライバル政党の成功を阻むのが野党にとっての成功であるならば、事前に埋設しておいた地雷によって安倍内閣での景気回復を頓挫させたことは成功であったのかも知れません。しかし、犠牲になったのは国民でもあります。

 民主党はアベノミクスの成功を阻むことには成功したわけですが、そのために日本経済ひいては日本で働き暮らす人々に多大な犠牲を強いました。だからもし民主党が再び国民の支持を得ようとするのであれば、自らが決めた消費税増税の過ちを認め、謝罪することがスタートラインであるべきです。消費税増税を決めた当時の首相や経産相を戦犯として党から除名、公に断罪し、政策を改めることを誓うことで、ようやく野党第一党として政権交代を担う資格も現れてくることでしょう。

 

立憲、新経済政策で脱「消費減税」 財政規律重視し責任政党アピール(朝日新聞)

 立憲民主党が新たにまとめる中長期の経済政策に、これまで掲げてきた消費減税を明記しないことがわかった。他の野党がこぞって消費減税を掲げる中、「バラマキ」とは一線を画すことで責任政党だとアピールする狙いがある。だが、党内には野党の選挙協力への影響を懸念する声もある。

 中長期の経済政策は、泉健太代表が10日にも発表する。立憲は2021年衆院選と22年参院選で、「5%への時限的な消費減税」を掲げたが、いずれも議席を減らす結果となり、枝野幸男前代表は昨秋、ネット動画で「政治的に間違いだった」と総括していた。

 

 ……そして主要メディアでは最も民主党に親和的な朝日新聞の記事がこちらです。ある意味で今回の姿勢は潔いと言いますか、消費税増税を決めた政党として一貫性を見せたものと評価して良いと思います。これまでの実態と主張が異なる嘘つき路線より、公然と財務省シンパの党として振る舞ってくれた方が正直で好感が持てる、というのが私の印象ですね。もちろん支持はしませんが、嘘つきではなくなった分だけ尊重できるようになりました。ただ、この党が自民党に代わっても意味がないこともまた明確になったわけです。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

驕りと慢心の集い

2023-11-05 23:31:10 | 政治・国際

日本産水産物の輸入停止「即時撤廃」を要求、G7貿易相会合が共同声明採択(読売新聞)

 大阪市と堺市で開かれていた先進7か国(G7)貿易相会合は29日、中国やロシアを念頭に、日本産水産物の輸入停止措置について即時撤廃を求める文言を盛り込んだ共同声明を採択し、閉幕した。

 声明では、中露の名指しを避けたが、「G7は新たに導入された日本の食品への輸入規制を含め、不必要に貿易を制限するいかなる措置も直ちに撤廃されることを強く求める」と明記した。中国は8月、東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出を受けて日本産水産物の輸入を全面停止し、その後にロシアも同調した。

 このほか、声明では貿易の抑制で他国に圧力をかける「経済的威圧」への懸念を改めて表明し、市場の公平な競争をゆがめる政府による不透明な産業補助金への対応方針も示した。

 

 先週の話ですが、G7会合にて「中国やロシアを念頭に、日本産水産物の輸入停止措置について即時撤廃を求める文言を盛り込んだ共同声明」が採択されたそうです。近年は新興国の発展によってG7構成国が占める世界的地位も地盤沈下しつつある、とりわけ日本が顕著に衰退している中で、これまで以上に排他的仲良しサークルとしての性質を露にした会合であったと言えるでしょうか。その声明に説得力を感じる人がG7の「外」にどれだけいるのか、今となっては大いに疑わしいところです。

 日本産水産物の輸入停止措置については科学や健康の問題ではなく、純粋に政治の問題であることは考えるまでもないでしょう。処理水の放出は口実に過ぎない、理由は別のところにあります。輸入停止措置を取っている二国とも、日本が禁輸措置や制裁措置を科している国であり、その報復として何かが返ってくるのは至極当然のことです。しかるに「なぜ中国やロシアが輸入停止措置に至ったか」を考えずに一方的な非難声明を出して終わっているわけで、これでは物事を解決するよりも単純に相手国を侮辱する結果にしかなりません。

 

(ガザの衝撃 問われる世界)報復の果てに平和はない 中東アフリカ総局長・武石英史郎(朝日新聞)

 暴力が歯止めを失い、あまりに多くの命が奪われていく。ガザをめぐる不条理が止まらない。

 きっかけはイスラム組織ハマスのイスラエルへの攻撃だ。

 

 どういうわけか朝日新聞は「右」から毛嫌いされています。しかるに主要紙の中で最も親米色が強く「自陣営の」戦闘行為を正当化する度合いが高いのもまた、この朝日新聞ではないでしょうか。そんな朝日新聞が平和を願う風を装って1面に掲載した記事がこちらで、曰く「きっかけはイスラム組織ハマスのイスラエルへの攻撃だ。」とのこと。これまでイスラエルがガザ地区の住民に何をしてきたのか──それは完全に朝日新聞社員の意識の外にあるようです。

 ウクライナを舞台にした戦争も然り、最低でも2014年のクーデターや、その後のロシア系住民への弾圧ぐらいから振り返らないと「今」起こっていることには理解が追いつかないと言えますが、朝日新聞を筆頭に2022年から突如として戦争が始まったかのごとく読者をミスリードしていくメディアは多いです。「それ以前の」歴史を無視して2023年10月から戦闘が始まったかのように伝えれば、ハマス側に原因があるように見えるかも知れませんけれど、このような報道は読者を誤解させるものでしかないと言えます。

 中国やロシアとの輸出入関係も然り、日本側が中露との輸出入において何を禁じてきたかは、前提条件として意識されるべきでしょう。アメリカの意向に沿って中露の企業を日本市場から締め出してきた、中露両国が望む輸出入取引に制限を課してきたのが我が国です。その報復措置として日本産水産物の輸入停止措置が行われたのならば、この程度の「反撃」は甘受すべきであってそれを非難するのは筋が違います。即時撤廃を求めるのならまず日本が相手に課している不当な措置を解除するのが先と言うほかありません。

 数あるノーベル賞の中でも最も政治色の濃い文学賞では、ソ連/ロシアで弾圧されたという華々しい金看板で受賞を飾る人も目立ちます。今年もその種のノミネートがあったようですが、しかし「弾圧」とは何だろうと時に首を傾げるところがないでもありません。ウクライナを舞台にした戦争が始まったとき、NATO諸国では少なからぬロシア人が踏み絵を迫られました。ロシア批判を公言しなかったことで契約を解除され地位を追われたロシア人もいれば、プーチン大統領に親しいと一方的に決めつけられて財産を差し押さえられたロシア人もいたわけです。それは弾圧ではないのか?と。

 ロシアの企業の中には弾圧に屈して活動の拠点を国外に移し、ロシア批判を公に掲げることで西側諸国での活動を許されているケースもあります。その一方で踏み絵を拒んで西側市場から締め出されているものも多く、果たしてどちらが弾圧と戦っているのかを鑑みると、むしろ後者を応援したくなる気持ちすらあります。「西側」の人間にとって弾圧とは「向こう側」の国で行われるものであり自分たちの世界には存在しないと思い込んでいるようです。しかし実態はいかほどのものでしょうか?

 アメリカとその衛星国は、自陣営が一方的に制裁を科すことを当たり前と感じています。だから中国やロシアに課しているいかなる制裁措置も、何ら顧みるようなものではないわけです。そこで相手国が報復として今回のような輸入停止措置に走ると、あたかも急に攻撃を仕掛けられたかのような勘違いが生まれてしまうのでしょう。しかし現実は違う、先に仕掛けたのは自陣営の側であって、「今」起こっていることはその延長線上にあるということを認めない限り、解決策に辿り着くことは永遠に出来ないと言えます。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする